日本の教育心理学研究とビッグファイブ

「わが国の教育心理学の研究動向と展望」に関する論文で、
特に「パーソナリティ研究の動向と今後の展望」が焦点となっています。

研究動向について

ビッグ・ファイブモデルの研究動向

  • 神経症傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性の5因子モデルの応用例と日本国内での研究成果を整理。
  • 健康行動、学業成績、キャリア形成、精神疾患など多方面での関連研究が紹介されています。

重要なポイントが述べられています。

ビッグ・ファイブモデルの概要

ビッグ・ファイブモデルは、
以下の5つの性格特性で人間のパーソナリティを説明する枠組みです。

  • 神経症傾向 (Neuroticism): 情緒の安定性や不安の程度
  • 外向性 (Extraversion): 社会的な活発さや積極性
  • 開放性 (Openness): 新しい経験への好奇心や創造性
  • 調和性 (Agreeableness): 共感性や協力性の高さ
  • 誠実性 (Conscientiousness): 自制心や責任感の強さ

研究動向と主な応用例

1. 健康行動との関連

  • 運動習慣: 誠実性が高い男性ほど運動習慣が継続しやすい。
    女性では神経症傾向が高いと運動の継続が難しい。
  • 食行動とBMI: 外向性が高い男性はBMIが高くなる傾向があるが、
    誠実性が高いとBMIが低下する。
  • 健康リテラシー: 誠実性、外向性、
    開放性が高いほど健康リテラシーが向上する。

2. 学業成績と学びの態度

  • 授業参加: 外向性が高い学生は積極的に授業に参加し、
    調和性の高さは共同学習を促進。
  • 科目への苦手意識: 神経症傾向が高いと理数系科目の苦手意識が強い。
  • eラーニング適応: 調和性が高く、
    神経症傾向が低い人は、eラーニングの掲示板利用率が高い。

3. キャリア形成と職業適応

  • キャリア未決定状態: 神経症傾向が高いとキャリア選択に対する混乱が生じやすい。
  • 面接評価: 外向性が高い人は面接での評価が良く、
    誠実性が高いと「熱意がある」と見なされやすい。
  • 職務パフォーマンス: 誠実性、調和性が高いと組織市民行動(自発的な貢献行動)が多く見られる。

4. 精神疾患との関連

  • 不適応行動と精神疾患のリスク要因:
    • 神経症傾向: 抑うつ、ストレス耐性の低さ、対人不安と関連。
    • 調和性の低さ: 攻撃的行動や犯罪傾向と結びつきやすい。
    • 開放性の低さ: 認知症患者の問題行動(BPSD)リスクが増すことが示唆される。

研究の課題と今後の展望

  • 性格特性の変化可能性を考慮した介入プログラムの開発。
  • 性格特性と生活環境の双方向的な影響の検討。
  • 日本社会に特有のパーソナリティ傾向に対するさらなる調査。

ビッグ・ファイブモデルは、日本国内においても健康、学業、職場適応、
精神健康など多分野にわたり応用されています。

これらの研究成果は、個人の特性に応じた支援策の開発に貢献しており、
社会的にも幅広い影響を及ぼす可能性が示されています。

しかし、現状ではあまり研究が進んでおらず、
実際に応用されているということはあまりないようです。

ここには日本の文化的要因なども影響しているのかもしれません。
ビッグファイブとは関連してくる可能性もある、
ダークトライアドについての研究についても見ていきます。

「よわい/わるい性格」研究の拡張

  • 病理や不適応行動に関連する神経症傾向、
    ダークトライアド(ナルシシズム、マキャベリアニズム、サイコパシー)に注目。
  • 不適応特性のポジティブな側面(例えば、Healthy Neuroticism、Vantage Sensitivityなど)も取り上げられています。

このセクションでは、病理や不適応行動に関連する性格特性を扱い、
否定的に見られがちなパーソナリティ特性のポジティブな側面についても検討されています。


1. 病理的特性と不適応行動

(1) 神経症傾向 (Neuroticism)
  • 関連する問題行動: 不安、抑うつ、ストレスへの脆弱性、対人関係の不安、過剰な心配。
  • 研究例:
    • 新型コロナウイルスへの恐怖やパニックの増幅。
    • 自閉スペクトラムや引きこもり傾向との関連が示され、
      社会的孤立のリスク要因とされる。

