ゴールマンのリーダーシップスタイル3

前回は医療業界における初級、中級、上級におけるリーダーの年齢・経験・性別の分布について見ていきました。

ここでは、医学教育におけるリーダー(初級・中級・上級)が使用するリーダーシップスタイルの優先順位を示し、
スタイルごとの頻度と比較を見ていきます。

ゴールマンの6つのリーダーシップスタイル

上記のデータはリーダーシップスタイルの利用頻度を表しています。
ビジョナリー、コーチング、アフィリエイティブ、デモクラティック、
ペースセッティング、コマンド)がどの程度使われているかが分かります。

Table 2のデータの意味

ランキングリーダーシップスタイル初級リーダー(First-level)中級リーダー(Middle-level)上級リーダー(Senior-level)
1位デモクラティック (Democratic)50%25%17%
2位コーチング (Coaching)43%50%17%
3位ビジョナリー (Visionary)25%25%33%
4位アフィリエイティブ (Affiliative)11%0%33%
5位ペースセッティング (Pacesetting)4%0%0%
6位コマンド (Commanding)0%0%0%

リーダーシップスタイルの傾向

1. 初級リーダーは「デモクラティックスタイル」が最多

  • 初級リーダー(医学部学生や研修医代表)は、50%がデモクラティック(民主的)スタイルを最も多用。
  • 学生や若手のリーダーは、権限が限られているため、協力を引き出すリーダーシップが必要
  • コーチング(43%)も比較的高い
    → 仲間の成長を促す姿勢が求められています。
  • ビジョナリー(25%)の割合は中級・上級より低い
    → 若手リーダーは、長期的なビジョンよりも現場の協調を優先。

2. 中級リーダーは「コーチングスタイル」が最多

  • 50%がコーチング(Coaching)を最も使用し、2位にデモクラティック(25%)。
  • 中級リーダー(カリキュラム責任者、プログラムディレクターなど)は、
    指導や育成の役割が大きいため、コーチングを通じて部下のスキル向上を促すことが求められます。
  • ビジョナリー(25%)も一定数いるが、これは中級リーダーとしてのリーダーシップが、
    戦略的な方向性を示す役割へ移行しつつあることを示しています。

3. 上級リーダーは「ビジョナリー」と「アフィリエイティブ」を多用

  • ビジョナリー(33%)とアフィリエイティブ(33%)が最も多い
  • 上級リーダー(副学部長・学部長)は、組織の方向性を決める役割があるため、ビジョナリー(長期的な展望を示すリーダーシップ)を多用
  • また、アフィリエイティブ(チームの調和を重視するスタイル)も重要視されている → 上級リーダーは、組織全体の士気や協力体制の維持に努めている。
  • これは「戦略的なリーダーシップ」と「人間関係の調整」の両方が必要であることを示唆。

4. 上級リーダーは「ペースセッティング」や「コマンド」をほぼ使用しない

  • ペースセッティング(Pacesetting)やコマンド(Commanding)はほぼ使われていない。
  • 組織全体を率いる立場では、権威を振るうのではなく、関係構築と方向性の提示が求められる。
  • ただし、追加のインタビュー(Phase II)では、一部の上級リーダーが緊急時にペースセッティングやコマンドを使う場面もあった。

データの意義

  1. リーダーシップスタイルは階層によって異なる
    • 初級リーダーはデモクラティック(協調重視)
    • 中級リーダーはコーチング(指導・育成)
    • 上級リーダーはビジョナリー(長期戦略)とアフィリエイティブ(組織の調和)
  2. 経験を積むにつれ、スタイルが変化する
    • 初級リーダーは「現場の協力を得るリーダーシップ」が求められ
      トップダウンではなくボトムアップ型。
    • 中級リーダーは「育成」と「調整」
      → 組織の目標を考えながらメンバーを導く。
    • 上級リーダーは「ビジョン」と「関係構築」
      → 組織全体を俯瞰しながら方向性を示す。
  3. ペースセッティングやコマンド型のリーダーシップはあまり使われない
    • 医学教育のリーダーは、権威的なスタイルではなく、共感と協力を重視。
    • ただし、追加インタビューでは、
      結果を早く出す必要がある場合にペースセッティングやコマンドが使われることもある

リーダー研修での応用

リーダーレベル推奨される研修の焦点
初級リーダー(学生・研修医)デモクラティックな意思決定、協調的リーダーシップの訓練
中級リーダー(教育プログラム責任者)コーチングスキル、育成型リーダーシップの強化
上級リーダー(学部長・副学部長)ビジョン構築、組織マネジメント、アフィリエイティブ型の関係構築

このように、各階層ごとに適切なリーダーシップ研修を設計することが効果的


まとめ

  • Table 2は、リーダーシップスタイルの使用傾向を階層ごとに示しており、
    経験と役割に応じたリーダーシップの変化が見られます。
  • 初級リーダーは「協調重視」、中級リーダーは「指導と育成」、
    上級リーダーは「ビジョンと関係構築」が求められます
  • リーダー研修では、各階層ごとに適切なスキルを伸ばすことが重要。

Table 2のデータは、医学教育だけでなく、
企業や公共機関のリーダーシップ研修設計にも応用可能な知見を提供しています。

参考資料

Saxena, A., Desanghere, L., Stobart, K., & Walker, K. (2017). 『Goleman’s Leadership Styles at Different Hierarchical Levels in Medical Education』, 2025年2月1日アクセス. https://www.researchgate.net/publication/319922979_Goleman’s_Leadership_styles_at_different_hierarchical_levels_in_medical_education

ゴールマンのリーダーシップスタイル4へつづく