ゴールマンのリーダーシップスタイル5

前回リーダーシップの概念とリーダーシップスタイルの関係と、
ゴールマンの6つのリーダーシップスタイル(ビジョナリー、コーチング、アフィリエイティブ、
デモクラティック、ペースセッティング、コマンド)のランキングの平均値と階層ごとの違いを見ていきました。

ここでは上級リーダーのインタビュー結果とリーダーシップスタイルの選択の影響についてお話を進めていきます。

上級リーダー(シニアリーダー)のインタビュー結果

Table 3b)は、追加で実施した上級リーダー(学部長・副学部長)の詳細なインタビュー結果を示しており、
個別のリーダーがどのスタイルを使っているかを示しています。

リーダービジョナリーコーチングアフィリエイティブデモクラティックペースセッティングコマンド
リーダー1××
リーダー2
リーダー3××
リーダー4××
リーダー5×
リーダー6××
リーダー7
リーダー8×

1. 上級リーダーのリーダーシップスタイル

  • 全員が「ビジョナリー(✓)」を使用
    → 戦略を立てる立場にあるため、方向性を明確に示すことが重要。
  • デモクラティック(✓)もほぼ全員が使用
    → 組織の意思決定に関して、関係者と対話しながら進める姿勢がある。
  • ペースセッティングやコマンドを使うリーダーも一部存在
    → 組織が変革期にある場合や、成果を早急に出す必要がある場面では、厳格なスタイルが必要になる。

データの意義

  1. リーダーシップスタイルの階層ごとの違いを明確に示している
    • 初級リーダーは「協調型・育成型」。
    • 中級リーダーは「育成型・人間関係重視」。
    • 上級リーダーは「戦略型・関係構築型」。
  2. 権威型のリーダーシップ(コマンド)はほとんど使用されない
    • 医学教育ではトップダウンよりも共感と協調が重要
  3. 上級リーダーの柔軟なスタイルの使い分けが見られる
    • 組織の状況によって、ペースセッティングやコマンドスタイルを適宜使用するケースもある。

まとめ

  • Table 3は、リーダーシップスタイルの使用頻度を統計的に示し、
    階層ごとの違いを可視化している。
  • 初級リーダーは「デモクラティック・コーチング」、
    中級リーダーは「コーチング・アフィリエイティブ」、
    上級リーダーは「ビジョナリー・デモクラティック」が多い。
  • リーダーシップ研修では、各階層ごとに適切なスキルを重点的に育成することが重要。

Table 3の分析は、組織全体のリーダー育成戦略の設計において、
非常に有用なデータとなります。

Figure 2(Fig2)の詳細解説

Fig2は、医学教育におけるリーダーシップスタイルに影響を与える要因を示した概念モデルであり、
リーダーがどのようにスタイルを選択し、変化させるかを可視化したものです。


Figure 2の構成

Fig2は、リーダーシップスタイルの選択に影響を与える要素を複数のカテゴリーに分け、
関係性を示している図 です。主に以下の4つの主要要素から構成されています。

1. リーダーシップスタイルの要素

Fig2の中心には「リーダーシップスタイル」があり、リーダーの意思決定に影響を与える以下の要素に囲まれています。

  • ビジョナリー(Visionary)
  • コーチング(Coaching)
  • アフィリエイティブ(Affiliative)
  • デモクラティック(Democratic)
  • ペースセッティング(Pacesetting)
  • コマンド(Commanding)

リーダーは、状況に応じてこれらのスタイルを選択・組み合わせて活用します。


2. 外部環境要因(Contextual Factors)

リーダーシップスタイルの選択に影響を与える外部環境の要因がFig2に示されています。主な要因は以下の通りです。

要因説明
組織の文化(Organizational Culture)医学部や病院の風土がリーダーの行動に影響を与える
リーダーの責任(Leader Accountabilities)階層ごとに異なるリーダーの役割や責任範囲
リーダー自身の位置づけ(Leader’s Situational Awareness)組織内での自分の立ち位置をどう理解するか
変化の必要性(Change and Evolution of the Situation)組織の変革の段階によって必要なリーダーシップが変わる
ステークホルダーとの関係(Stakeholder Engagement)医学生・研修医・教員・病院経営陣などとの関係性

