ビッグファイブと地域特性と地方創生

「日本におけるBig Fiveパーソナリティの地域差の検討」に関する研究論文があります。

地域差で性格特性の違いがあるのかを研究しています。
パーソナリティと地域差に関する研究は、
地方創生と地域活性化へのヒントとなることがあるのではと考えました。
この研究調査が地方創生と地域活性化に活かせるのか。
まずは地域差である地域特性と性格特性の観点から話を進めていきます。

地域特性と性格特性は関連する

研究目的と方法

  • 日本国内におけるBig Fiveパーソナリティ特性(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)の地域差を検討。
  • 3つの大規模調査データセット(約14,000名)を用いて都道府県ごとの特性分布を分析。
  • パーソナリティ特性の分布を地図上にマッピングし、地域的な集積の有無を確認。

1. 研究の目的と方法の詳細

目的:

  • 日本国内におけるBig Fiveパーソナリティ特性(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)の地域差を調査し、
    地域ごとの傾向を分析。

方法:

  • データセットの構成:
    • 調査1: 4,469名 (大阪大学COEプログラムのアンケート)
    • 調査2: 5,619名 (DSPJプロジェクトによるWeb調査)
    • 調査3: 4,330名 (DSPJ-2プロジェクトによるWeb調査)
    • 合計: 14,418名
  • パーソナリティ尺度:
    • Ten-Item Personality Inventory (TIPI-J) を用いてBig Five特性を測定。
      各特性を2項目ずつ7段階で評価。
  • 居住地情報の取得方法:
    • 調査1: 都道府県の符号を利用。
    • 調査2・3: 郵便番号から都道府県を特定。

分析手法:

  • 都道府県ごとに年齢と性別を統制し、各Big Five特性の平均値を算出。
  • Moran’s I を用いて地理的な集積の有無を検証(隣接する地域間の特性類似度を評価)。
  • Gi* 統計量を算出し、日本地図上にマッピング。

2. 主な分析の詳細

地理的な分布と集積:

  • 外向性: 首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)と沖縄県で高く、中国地方(山口県、鳥取県など)で低い。
  • 協調性: 九州東部(大分県など)や沖縄県で高く、北陸地方(富山県、石川県など)で低い。
  • 勤勉性: 東北地方(岩手県、宮城県、秋田県など)で低い。
  • 神経症傾向: 東北地方(岩手県、秋田県など)と中国地方(山口県、島根県など)で高く、沖縄県で低い。
  • 開放性: 九州北部(福岡県、大分県など)で高い。

各地域のビッグファイブ傾向

(1) 外向性 (Extraversion)

  • 高い地域: 首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、沖縄県
  • 低い地域: 中国地方(山口県、鳥取県など)
  • 考察: 都市部では多様な交流が求められるため、外向性が高い住民が集まりやすい。
    観光業が盛んな沖縄県も対人交流が多い​。

(2) 協調性 (Agreeableness)

  • 高い地域: 九州東部(大分県など)、沖縄県
  • 低い地域: 北陸地方(富山県、石川県など)
  • 考察: 農業地域の方が地域住民間の協力が必要とされるため、
    協調性が高いと考えられる。逆に、都市部は個人主義的な傾向が見られる​。

(3) 勤勉性 (Conscientiousness)

  • 低い地域: 東北地方(岩手県、秋田県、宮城県など)
  • 考察: 東北地方は冬季の厳しい気候や高齢化が進むため、
    生活環境の厳しさが勤勉性に影響していると考えられる​。

(4) 神経症傾向 (Neuroticism)

  • 高い地域: 東北地方(岩手県、秋田県など)、中国地方(山口県、島根県など)
  • 低い地域: 沖縄県
  • 考察: 厳しい気候や人口流出の進む地域ではストレスが高まり、
    神経症傾向が強くなる。一方、温暖な気候の沖縄県では神経症傾向が低い​。

(5) 開放性 (Openness)

  • 高い地域: 九州北部(福岡県、大分県など)
  • 考察: 都市化が進む地域では新しい価値観が受け入れられやすく、
    開放性が高い住民が多くなる傾向がある​。

