「静かな退職」とはその3

「静かな退職」(quiet quitting)が注目され始めた要因

いくつかの社会的、経済的、そして働き方の変化に起因しています。

以下のような要因が、
この現象が広く認識されるようになった背景にあります。

1. パンデミックによる働き方の変化

  • 新型コロナウイルスのパンデミックによって、
    多くの企業でリモートワークが導入され、
    従業員がオフィスに出社しない働き方が一般化しました。
    この結果、従業員が物理的に職場から離れ、
    自分自身の時間や働き方を再評価する機会が増えました。
  • リモートワークによる孤立感や、
    上司や同僚との接触の減少が、
    従業員のエンゲージメントを低下させ、
    仕事に対する積極的な姿勢が減少する傾向が見られるようになりました。

2. ワークライフバランスへの意識の高まり

  • パンデミックをきっかけに、
    多くの人が健康や家族との時間を重視するようになり、
    仕事中心の生活から離れ、
    バランスの取れたライフスタイルを求めるようになりました。
    この変化に伴い、
    過剰な努力や長時間労働を避け、
    必要最低限の業務にとどめる従業員が増加しました。
  • 特に若年層(ミレニアル世代やZ世代)は、
    従来の「仕事が最優先」という価値観よりも、
    個人の充実を重視する傾向が強くなっており、
    これが「静かな退職」の背景にあります。

3. バーンアウトの増加

  • パンデミックによる経済的な不安や、
    仕事の不確実性が増した結果、
    従業員のストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)が深刻化しました。
    多くの従業員が、
    過度な労働からくる疲労感や精神的な負担を軽減するために、
    必要最低限の労働にとどまるようになりました。
  • 「静かな退職」は、
    過労やストレスへの対抗手段として、
    従業員が自らの健康や精神的な安定を守るために選択したものとも言えます。

4. 従業員エンゲージメントの低下

  • 多くの企業で、
    従業員のエンゲージメントが低下していることが、
    「静かなる退職」の一因となっています。
    エンゲージメントが低い従業員は、
    組織やチームに対するコミットメントが希薄になり、
    仕事に対する熱意を失いがちです。
    これが、最低限の業務だけをこなすという行動に表れます。

5. 組織やリーダーへの不満

  • リーダーシップの欠如や、
    一貫性のない経営方針、
    従業員の声が反映されないトップダウン型の組織運営に対する不満も、
    「静かな退職」の背景にあります。
    従業員が自分の意見や努力が組織で認められていないと感じる場合、
    積極的に働く意欲が減少します。

6. SNSでの拡散

  • 2021年頃から、
    SNS(特にTikTokやTwitter)を通じて「静かな退職」という言葉が広まり、
    多くの若年層が自身の経験や考えを共有するようになりました。
    SNSの影響で、
    静かな退職に関する話題が急速に拡大し、
    社会全体で注目されるようになったことも要因の一つです。

7. 労働市場の変化

  • 労働市場の変化も、
    「静かな退職」に影響しています。
    パンデミック後、
    一部の業界では労働力不足が深刻化し、
    従業員がより良い労働条件を求めて転職しやすい状況が生まれました。
    その結果、
    従業員が企業に対して強い交渉力を持つようになり、
    企業側が従業員に過度な負担をかけることが難しくなったことも、
    静かな退職を促進する要因となっています。

これらの要因が絡み合って、
「静かなる退職」が注目され始めたのです。

従業員の働き方や価値観が大きく変化したことが、
企業側にとっても重要な課題となっており、
今後の労働環境の改善が求められています。

日本でも広まりつつある「静かな退職」

日本では「静かな退職」(quiet quitting)という言葉は
アメリカほど広く認知されていないかもしれませんが、
同様の現象は存在していると考えられます。

以下の理由から、
日本においても静かなる退職に類似する状況が起きている可能性が高いです。

1. 日本特有の長時間労働文化

  • 日本では、
    長時間労働や残業が慣習化している企業が多く、
    労働者が疲弊しやすい環境があります。
    このため、
    労働者が業務に対するモチベーションを失い、
    最低限の業務だけをこなす傾向が強まる可能性があります。
    過労や「働きすぎ」に対する懸念から、
    積極的に仕事を進めるよりも、
    負担を減らす方向にシフトする人が出てきていることが考えられます。

2. 若年層の価値観の変化

  • 日本でも、
    ミレニアル世代やZ世代を中心に、
    ワークライフバランスを重視する考え方が強まっています。
    これらの世代は、
    従来の「会社に尽くす」という働き方に疑問を持ち、
    過度な仕事へのコミットメントを避ける傾向があります。
    このため、アメリカの「静かなる退職」に似た現象が、
    特に若い世代で進行していると考えられます。

3. エンゲージメントの低下

  • 日本の企業でも、
    従業員エンゲージメントが低いという問題が指摘されています。
    調査によると、
    日本の労働者のエンゲージメントは世界的に見ても低い水準にあると言われています。
    従業員が仕事に対して意欲を持たないまま、
    最低限の業務に従事するという「静かなる退職」に似た状況が生じる土壌は、
    既に存在している可能性が高いです。すでに存在しています。

4. 終身雇用制度の影響

  • 日本では、
    終身雇用や年功序列がいまだに根強い企業が多く、
    こうした制度が従業員のモチベーションに影響を与えています。
    年功序列や固定化されたキャリアパスにより、
    努力が報われにくいと感じる従業員が増え、
    積極的に業務に取り組むインセンティブが減少している可能性があります。
    これが結果として「静かなる退職」に近い状態を引き起こすことがあります。

5. リモートワークの影響

  • パンデミック後、
    日本でもリモートワークが一部普及しました。
    リモートワークにより、職場での直接的な接触が減少したことで、
    上司や同僚とのコミュニケーションが希薄化し、
    従業員が孤立感を感じやすくなりました。
    この環境が、
    従業員のエンゲージメント低下を引き起こし、
    最低限の仕事だけをこなす傾向を強める可能性があります。

6. 言葉が違うだけで、現象は同じかもしれない

  • 日本では「静かな退職」という言葉があまり使われていないものの、
    「やる気がない」「ただ働いているだけ」「積極性がない」などといった表現で同様の問題が指摘されることが多いです。
    つまり、日本では現象に対する表現が違うだけで、
    本質的には同じ状況が発生している可能性があります。

結論

日本において「静かなる退職」という言葉が一般的ではないものの、
同様の問題は存在していると考えられます。いえ、すでに存在しています。

特に、
長時間労働や終身雇用制度、
低い従業員エンゲージメントといった日本特有の要素が、
アメリカの「静かな退職」と似た現象を引き起こしている可能性が高いです。

接触頻度を増やし、
従業員とのコミュニケーションを強化することが、
これらの問題に対する効果的な対策となるでしょう。