コンピテンシーってその6

前回の続きからです。

行動理論(Behavioral Theory)

リーダーシップ研究における重要なアプローチの一つで、
リーダーシップは特定の行動パターンによって学習できるものであり、
生まれつきの特性に依存しないという考え方に基づいています。

この理論は、
リーダーの性格や資質よりも、
どのように行動するかがリーダーシップの成功に直結するという点を強調します。

行動理論の主要なポイント

行動理論は、リーダーの行動やスタイルを観察し、その行動がリーダーシップの成功や部下のパフォーマンスにどのように影響を与えるかを研究します。ここでは、リーダーシップを以下の2つの主要な行動スタイルに分類することが多いです:

仕事志向(Task-Oriented Behavior):

仕事の遂行や目標達成に焦点を当てたリーダーシップ行動です。
このスタイルのリーダーは、
計画を立て、指示を与え、
チームが目標に向かって効率的に働くことを重視します。

具体的な行動には、目標設定、役割の明確化、
進捗管理などが含まれます。

人間関係志向(People-Oriented Behavior):

人間関係やチームの士気、
満足度を重視するリーダーシップ行動です。
このスタイルのリーダーは、
部下との信頼関係を築き、
コミュニケーションやサポートを通じて部下を育成することを重視します。

具体的な行動には、
フィードバックの提供、
チームメンバーのケア、
対話の促進などが含まれます。

主なリーダーシップ行動モデル

行動理論に基づくリーダーシップモデルとして、いくつかの研究が行われました。特に有名なものには以下のものがあります:

オハイオ州立大学の研究:
オハイオ州立大学の研究者は、
リーダーシップ行動を2つの軸で評価しました。

構造構築(Initiating Structure)配慮(Consideration)です。
構造構築とは、
タスクの割り当てや作業プロセスの管理に焦点を当てた行動であり、
配慮とは部下の感情やニーズに対する思いやりを示す行動です。
この研究では、
リーダーが両方の要素をバランスよく持つことが理想的とされました。

ミシガン大学の研究:
ミシガン大学の研究者は、
リーダーシップの行動を生産志向(Production-Oriented)
従業員志向(Employee-Oriented)に分けました。

生産志向のリーダーは、
目標達成や効率性に重点を置き、
従業員志向のリーダーは、
従業員の満足度や個人の成長に焦点を当てるとされます。

行動理論の強み

学習可能なリーダーシップ:

行動理論の大きな利点は、
リーダーシップが生まれつきの資質ではなく、
訓練や経験によって身につけられるものであるとする点です。

これにより、
リーダーシップ開発プログラムを通じて、
誰でもリーダーシップスキルを向上させることが可能となります。

柔軟性:

行動理論は、
リーダーが特定の状況に応じて行動スタイルを変えることができるため、
さまざまな場面で有効なリーダーシップが発揮されると考えます。

行動理論の限界

状況依存性の無視:

行動理論は、
リーダーの行動にのみ焦点を当てているため、
状況や環境がリーダーシップに与える影響を十分に
考慮していないという批判があります。

この点については、
後に発展した状況的リーダーシップ理論が補完しています。

結論

行動理論は、
リーダーの成功が特定の行動やスタイルに依存すると考えるアプローチであり、
リーダーシップが学習可能であることを示す重要な理論です。

この理論は、
リーダーシップトレーニングや組織開発において広く応用されており、
現代でもリーダーシップ研究における重要な基礎として機能しています。

状況的リーダーシップ理論(Situational Leadership Theory)

リーダーシップのスタイルが状況や文脈によって変わるべきだと主張する理論です。

この理論は、
1960年代後半にポール・ハーシーケン・ブランチャードによって提唱されました。
彼らは、
効果的なリーダーシップは、
一つの固定されたスタイルではなく、
状況やフォロワーの成熟度や能力に応じて柔軟に変化する必要があると述べています。

主なポイント

状況的リーダーシップ理論は、
次の要素に基づいています:

フォロワーの成熟度(Follower Readiness)

フォロワーの成熟度や能力(スキルや意欲)に応じて、
リーダーシップのスタイルを変えるべきだと主張します。

成熟度は次の2つの要素で評価されます:

能力(Competence):

仕事に対する知識やスキル。

意欲(Commitment):

仕事に対するモチベーションや自信。

4つのリーダーシップスタイル

状況的リーダーシップ理論では、
フォロワーの成熟度に応じて4つのリーダーシップスタイルを
使い分けることが推奨されています:

指示型(Directing or Telling):

フォロワーの能力が低く、
意欲も低い場合に適用されます。

リーダーはタスクの進め方や手順を明確に指示し、
フォロワーに具体的な指示を与えます。

説得型(Coaching or Selling):

フォロワーに意欲はあるが、
能力がまだ不足している場合に用います。

リーダーはフォロワーを指導しながら、
必要なサポートを提供します。

参加型(Participating or Supporting):

フォロワーに能力はあるが、
意欲や自信が不足している場合に使います。

リーダーは意思決定の責任をフォロワーに委ね、
彼らと一緒に仕事を進めます。

委任型(Delegating):

フォロワーが十分な能力と意欲を持っている場合に使用します。
リーダーはフォロワーに権限を委譲し、
自主的に業務を遂行させます。

具体例

たとえば、
新しいプロジェクトで経験の浅いメンバーがいる場合、
リーダーは指示型のアプローチを取る必要があります。

しかし、プロジェクトが進行し、
チームが成長し、自信を持つようになるにつれ、
リーダーは参加型委任型にシフトし、
フォロワーに自立性を与えることが重要になります。

この理論の強み

柔軟性:

