いまの国政では103万円の壁や税金についての話題が多いです。
今回はそんな話題性から、ビッグファイブと政治的志向の関連についてのお話です。
ビッグファイブ性格特性(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向)が
スロバキアの有権者の政治的志向にどの程度影響を与えるかを調べています。
左右・リベラル-保守の伝統的な政治的軸だけでなく、
因子分析を用いて潜在的な政治的次元も評価しています
背景には過去の研究では、開放性と誠実性が政治的志向を予測するが、
予測力は弱い。
スロバキアの多党制では、
伝統的な政治的分類では説明しきれないため、
新しいアプローチが必要ということで研究調査されたものです。
性格特性と政治的志向との関連
研究方法
- サンプル:
- スロバキアの有権者704人。
- 性別、年齢、教育水準、社会的地位などの社会的要因も考慮。
- 測定:
- ビッグファイブ性格特性(BFI-2質問票)。
- 政治的志向(左右軸、リベラル-保守軸)。
- 因子分析による潜在的な政治的次元の特定。
- 統計分析:
- 主成分分析(PCA)と回帰分析を使用。
探索的因子分析(Exploratory Factor Analysis, EFA)
政治的次元を特定しました。
「新旧政府への共感」「社会保守的な政党への傾向」「非ポピュリスト連合への支持」の
3つの潜在的次元が抽出されました。どのような方法で抽出したかを解説。
1. データ収集
- 方法:
- 質問票を用いて、スロバキアの主要政党10党への支持を「1(絶対に投票しない)」から
「5(絶対に投票する)」の5段階で評価。 - 政党は社会リベラルから保守的なナショナリストまで、
幅広い政治的立場をカバー。
- 質問票を用いて、スロバキアの主要政党10党への支持を「1(絶対に投票しない)」から
2. 因子分析の手順
- 抽出方法:
- 主軸因子法(Principal Axis Factoring) を使用して因子を抽出。
- 回転方法:
- バリマックス回転(Varimax Rotation) により、因子間の相関を抑え、解釈しやすくした。
- 因子数の決定:
- 並行分析(Parallel Analysis) により、抽出する因子の数を決定。
3. 因子の抽出と命名
- 評価スコアの解析:
- 政党への支持スコアに基づき、因子負荷量を算出。
- 抽出された3つの因子:
- 新旧政府への共感 (Sympathy for the New/Old Government)
- 政権内の主要政党(SaS、Za ľudí、PS)は正の負荷。
- 旧政権政党(Smer-SD、Hlas-SD、ĽSNS)は負の負荷。
- 社会保守的な政党への傾向 (Inclination to Social Conservative Parties)
- 社会保守的な政党(OĽaNO、Sme rodina、KDH)への支持。
- 非ポピュリスト連合への支持 (Preference for a Non-Populist Coalition)
- 政治的主流から外れたリベラル・中道派政党(SaS、Za ľudí、PS、KDH、MKO-MKS)への支持。
- 新旧政府への共感 (Sympathy for the New/Old Government)
4. 信頼性の確認
- 適合性の確認:
- 各因子の固有値(Eigenvalues)が1以上であることを確認。
- 説明された分散率の合計は約60%に達し、因子分析の結果が信頼できると判断。
- 回帰分析への応用:
- 抽出された因子を用いて、ビッグファイブ性格特性との関連を統計モデルで評価。
回帰分析(Regression Analysis)
ビッグファイブがどのように影響しているのかを、回帰分析で調べています。
その結果を以下に示すと、
ビッグファイブ特性の影響
- 開放性はリベラルな志向を正に予測。
- 誠実性は保守的な志向を正に予測。
- 協調性は意外にも左右軸の予測に寄与。
- 外向性と神経症傾向の影響はほとんど見られなかった。
という結果になりました。
分析手法
- 回帰分析の手順:
- 回帰モデルには2段階のステップが用いられました。
- ステップ1: 社会的要因(年齢、性別、教育水準、社会的地位など)を投入。
- ステップ2: ビッグファイブ性格特性を追加し、説明力の増加を評価。
- 評価指標:
- 回帰係数 (β値)
- 決定係数 (R²): モデルの説明力。
- 統計的有意性 (p値): p ≤ 0.05を基準。
上記の手法でビッグファイブの影響の結果が得られました。
さらに詳しく内容を見ていきます
結果を深掘り
- リベラル-保守軸:
- 開放性 (β = -0.145, p < 0.001): リベラル志向を正に予測(値が小さいほどリベラル)。
- 誠実性 (β = 0.126, p < 0.01): 保守的な志向を正に予測。
- 他のビッグファイブ特性は有意ではなかった。
- 左翼-右翼軸:
- 協調性 (β = -0.256, p < 0.001): 左翼志向を正に予測(予想外の結果)。
- 開放性 (β = 0.158, p < 0.001): 右翼志向を正に予測(期待通りの結果)。
- 誠実性 (β = -0.123, p < 0.01): 右翼志向を負に予測(予想外の結果)。
- 神経症傾向 (β = -0.165, p < 0.001): 左翼志向を正に予測。
- 潜在的政治的次元:
