前回は「成功への希望」が性格特性と目標志向の間をどのようにつなぐかに焦点を当て、
特に、選手の心理的資源として希望を育てることで、
モチベーションやパフォーマンス向上に役立つ可能性を検証した結果、
「成功への希望」が鍵となるという内容でした。
ここでは前回、関連性のなかった調和性と開放性の高い選手の育成指導からお話を進めていきます。
「成功への希望」を育み、ビッグファイブ性格特性を活かした育成・指導方法
1. 開放性の高い選手への育成・指導
特徴:
- 創造力が高く、新しいチャレンジを楽しむタイプ。
- 新しい技術や戦術への興味が強く、柔軟な思考を持つが、具体的な結果よりプロセスを重視しやすい。
課題:
- 目標達成へのこだわりが薄くなる可能性がある。
- 挑戦は好むが、長期的な努力の継続や成果への執着が弱い傾向がある。
育成アプローチ:
- 挑戦と成功体験の積み重ね:
- 新しい技術や戦術に挑戦させ、少しずつ成功体験を積ませることで「やればできる」という希望を育む。
- 例: 新技術の練習後に小さな達成目標(例:フリースロー10本中7本成功など)を設けて自信をつけさせる。 - 創造的な戦術への参加:
- 戦術や試合運びの工夫を任せることで、アイデアを生かしつつ具体的な結果につなげる力を強化する。
- 例: 自分のアイデアでプレーを組み立てるロールプレイを取り入れる。 - 具体的な目標設定と振り返り:
- 「成功への希望」を育むために、結果を可視化して自分の成長を実感させる。
- 例: トレーニング記録やプレー分析を行い、改善点をフィードバックすることで成長を数値化。 - オープンマインドな環境づくり:
- 新しいアイデアや視点を歓迎し、失敗を恐れず挑戦できる文化を作る。
- 例: 「チャレンジポイント」制度を設け、積極的な挑戦に対してポイントを付与し評価する。
2. 調和性の高い選手への育成・指導
特徴:
- 協力的でチームワークを重視するタイプ。
- チーム全体の調和や仲間の成功を支援することにやりがいを感じる。
課題:
- 個人としての成果への意識が低く、競争心や自己主張が弱くなる傾向がある。
- 失敗を避けようとするため、リスクを取ったプレーを躊躇する可能性がある。
育成アプローチ:
- チームプレーへの貢献を評価:
- 自分の成功ではなく、チーム全体の目標達成への貢献を強調し、評価することで希望を育む。
- 例: アシストやサポートプレーを数値化し、評価項目に含める。 - 役割意識とリーダーシップの強化:
- チーム内でリーダー的役割(キャプテン、副キャプテン)やサポート役(メンター、相談役)を任せることで、他者の支援を通じた成功を実感させる。
- 例: チームメイトへのアドバイスや声かけの重要性を強調する。 - チーム目標と個人目標のリンク:
- チーム全体の成果と個人の成長を結びつけることで、自分の貢献がチームの成功につながることを体感させる。
- 例: チームの勝利を支える「影のヒーロー」として表彰する。 - 心理的安全性を高める環境づくり:
- チーム内の安心感を高め、失敗を恐れず挑戦できる文化を育むことで、「失敗を乗り越えて成功する希望」を持たせる。
- 例: ミスを責めるのではなく、成長の材料として扱うフィードバックの文化を構築する。
3. 共通する指導ポイント
1. ビジョンの明確化:
- 開放性の高い選手には柔軟性と創造力を活かせるビジョンを、調和性の高い選手には協力とチームワークを重視するビジョンを伝える。
- 例: 「この戦術でチームの流れを作ろう」「みんなで支え合って優勝を目指そう」。
2. 小さな成功体験を積み重ねる:
- 個人の強みに応じた目標を設定し、達成感を与えることで「成功への希望」を育む。
- 例: 開放性の高い選手には「技術向上」、調和性の高い選手には「アシスト回数」を評価基準とする。
3. メンタルサポートとフィードバック:
- 成功体験だけでなく、失敗から学ぶ姿勢を育てるため、ポジティブなフィードバックを中心にした指導を行う。
- 例: ミスに対して「ここから何を学べるか?」を考えさせ、次のプレーにつなげる。
4. チーム内の役割分担と相互補完:
- 開放性の高い選手が新しい戦術やアイデアを提供し、調和性の高い選手がその実現を支援する構造を作る。
- 例: アイデア発想ワークショップとチームリーダー制度を導入し、役割を明確化する。
4. まとめ
スポーツの現場では、「成功への希望」を高めることが競技力向上や精神的成長につながります。
- 開放性の高い選手:
新しい挑戦や柔軟な発想を生かし、成功体験を積み重ねることで希望を強化。 - 調和性の高い選手:
チームワークや支援を通じた成功体験を強調し、他者と協力しながら希望を育む。
共通ポイント:
- 明確なビジョンと目標を設定し、努力やプロセスを評価することで自己効力感を高める。
- 成長を実感できる環境づくりと心理的安全性を重視し、長期的な成長を支える育成を行う。
このアプローチによって、個人とチームのパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能になります。
参考資料
トムチャク, M., クレカ, P., トムチャク-ウカシェフスカ, E., & ヴァルチャク, M. (2024年3月21日). 『Hope for success as a mediator between Big Five personality traits and achievement goal orientation among high performance and recreational athletes』, 2024年12月21日アクセス. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0288859
アスリートの「成功への希望」とビッグファイブ3へつづく