3. 地図上の可視化 (Gi* 統計量)

  • 各パーソナリティ特性の地域分布を日本地図上にプロット。
  • 統計量Gi*を用い、値が高い地域は赤、低い地域は青で表示。
  • 3つのデータセットの平均値に基づき、視覚的な地理的分布を示す。

4. 研究結果のまとめ

  • 各特性の地域差は、日本国内の地域特性や社会環境に密接に関連している。
  • 統計的に意味のある地域差が確認されたのは「外向性」のみで、
    他の特性は明確な集積が見られていません。
  • 選択的移住や社会的影響、生態的影響がパーソナリティに与える影響が示唆され、
    さらなる研究の必要性が述べられています。

5. 考察

  • 主な要因の考察:
    • 社会的影響: 都市部では外向性と開放性が高い。
    • 生態的影響: 東北地方や中国地方は生活環境が厳しく、神経症傾向が高い。
    • 選択的移住: 外向性の高い人々が都市部へ移住する傾向が影響。

パーソナリティ・地域差の要因

生態的影響、社会的影響、選択的移住に関連する研究事例を示します。


1. 生態的影響

  • 生活環境の厳しい地域では、
    パーソナリティ特性に特定の傾向が見られる例として、
    炭鉱地帯の研究があります。
    旧炭鉱地帯では、衛生状態の悪さ、労働環境の過酷さ、
    経済的な困難が住民の神経症傾向の高さ勤勉性の低さに影響を与えると報告されています​。

2. 社会的影響

  • 社会的影響として、
    地域の慣習や住民間のコミュニケーションがパーソナリティ特性に影響を及ぼす可能性が示されています。
    例えば、農村地域の住民は漁村地域の住民よりも近隣住民との調和を重視し、
    評判を気にする傾向が強いことが確認されています​。

3. 選択的移住

  • 選択的移住に関連する研究では、
    都市部への移住者は外向性開放性高い傾向があります。
    首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)などの都市部に多くの転入者が集まり、
    これが地域特性に影響を与えていると考えられています​​。

総合的な考察

  • これら3つのメカニズムは相互排他的ではなく、
    複合的に影響することが考えられます。
    たとえば、過疎化が進む地域では神経症傾向が高くなる一方、
    都市部への移住が外向性や開放性の高い住民の集中を引き起こす可能性があります​

地域特性とビッグファイブは関連してく流と考えても良さそうです。

研究の成果とその有効性

1. 環境的要因とビッグファイブ

ビッグファイブパーソナリティ分析は、
環境的要因が人々の性格特性にどのように影響するかを調べる 有効な手段 と考えられています。
環境的な要因について挙げていきます。

生態的影響の実証例:
  • 厳しい気候条件: 東北地方では寒冷な気候と経済的困難が神経症傾向の高さや
    勤勉性の低さに影響していることが確認されています​​。
  • 自然環境と産業: 沖縄県では温暖な気候と観光産業の発展が、
    外向性や協調性の高さに寄与していると考えられています​。

2. 社会的影響の有効な説明ツール

  • 社会的交流: 都市部の住民は社会的なつながりが多く、
    外向性や開放性が高い傾向があります。
    選択的移住による人口流入がこれに影響していると示されています​​。
  • 文化的慣習: 農村地域では、地域社会への帰属意識が高まり、
    協調性が強化されることが報告されています​。

3. 選択的移住と人口動態の分析手段

  • 移住の影響: ビッグファイブ分析を用いることで、
    移住の要因とその結果を明確に示すことができます。
    たとえば、都市部への移住者は外向性や開放性が高い傾向があり、
    これが地域的なパーソナリティ特性の形成に影響を与えます​​。

4. 国際的な比較研究の適用可能性

  • 他国の研究でもビッグファイブは広く活用されています。
    • アメリカ: 州ごとの犯罪率や健康指標との関連​。
    • 中国: 気候による文化的特性の違いを検証​。