→ これらの要因によって、リーダーがどのスタイルを選択するかが変わります。


3. 個人的な要因(Individual Leader Factors)

リーダーのリーダーシップスタイルには、
リーダー個人の資質や価値観も大きく影響 します。Fig2では以下の要素が挙げられています。

個人要因説明
リーダーシップの概念化(Leadership Conceptualization)リーダーが「リーダーシップとは何か?」をどう捉えているか
自己認識(Self-Awareness)自分の得意なリーダーシップスタイルを理解しているか
リーダーとしての好み(Personal Preferences)どのスタイルが「心地よい」と感じるか
スタイルへの適応力(Comfort with Style Adaptability)必要に応じて他のスタイルに切り替えられるか
組織内での立場(Leader’s Positional Authority)公式な権限がどの程度あるのか

例えば、「指導することが好きなリーダー」はコーチングスタイルを多用するが、
「意思決定を重視するリーダー」はデモクラティックスタイルを好むなどの影響がある。


4. 医学教育特有の要因

医学教育のリーダーシップには、他の業界にはない特有の要因 も影響します。
Fig2では、以下のような要素が考慮されています。

医学教育特有の要因説明
医師の専門性(Physician Professionalism)医師は強い専門的自律性を持っているため、トップダウンのリーダーシップが受け入れられにくい
教育改革の影響(Educational Reform)新しい教育カリキュラム(例:Competency-based education)がリーダーシップスタイルに影響
学生・研修医の期待(Trainee Expectations)若手医師は共感的・指導型のリーダーシップを求める傾向
医療機関との関係(Institutional and Clinical Responsibilities)教育機関だけでなく、病院の経営や臨床業務の影響を受ける

→ これにより、リーダーは「臨床現場での指導(コーチング)」と
「組織の戦略(ビジョナリー)」をバランスよく使い分ける必要がある。


Figure 2の意義

  1. リーダーシップスタイルの選択は、多くの要因に影響される
    • 組織の文化、リーダーのポジション、個人的な価値観、医学教育の特性などが絡み合い、リーダーのスタイルを決定する。
  2. 柔軟なリーダーシップが必要
    • リーダーは**「単一のスタイル」に固執するのではなく、状況に応じてスタイルを切り替える能力が求められる。**
    • 例えば、「学生教育ではコーチング」、「病院運営ではビジョナリー」など、適切なスタイルの使い分けが必要。
  3. 医学教育では「トップダウン型」より「協調型」が求められる
    • 医学教育の現場では、ペースセッティングやコマンドのような強権的なリーダーシップはあまり受け入れられない
    • 代わりに、デモクラティックやコーチングを中心とした柔軟なスタイルが必要

リーダー研修の視点からの応用

Figure 2のモデルは、リーダー育成プログラムの設計に活用できる。
リーダーが状況に応じた適切なスタイルを選択できるよう、
以下のようなトレーニングが有効。

リーダー層研修のフォーカス
初級リーダー(学生・研修医)自己認識、デモクラティック型の意思決定、チームマネジメント
中級リーダー(教育責任者)コーチングスキル、リーダーシップ適応力、関係構築
上級リーダー(学部長・副学部長)戦略的思考、ビジョナリーリーダーシップ、組織文化のマネジメント

まとめ

  • Fig2は、リーダーのリーダーシップスタイルの選択に影響を与える要因を体系的に示したモデルである。
  • 組織文化、個人の特性、医学教育の特性が絡み合い、
    リーダーシップスタイルが決まる。
  • リーダーは、状況に応じてスタイルを切り替える柔軟性が求められる。
  • リーダー育成では、階層ごとの適切なスキルを重点的に強化することが重要。

このモデルを活用すれば、医学教育だけでなく、
一般の組織のリーダー育成にも応用可能なフレームワークを作ることができる。

参考資料

Saxena, A., Desanghere, L., Stobart, K., & Walker, K. (2017). 『Goleman’s Leadership Styles at Different Hierarchical Levels in Medical Education』, 2025年2月1日アクセス. https://www.researchgate.net/publication/319922979_Goleman’s_Leadership_styles_at_different_hierarchical_levels_in_medical_education

ゴールマンのリーダーシップスタイル6へつづく