(2) ダークトライアド (Dark Triad)

  • 構成要素:
    • ナルシシズム (Narcissism): 自己中心的な傾向。
    • マキャベリアニズム (Machiavellianism): 操作的・策略的な行動。
    • サイコパシー (Psychopathy): 共感性の欠如、衝動的行動。
  • 関連する問題行動: 攻撃性、反社会的行動、いじめ、ネット上での不適応行動など。
  • 研究例:
    • 犯罪行動の予測要因として、通常の道徳判断を超える影響力が示されている。
    • 利己的な意思決定や権力追求の傾向との結びつき。

2. ポジティブな側面の再解釈

(1) Healthy Neuroticism(健康的な神経症傾向)
  • 説明:
    • 神経症傾向が高い人は、将来の健康リスクに敏感で、
      健康行動(定期検診、早期治療など)を積極的に取る傾向。
  • 研究例:
    • 誠実性が高い人と神経症傾向の高い人が組み合わさると、
      健康管理行動の改善がみられる。
    • 喫煙や薬物依存のリスク低下、
      炎症性サイトカイン値の低下などが報告されている。

(2) Vantage Sensitivity(環境感受性)
  • 説明:
    • 環境からの影響に敏感な人々は、ストレスフルな状況では不適応を示すが、
      良い環境では他者よりも良い結果を出す。
  • 研究例:
    • 高感受性の子どもが質の高い教育や適切な支援を受けた場合、
      他の子ども以上の成長を見せる。
    • 感覚処理感受性の高い成人が、
      美的感受性を通じて創造的な活動で成功する例も示されている。

3. 他のポジティブな再解釈の例

防衛的悲観主義 (Defensive Pessimism)

  • 説明:
    • 失敗を予想し、
      事前準備を徹底することで高いパフォーマンスを発揮する認知戦略。
  • 研究例:
    • 防衛的悲観主義を持つ人は、失敗シナリオを考えることでストレスを回避し、
      タスク遂行に集中できる。

マインドワンダリング (Mind Wandering)

  • 説明:
    • 課題から注意が逸れる現象。
      ただし、意図的なマインドワンダリングは創造的思考に寄与する。
  • 研究例:
    • 意図的なマインドワンダリングは、
      課題解決や問題発見の場面で有効とされる。

恨み忌避感 (Fear of Being Resented)

  • 説明:
    • 他者から恨まれることへの恐れ。
      ただし、対人関係において協調的な態度を促進する。
  • 研究例:
    • 恨み忌避感が強い人は、
      過度な自己主張を控えることで円滑なコミュニケーションを維持しやすい。

まとめ

このセクションでは、「よわい/わるい性格」とされる特性が単なる問題行動の予測因子ではなく、
適切な環境下ではポジティブな側面も発揮できることが論じられています。

特に、神経症傾向やダークトライアド、
感覚処理感受性の研究は、個人の特性を多面的に理解し、
教育・支援の方策を考えるうえで重要な視点を提供しています。

今回は日本の教育心理学とビッグファイブとの関連ということでご案内してきました。
私自身も初めて聞く内容のものばかりでした。

印象に残っているのは、ダークトライアドです。
ダークトアライドは、見方が変わると必要性のある因子となる可能性を感じます。
犯罪行動を予測したり、利己的な意思決定や権利追求との結びつき、
どの観点から見るかによって良い悪いが変わるということです。
基本的には良い悪いではなく、どのように見るかを焦点にすれば、
必要であり改善のために利用できるのではないかということです。

ビジネスにおいては経営者がダークトラアドを発揮できないと、
最悪の事態を避ける判断、企業であれば生き残りを賭けた場面では、
有効に作用する可能性があると考えられます。

今回はここまでです。最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

平野真理 (2021). 『わが国の教育心理学の研究動向と展望―ビッグ・ファイブ,感受性,ダークトライアドに焦点をあてて―』, 教育心理学年報, 第60巻, 69-90頁, 2024年12月12日アクセス. https://www.example.com/educational-psychology-report-2021

日本の教育心理学研究とビッグファイブ2へつづく