5. 有効性を高めるための課題

  • データの一貫性: 測定方法の違い(Web調査 vs. 面接調査など)や地域サンプルのばらつきが影響するため、
    複数のデータセットを統合することで、より頑健な結論を得る必要があります​。
  • 社会的帰結の分析: 地域差が犯罪率、健康、経済成長などの指標と
    どのように結びついているかのさらなる研究が期待されます​​。

研究の限界

  • TIPI-Jの制約: 各地域の平均値が 測定誤差 の影響を受けやすく、解釈に注意が必要。
  • サンプルのばらつき: サンプル数が多い都道府県の方が 信頼性の高い結果 を得られるため、
    サンプルの少ない地域の結果は 慎重な扱い が求められます。

今回の研究においても限界があります。そこを踏まえて調査の結果を、
地方創生や地域活性化という観点から考えていきます。

地方創生や地域活性化の施策

今回の研究・調査には限定的な制限がありますが、
この結果が日本活性化、地方創生の政策設計に貴重な視点を提供します。

1. 地域の強みを生かした産業政策の推進

事例と影響:
  • 沖縄県: 外向性・協調性が高く、観光業が盛んな地域。
  • 提案: 観光、ホスピタリティ産業、サービス業の強化政策。
    地域住民の対人スキルを生かした国際観光戦略の展開​。

2. 移住促進と選択的移住の活用

事例と影響:
  • 首都圏: 開放性が高く、新しいアイデアを受け入れやすい地域。
  • 提案: 創造産業の誘致や起業支援の強化。
    地域文化を発信する拠点づくりによる若年層の移住促進​​。

3. 地域文化と観光の振興

事例と影響:
  • 北海道: 集団主義が弱く、独立志向が強い地域。
  • 提案: 自然体験型ツーリズムや地域独自の文化を発信するプログラムの開発。
    移住促進キャンペーンにおいて独立志向の強い個人を対象とする戦略​。

4. 教育・人材育成プログラムの最適化

事例と影響:
  • 九州北部: 開放性が高く、創造性を発揮しやすい地域。
  • 提案: 創造的な人材を育成するプログラムの導入。
    例えば、地域の伝統工芸やアート、IT産業に特化した教育機関の設立​。

5. 福祉・健康政策の充実

事例と影響:
  • 東北地方: 神経症傾向が高く、勤勉性が低い傾向。
  • 提案: 地域のメンタルヘルス支援と雇用支援を統合した政策を展開。季節労働や副業支援プログラムの提供​。

6. 地域のアイデンティティを高める文化政策

事例と影響:
  • 日本各地: 文化的特徴の維持と観光誘致。
  • 提案: 地域の歴史や伝統に基づいたマーケティング戦略を策定し、
    地域独自の魅力を全国的・国際的に発信​​。

7. 地域特性に応じた政策設計の必要性

  • 地方創生には 画一的な政策ではなく、
    地域のパーソナリティ特性に応じた施策の導入 が重要です。
    地域ごとの性格的特性を把握し、それに合わせた経済・社会政策を展開することで、
    地域活性化が期待されます。

このように、
パーソナリティ研究は地域特性に根ざした政策立案のための実証的な基盤を提供し、
地方創生戦略の策定において重要な視点を提供できるのではないでしょうか。

日本は実は観光大国です。灯台下暗しで、
私たち自身が気づけていない良さを海外の人が気づいているのです。
インバウンドで賑わっているというニュースをコロナ以降よく耳にします。

最後は町おこしで大切なことを3つ挙げておきます。
『1.本来その地域が持っている地域性やオリジナリティ、文化をいかに熟成させ、
際立たせることができるか。
2.その地域特性をアピールするための創意工夫とマーケティングがどれだけできるか。
3.いかに地域全体が一丸となって「わが街を活性化しよう」と本気で取り組むか。』
(堀貞一郎『メイド・イン・ジャパンからウェルカム・ツー・ジャパンへ』、出版社プレジデント社、2002年、p.182)

地方創生や地域活性化は日本の課題でもあります。
課題解決のために、この研究が良いヒントになれば幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

吉野伸哉・小塩真司 (2024). 『日本におけるBig Fiveパーソナリティの地域差の検討』, 2024年12月10日アクセス. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jenvpsy/9/1/9_19/_article/-char/ja/