状況に応じてリーダーシップスタイルを変えられるため、
さまざまな環境に対応できます。

フォロワーの成長を促進:

リーダーはフォロワーの能力や意欲の向上に応じて適切な指導を行うことで、
チーム全体の成長を促すことができます。

この理論の限界

リーダーの判断に依存:

リーダーがフォロワーの状況や能力を正しく評価できない場合、
効果的なスタイルを選ぶことが難しいことがあります。

実行の難しさ:

現実のビジネス環境では、
すべての状況でスタイルを即座に変えることが難しい場合もあります。

さらに詳しく

状況的リーダーシップ理論に関する詳細な情報は、
以下のリーダーシップに関する書籍や研究で閲覧することができます。

Ken Blanchardの著書

「The New One Minute Manager」や
「Leadership and the One Minute Manager」など、
状況的リーダーシップを実際に適用するためのガイドを提供しています。

Hersey and Blanchard’s Situational Leadership Model:

さまざまな学術資料やリーダーシップトレーニングに関連するリソースがあります。

この理論はリーダーシップ開発の場で広く活用されており、
フォロワーの成長とリーダーの適応力を重視する柔軟な
アプローチとして評価されています。

トランスフォーメイショナルョナルリーダーシップ(Transformational Leadership)

1978年に政治学者のジェームズ・マクレガー・バーンズ(James MacGregor Burns)
によって提唱されたリーダーシップ理論で、
その後、
バーナード・バス(Bernard Bass)によって発展されました。

この理論は、
リーダーがフォロワー(部下)を刺激し、
彼らを成長させ、モチベーションを高め、
結果として組織全体のパフォーマンスを向上させることを目指しています。

理論の具体的な要素

トランスフォーマショナルリーダーシップは、
4つの主要な要素(4つのI)に基づいています。

理想化された影響力(Idealized Influence)

リーダーは高い倫理的基準を持ち、
フォロワーにとって模範的な存在となります。

リーダーは、
自分の価値観やビジョンを明確に伝え、
フォロワーに尊敬され、信頼される存在となることが求められます。

この影響力を通じて、
リーダーはフォロワーの行動や姿勢に影響を与えます。

インスピレーショナル・モチベーション(Inspirational Motivation)

リーダーは、
フォロワーにインスピレーションを与えることが重要です。

これは、
ビジョンや目標を提示し、
フォロワーがその達成に向かって努力するように鼓舞する行動を指します。

リーダーは、
挑戦的な目標を設定し、
達成感や目的意識をフォロワーに持たせます。

知的刺激(Intellectual Stimulation)

トランスフォーマショナルリーダーは、
フォロワーに新しい考え方や解決策を考えさせ、
革新を促します。

リーダーは、
部下が自らの限界を超え、
創造的で独自の問題解決能力を発揮するように奨励します。
このプロセスを通じて、
組織全体の思考力やイノベーションが高まります。

個別的配慮(Individualized Consideration)

リーダーは、
フォロワー一人ひとりに対して注意を払い、
彼らの個別のニーズに応じたサポートや指導を行います。

フォロワーの成長や発展を重視し、
個人のキャリア成長を支援します。

この要素は、
フォロワーのやる気や自律性を高め、
リーダーに対する信頼を強化します。

トランスフォーマショナルリーダーシップの特徴

ビジョンと戦略:

トランスフォーマショナルリーダーは、
強力なビジョンを持ち、
そのビジョンを効果的にフォロワーに伝えることで、
組織全体を目標に向けて一致団結させます。

ビジョンを具体的な戦略に落とし込み、
フォロワーがそれに従って行動できるようにします。

エンパワーメント:

フォロワーに権限を与えることで、
彼らが自主的に考え、
行動し、
リーダーシップを発揮できるようにします。

これにより、
フォロワーはより大きな責任感を持ち、
リーダーと同じ目標に向けて積極的に取り組むようになります。

組織文化の変革:

トランスフォーマショナルリーダーは、
既存の組織文化を変革し、
より革新的で柔軟な文化を作り出すことを目指します。

これにより、
組織は外部環境の変化に迅速に対応できるようになります。

実際の応用例

企業におけるトランスフォーマショナルリーダーシップ:

GoogleやAmazonのような企業では、
リーダーが従業員に創造的な自由を与え、
新しいアイデアを推奨し、
従業員が革新的なソリューションを見つけるように奨励する文化が浸透しています。

教育分野での応用:

トランスフォーマショナルリーダーシップは、
教育現場でも用いられ、
生徒や教師に対して積極的な変革を促進するためにビジョンを掲げ、
指導を行います。

校長や教育リーダーが学校のビジョンを明確にし、
生徒やスタッフにインスピレーションを与える事例があります。

この理論の利点

高いモチベーションとパフォーマンス:

トランスフォーマショナルリーダーは、
フォロワーのモチベーションを高め、
個人および組織全体のパフォーマンスを向上させる効果があります。

変革に強い:

組織全体が変化に柔軟に対応できるようになるため、
環境の変化や競争に対して強くなります。

この理論の限界

時間とリソースの必要性:

トランスフォーマショナルリーダーシップは、
フォロワーに対して一人ひとりに配慮するため、
多くの時間やリソースを必要とします。

リーダーの能力に依存:

リーダーが効果的にビジョンを伝えたり、
インスピレーションを与えたりする能力が低い場合、
理論の効果が十分に発揮されないことがあります。

整理すると

トランスフォーマショナルリーダーシップは、
ビジョン、エンパワーメント、
個別的配慮を通じて、
フォロワーの行動を変革し、
組織のパフォーマンスを向上させる理論です。

リーダーが組織における変革の原動力となり、
フォロワーを刺激して変革を推進することが求められます。