- 新旧政府への共感: 誠実性と開放性が主な予測因子。
- 社会保守的政党への傾向: 神経症傾向のみがわずかに有意。
- 非ポピュリスト連合への支持: 誠実性、開放性、神経症傾向が関連。
結論
- ビッグファイブ特性の影響はわずかだが統計的に有意な結果が得られました。
- 特に開放性と誠実性は予想通りの影響を示し、
協調性と神経症傾向も一部の軸に影響を与えました。 - 外向性はほとんどのモデルで影響が見らないということです。
社会的要因の影響
年齢、教育水準、社会的地位から回帰分析によりビッグファイブトの関連を調べた結果は、
- リベラル-保守軸に対する影響
- 年齢 (β = 0.286, p < 0.001): 年齢が上がるほど保守的になる傾向。
- 教育水準 (β = -0.041, p = n.s.): 有意な影響は見られなかった。
- 社会的地位 (β = -0.031, p = n.s.): 影響はほとんど見られなかった。
- ビッグファイブ特性との関連:
- 開放性 (β = -0.145, p < 0.001): リベラル志向を強く予測(開放性が高いほどリベラル)。
- 誠実性 (β = 0.126, p < 0.01): 保守的な志向を予測(誠実性が高いほど保守的)。
- 左翼-右翼軸に対する影響
- 年齢 (β = -0.074, p < 0.05): 年齢が上がるほど左翼志向が弱まる。
- 教育水準 (β = 0.165, p < 0.001): 高い教育水準は右翼志向を予測。
- 社会的地位 (β = 0.158, p < 0.001): 社会的地位が高いほど右翼志向が強い。
- ビッグファイブ特性との関連:
- 協調性 (β = -0.256, p < 0.001): 協調性が高いほど左翼志向(意外な結果)。
- 開放性 (β = 0.158, p < 0.001): 開放性が高いほど右翼志向(予想外の結果)。
- 誠実性 (β = -0.123, p < 0.01): 誠実性が高いほど右翼志向が弱い(予想外の結果)。
- 神経症傾向 (β = -0.165, p < 0.001): 神経症傾向が高いほど左翼志向。
- 潜在的政治的次元への影響
- 新旧政府への共感:
- 年齢 (β = -0.314, p < 0.001): 若い世代ほど現政権に好意的。
- 教育水準 (β = 0.107, p < 0.01): 教育水準が高いほど現政権支持。
- ビッグファイブ特性: 誠実性と開放性が有意。
- 社会保守的政党への傾向:
- 民族背景 (β = -0.095, p < 0.05): 少数派民族であることが関連。
- 神経症傾向 (β = 0.097, p < 0.05): 神経症傾向が高いほど保守的政党支持。
- 非ポピュリスト連合への支持:
- 年齢 (β = -0.105, p < 0.01): 若い世代ほど非ポピュリスト連合を支持。
- ビッグファイブ特性: 誠実性、開放性、神経症傾向が有意に関連。
- 新旧政府への共感:
上記の結果をまとめると
- 年齢と教育水準は、保守的志向とリベラル志向の両方に対して強い予測力を持つ。
- ビッグファイブ特性のうち、開放性 はリベラル志向を強く予測し、誠実性 は保守的志向を予測。
- 協調性 と 神経症傾向 は、予想に反して左右軸の政治的志向に影響を与えた。
- 外向性はほとんどのモデルで有意な影響が見られなかった。
まとめ
結論と今後の展望
- ビッグファイブ特性は政治的志向を予測するが、その影響は弱い。
- 新しい政治的次元を導入することで、より詳細な理解が可能。
- 今後の研究では、ダークトライアド特性や価値観のモデルなど、
他の心理的要因も考慮する必要がある。
ビッグファイブ特性が政治的志向を予測するがその影響が弱い点は、
回帰分析の結果 と 決定係数 (R²) を基に導き出されています。
以下にその根拠となる分析結果と統計的指標を詳しく説明します。
1. 決定係数 (R²) の解釈
- R² 値: 回帰モデルがどれだけ政治的志向の変動を説明できるかを示す指標。
- 結果:
- リベラル-保守軸に対する R² = 0.125(12.5% の変動を説明)
- 左翼-右翼軸に対する R² = 0.172(17.2% の変動を説明)
- 潜在的な政治的次元の変動率は 2% ~ 20% の範囲
これらの値は、社会的要因とビッグファイブ特性を合わせても、
政治的志向の変動を説明する力が限定的であることを示しているからです。
政治的志向がビッグファイブとの関連しては、
他のデータなども取り入れながらでないと、予測としては弱いという結果です。
しかし、ある程度は予測が可能という結果から考えると、
この研究調査にも意味があったということです。
政治的志向の手がかりは見つけられるという結果が得られたという点では、
意味のある一歩であったと私は考えています。
あなたはどう考え、感じましたか。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
Uhrovič, F., Halama, P., Kohút, M., & Martinkovič, M. (2023). 『The Big Five Offers Only a Weak Prediction of Politics, Regardless of the Approach』, 2024年12月10日アクセス. https://doi.org/10.31577/sp.2023.03.875