ビッグファイブと結婚満足度 その2

前回はビッグファイブ分析と結婚満足度に関しては、
5つの特性のうち、神経的傾向と誠実性が特に関連しているというものでした。
神経症的傾向が高いと満足度が低くなる傾向があり、
誠実性調和性外向性の高い人は満足度が高い傾向となる等結果です。

今回は「性格特性と結婚満足度の関係: システマティックレビューとメタ分析」
という研究論文から、
性格特性と結婚満足度の相関を調査したイランの研究をレビューし、
統合的に分析することを目的としています。

※補足:ビッグファイブ性格特性とは?

人間の性格を5つの大きな特性で説明するモデルです。
各特性は連続的で、どの程度その特性を持つかが個人によって異なります。

参加者の性格特性は以下の5つの領域で測定されました。

  • 外向性(Extraversion): 外交的、活発的な特性
  • 調和性(Agreeableness): 協調的、共感的な特性
  • 誠実性(Conscientiousness): 計画的、責任感のある特性
  • 神経症的傾向(Neuroticism): 感情の不安定さ、ストレス耐性の低さ
  • 開放性(Openness to Experience): 好奇心旺盛で新しい体験に対して前向き

ビッグファイブは、人がどんな性格かを5つの特徴で大まかに説明できるモデルです。
これを知ることで、自分の強みや課題、他の人との違いを理解しやすくなります。

ビッグファイブと結婚満足度

神経症傾向(Neuroticism)

  • 相関:負の相関 (r = -0.439, 95%信頼区間: 0.27~0.60)。
  • 解釈:神経症傾向が高い人は、
    感情的に不安定でネガティブな感情(怒り、不安、憂鬱)を抱きやすく、
    これが結婚満足度を低下させる。

外向性(Extraversion)

  • 相関:強い正の相関 (r = 0.833, 95%信頼区間: 0.77~0.88)。
  • 解釈:外向性の高い人は積極的で社交的なため、
    配偶者との良好な関係を築きやすい。

開放性(Openness)

  • 相関:正の相関 (r = 0.777, 95%信頼区間: 0.70~0.84)。
  • 解釈:好奇心が強く柔軟性のある人は、
    関係の中で新しい経験を受け入れやすく、良い結婚関係を構築できる。

協調性(Agreeableness)

  • 相関:非常に強い正の相関 (r = 0.855, 95%信頼区間: 0.80~0.90)。
  • 解釈:親切で寛容な人は配偶者との衝突が少なく、
    結婚満足度が高い。

誠実性(Conscientiousness)

  • 相関:最も強い正の相関 (r = 0.900, 95%信頼区間: 0.84~0.95)。
  • 解釈:責任感があり計画的な人は、
    関係の課題に積極的に取り組むため、結婚満足度が高い。

ビッグファイブの各特性に関連する具体的な議論

神経症傾向(Neuroticism)

高い神経症傾向を持つ人は、結婚関係において以下のような問題を引き起こしやすいとされています:

ネガティブな解釈:曖昧な状況を否定的に捉える傾向。

感情的な不安定性:配偶者に対して怒りやイライラをぶつけやすい。

性的満足度の低下:性的な不満が全体的な結婚満足度を低下させる。

攻撃的な行動:衝突時に攻撃的な対応をしやすい。

これらの特徴は、結婚関係の質を直接的に低下させる要因として言及されています。

外向性(Extraversion)

外向性の高い人は、ポジティブな感情や社交性が結婚満足度を高めるとされています:

高いエネルギーレベル:積極的にパートナーシップを築く意欲。

楽観的な性格:困難な状況でも建設的に対処する姿勢。

社交的ネットワーク:友人や家族との良好な関係が夫婦関係をサポート。

開放性(Openness)

開放性が高い人は、好奇心旺盛で柔軟性があるため、新しい経験を共有することで結婚関係が深まると指摘されています:

