
前回はホスピタリティは関係構築のための投資行動であり、
生まれ持った才能ではないということ。
相手との関係性の中で発揮される、ビッグファイブの影響を強く受け、
関係性がなくても発揮される可能性があるというお話を進めてきました。
ここではホスピタリティはビッグファイブ、性格特性の影響を受けると、
発揮されるものなのか、関係性があることが前提で発揮されるものなのかについても考察できればと思います。
ホスピタリティが発揮されない理由って
前回のビッグファイブの特性があってもホスピタリティが発揮されるとお話をしましたが、
やはり、関係性の質が前提にないと発揮されないと考えられます。
ビッグファイブの特性は “発揮しやすさの素地” ではあるが、
“行動として発揮される” ためには「関係性の安全・意味・許可」が必要だから。
“関係性の質”が必要な3つの理由
①【心理的ブレーキが外れない】
- 外向性が高くても、「ここで話しかけたらウザがられるかも…」と思えば行動できない
- 開放性が高くても、「勝手に工夫して怒られたら…」と思えばチャレンジしない
▶︎つまり、“自分の良さ”を出すには、「出しても安全」だと感じられる関係性が必要なんです
②【行動に意味が見出せない】
- 誠実性が高くても、「この行動に何の価値があるの?」と思えば実行しない
- 調和性が高くても、「誰のためになってるかわからない」と感じたら遠慮する
▶︎関係性やMVVがあると、「この人のため」「この場に意味がある」という“意味づけ”が生まれます
③【承認やフィードバックがないと“再現”されない】
- 一度ホスピタリティ的行動をしても、無視されたり否定されたら、その人はもうやらなくなる
- 「あ、そういうの求められてないんだな」と感じたら、性格特性に反してもブロックがかかる
▶︎関係性の中で承認されることで、初めて“継続的な行動”に育つ
行動には再現性が必要です。
このホスピタリティの行動が自動的に動く仕組みを作るのに必要なのが、
OCB【組織市民行動】の考えが生かされるようになります。
この研究で行われていたのは、ホスピタリティ版のOCBと言えます。
OCBとは
OCB(組織市民行動:Organizational Citizenship Behavior)とは、
「従業員が正式な職務には含まれないが、自発的に組織の円滑な運営を助ける行動」のことを指します。
これは報酬や評価の対象にはなりにくいが、組織の効果性やチームの協働を高める重要な行動とされます。
OCBの代表的な5分類(Organ, 1988)
行動分類 | 内容 |
---|---|
◆ Altruism(利他性) | 他者を進んで手助けする |
◆ Courtesy(配慮) | 他者に迷惑をかけないようにする |
◆ Sportsmanship(忍耐) | 不満を表に出さず前向きに振る舞う |
◆ Conscientiousness(良心) | 求められる以上に真面目に職務を遂行する |
◆ Civic virtue(市民的美徳) | 組織に積極的に関与しようとする姿勢 |
上記がOCBの5因子になります。OCBを引き出すにLMX、OBSE、TMXが必要になります。
LMXとは
上司と部下の信頼・協力・心理的距離感のことです。
LMXはLeader-Member Exchange(リーダー-メンバー交換関係)の略です。
LMXの質が高い関係
LMXが高い | LMXが低い |
---|---|
信頼され、裁量が与えられる | 指示・命令が中心 |
相談・提案がしやすい | 会話は業務報告だけ |
認められ・評価されている | 存在感が薄い・公平感がない |
質が高いとLMXが高いと→OBSEも高まりやすい、結果として、
部下が自発的に助け合いや提案(OCB)を起こしやすくなります。
次にOBSEについてお話を進めます。
OBSEとは
OBSEはOrganization-Based Self-Esteem(組織ベースの自尊感情)の略です。
組織の中でこんなことはありませんか。
「なぜある人は“やらされ感”が強く、
一方である人は“自分から動こう”とするのか?」
OBSEとは自分から動こうとする人のことです。
この違いは、スキルや性格ではなく──
▶︎ “その人が組織でどう扱われていると感じているか”では?
▶︎ 「私はこの組織にとって必要な存在だ」という感覚がカギでは?
➡ 組織内自尊感情(OBSE)という新しい概念が誕生
(=外から見えない“自分の価値感覚”を理論化した)
上記よりOBSEが行動(OCB)を引き出すのです。
最後にTMXです。
TMXとは
TMXはTeam-Member Exchange(チームメンバー間の交換関係)の略です。
「上司との関係性(LMX)はわかる。でも、チーム内の関係性はどう測るの?」という疑問から生まれました。
職場は上司だけじゃなくて、同僚との“日々のやり取り”で構成されてる。
▶︎ 「協力し合えるチームと、バラバラなチームでは、生産性に差があるのでは?」
▶︎ でもそれって、どうやって“データ”で測れるの?
➡ そこで、TMXという新しい指標を定義し、
「支援・協力・情報共有の質=チームの機能性」を可視化しようとした。
行動面: 助け合い、フィードバック、協働
感情面: 信頼、共感、安心感、所属感、
上記よりTMXは「関係性に表れる行動と感情」の両方を含む概念となるわけです。
TMXが高いとどうなる?
- ◉チームの心理的安全性が高まる
- ◉メンバー同士の情報共有・学習が促進される
- ◉OCB(組織市民行動)が自然に起きやすくなる
- ◉チームのパフォーマンスや職務満足度が向上する
3つの関係性まとめ
キーワード | 内容 | 組織市民行動(OCB)との関係 |
---|---|---|
OBSE | 組織内での自尊感・自己肯定感 | 「貢献したい」という内発的動機になる |
LMX | 上司との関係性の質 | 信頼・裁量が生まれ、OBSEを高める |
TMX | 同僚との協力・共有の質 | 安心感と連携が育ち、助け合い行動が活性化 |
上記の3つのキーワードがうまく重なり合うことで、OCBを引き出すのです。
ホスピタリティは関係構築のための投資行動であるということから、
OBSE・LMX/TMXを高めることがホスピタリティを発揮しやすくなる基盤がつくられます。
ただ、関係性の質が向上しただけではただの仲のいい組織で終わってしまい、
ビジネスとしてのやっていくには不十分です。
ここに組織としての共有しておくべき、目的やなぜそうするのかなどの意味などがなければ、
ホスピタリティは発揮されにくいのです。
仕組みとして自動的に発揮するようにするには、理念の共有が必要です。
パーパスやMVV (ミッション・ビジョン・バリュー)の共有です。
このパーパスやMVVが根底にあることでホスピタリティが発揮されやすくなります。
今までお話してきたことを図にすると、以下のようなイメージです。

今回はここまで、さらに次回でホスピタリティの正体について迫っていきたいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
小田真弓・平石界(2015). 『日常的な利他性とパーソナリティ特性がホスピタリティに及ぼす影響』, 2025年4月4日アクセス.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/23/3/23_193/_article/-char/ja/山岸友佳子・豊増哲雄(2009). 『ホスピタリティの構造:日本型ホスピタリティ尺度の作成』, 2025年4月4日アクセス.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000025-I013410002443549乗松未央・木村裕斗(2021).
『性格特性と職場環境の相互作用が若年就業者の組織市民行動に与える影響:組織内自尊感情による媒介効果に着目して』,
『産業・組織心理学研究』, 35巻2号, pp.151-166.
2025年3月23日アクセス.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/35/2/35_235/_article/-char/ja/
ホスピタリティの正体とビッグファイブ3へつづく