創造性:新しい趣味やアイデアを共有することで関係を活性化。

多様性の受容:文化や価値観の違いを理解しやすい。

協調性(Agreeableness)

協調性の高い人は、以下の理由で関係にポジティブな影響を与えます:

共感能力:パートナーの気持ちを理解し、衝突を回避。

寛容さ:小さな問題を大きくしない姿勢。

利他的行動:配偶者を喜ばせるための行動を積極的に取る。

誠実性(Conscientiousness)

誠実性が最も結婚満足度に寄与するとされており、
その理由として以下が挙げられます。

責任感:夫婦関係の課題に対して計画的に取り組む。

衝突の管理:感情をコントロールし、冷静に対応。

信頼性:配偶者から信頼されやすい。

サブグループ分析に基づく追加知見

  • 対象者の違い
    • 公務員グループと一般住民グループの両方で、
      誠実性と結婚満足度の相関が最も高いと報告されています。
    • 神経症傾向は両グループで結婚満足度と最も低い相関を示しています。
  • 地域による違い
    • すべての地域で、誠実性が結婚満足度と最も高い相関を示しました。
    • 地域間で神経症傾向の影響に若干の差異が見られ、
      文化や環境要因が影響している可能性が示唆されています。

職業で分けた理由

  1. 職業によるストレス: 公務員は安定した職業特性が結婚満足度に影響する可能性があり、
    一般住民は多様な生活状況の影響を受ける。
  2. 比較の明確化: 公務員の統一された環境と一般住民の多様性を比較することで、
    影響要因をより正確に分析する意図がある。

地域により分けた理由

文化的背景: 地域ごとの文化や価値観の違いが結婚満足度に影響するかを確認するため。

社会経済的要因: 経済状況や教育水準の地域差が夫婦関係に与える影響を評価するため。

地域社会のサポート: 家族や地域の支援が性格特性と結婚満足度の関係に与える緩衝効果を検証するため。

全体的な結論と応用可能性

  1. 結婚カウンセリングへの応用:
    • 性格特性の評価を用いて、夫婦の問題解決能力や潜在的なリスクを早期に特定する。
    • 特に、神経症傾向が高い夫婦には、
      ストレス管理や感情コントロールを中心とした介入が効果的。
  2. 地域特性を考慮した支援:
    • 地域社会のサポートを活用した結婚満足度向上のプログラムを設計。
    • 神経症傾向の高い人に対し、地域の文化や環境に合わせた介入策を提供する。
  3. 職業別支援の必要性:
    • 公務員や特定の職業グループには、
      職場でのストレス管理が結婚満足度に影響する可能性があるため、
      職業ごとの支援策を設ける。

前回と同様、特に重要視される特性は、神経的傾向と誠実性です。
他の特性もポジティブな影響をしているのですが、
結婚という他人と長い生活をしていくことになるからだと考えられます。

支援の施策としては外部へ頼ることにより、当人たちではメンタルの部分は解決できないため、
良好な関係維持が継続するには最適な方法の一つであると思っています。
でも、大切なのは結婚する前からお互いを理解する。
自己理解や他者理解をしておくことの方が優先であると理解できます。

孫氏兵法から言葉を借りると「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」です。
古くからある言葉ですが、人間関係にもあてはまる言葉だと。
結婚生活は共同作業であることを考えると、人生に起こるいろんなことを乗り越えるには、
結ばれた2人が起こる出来事に対して、役割分担ができ、時には共に協力することで、
末長く共に生きていけるのだと確信しております。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

参考資料

Sayehmiri, K., Kareem, K. I., Abdi, K., Dalvand, S., Ghanei Gheshlagh, R. (2020). 『性格特性と結婚満足度の関係:システマティックレビューとメタ分析』, 2024年12月1日アクセス. https://doi.org/10.1186/s40359-020-0383-z

ビッグファイブと結婚満足度 その3へつづく