ビッグファイブと安全運転

今回ご紹介するのはビッグファイブと運転に関して調査した論文があります。
プロフェッショナルなトラック運転手の性格と運転行動(速度や車線内の位置)との
関連を調査した研究論文です。内容は…

ドライバーの性格と安全運転

  • 研究目的: トラック運転手の性格(ビッグファイブ、感覚追求、現在志向の時間的視点)と
    運転行動(速度や車線内の位置)との関連を調べること。
  • 重要な背景: 過去の研究では、自動車運転者の性格とリスク行動の関連が示されていますが、
    プロフェッショナル運転手についてのデータは限られています。

研究方法

  1. 参加者:
    • 41名のプロのトラック運転手(全員男性、平均年齢40.4歳)。
    • チェコ共和国のトランスポートリサーチセンターでリクルートされました。

チェコのトランスポートリサーチセンター(CDV)の研究の特徴

チェコ共和国の「トランスポートリサーチセンター」(CDV – Transport Research Centre)は、
交通に関する研究と政策立案を専門とする機関です。

このセンターは、交通安全、環境、持続可能性に関する研究を行い、
政策や実務への適用を目指しています。この研究でリクルートされた運転手は、

このセンターの研究者の人脈やトラック輸送企業を通じて募集されました。

日本とチェコの交通安全の違い

  1. 交通安全の取り組み:
    • 日本: 高度なインフラ、歩行者優先文化、高齢者向け安全対策が進んでいる。
    • チェコ: EU規制に準拠、一部地域でインフラ未整備、飲酒運転が課題。
  2. 事故率と原因:
    • 日本: 低い事故率。原因は高齢者の操作ミスや自転車との接触。
    • チェコ: 平均的な事故率。原因は飲酒運転や速度超過。
  3. 運転者教育:
    • 日本: 厳格な免許制度や高齢者講習。
    • チェコ: シンプルな教育。プロドライバー向け心理評価がある場合も。
  4. 文化の違い:
    • 日本: 規律重視、公共交通が充実。
    • チェコ: 個人車利用が一般的、地方でルール遵守意識がばらつきがち。

まとめ

両国の違いを活かし、交通安全政策で相互学習が可能。

チェコの研究は地域特性に特化、日本の安全対策は規律と技術が中心。

次にビッグファイブと走行速度はどの程度関連していたかをご案内。

ビッグファイブと走行速度の関連

  1. 誠実性 (Conscientiousness):
    • 誠実性が高い運転手は、速度が遅い傾向がありました。
    • 特に、80/70シナリオ(カーブがあり、速度制限が変更される)では、
      誠実性が高い運転手が他の運転手よりも顕著に速度を落とすことが観察されました。
    • 誠実性は、リスクを避ける慎重な運転スタイルと関連することが確認されました。
  2. 外向性 (Extraversion):
    • 外向性と速度との間に有意な関連は見られませんでした。
    • 過去の研究では、低外向性が速度超過と関連することが示唆されていますが、
      この研究ではその関連性は確認されませんでした。
  3. 神経症傾向 (Neuroticism):
    • 神経症傾向と速度との間に有意な関連は見られませんでした。
  4. 開放性 (Openness to Experience):
    • 開放性と速度との間に有意な関連は見られませんでした。
  5. 協調性 (Agreeableness):
    • 協調性と速度との間に有意な関連は見られませんでした。
    • 過去の研究では、低協調性がリスクの高い運転行動と関連するとされていますが、
      この研究では速度に対しては影響が確認されませんでした。

主な発見

  • 誠実性が速度の低下と関連:
    • 高い誠実性は、安全運転の指標である速度抑制と明確に結びついていました。
    • 特に、カーブや速度制限の変更がある場面で顕著でした。
  • 他の性格特性(外向性、神経症傾向、開放性、協調性)については、速度との関連が確認されませんでした。

この結果は、特定の性格特性が運転行動におけるリスク管理にどのように寄与するかを示しています。
誠実性の高さが安全運転に直結するという点は、
交通安全教育や運転免許更新のプロセスでの応用可能性を示唆します。

ビッグファイブが運転行動に対する影響を調べた内容をご案内。

車線内の位置と性格(感覚追求、外向性)の関連

研究・調査の経緯

この研究では、プロフェッショナルなトラック運転手の性格特性と
運転行動の関係性を明らかにするため、特に「車線内の位置」に注目しました。

この点についての調査は、以下の背景からです。

  1. リスク行動と車線位置の関係:
    • 車線内の位置(特に中央に近い位置)は、交通安全に重要とされています。
      中央に近い位置を維持することは、対向車や道路の障害物との衝突リスクを軽減します。
    • 過去の研究では、道路の周辺環境(例: 木々の位置や道路幅)により、
      車線内の位置が変化することが確認されています。
      しかし、性格特性が車線内の位置にどのように影響するかは十分に研究されていませんでした。
  2. 感覚追求・外向性との関係:
    • 感覚追求(Sensation Seeking)はリスクの高い行動(例: スピード超過、危険な運転)との
      関連が過去の研究で確認されています。
      興奮や刺激を求める性格特性が運転行動にどう反映されるかを調べる必要がありました。
    • 外向性はリスク行動と関連があり、過去の研究では、
      外向的なドライバーがより大胆な運転行動を示す傾向があるとされています。

本研究の方法と発見

  • 運転シミュレーターを用いて、運転手が異なるシナリオ(カーブのある道、直線道など)で
    どの位置を選ぶかを観察しました。
  • 結果:
    • 感覚追求と外向性が高い運転手は、
      車線内の右側(道路の端に近い位置)を選ぶ傾向がありました。
    • 車線中央を避ける行動は、
      刺激を求める傾向やリスクを過小評価する性格特性と一致しています。

性格の予測力に関する研究の意義

研究が行われた理由

性格が運転行動の予測因子となる可能性に関する研究は、
以下の理由から進められました。

  1. 交通事故予防:
    • 交通事故はしばしばドライバーの判断や行動ミスに起因します。
      これらの行動は性格特性(例: 感覚追求、誠実性)と強く関連している可能性が示唆されていました。
    • 性格に基づきリスクの高い運転手を特定することで、
      事故予防策を個別に設計できる可能性があります。
  2. 既存研究の知見拡大:
    • 過去の研究は主に一般運転者を対象としていましたが、
      プロフェッショナルな運転手(例: トラックドライバー)については限定的でした。
    • 彼らの運転行動は、仕事特有のストレスや条件
      (長時間運転、重い車両の操作など)が関与するため、
      一般ドライバーとは異なる要因が働くと考えられました。
  3. 心理評価の活用:
    • チェコでは、プロの運転手は免許更新時に心理評価を受ける必要がある場合があります。
    • このため、性格特性を測定して運転リスクを予測する研究は、
      政策的に実用性が高いと考えられました。

性格が予測因子となる理由

性格特性は、ドライバーの行動に直接影響を与える安定した心理的特徴です。

  • 感覚追求: 高い感覚追求はスピード超過やリスクの高い位置選択(車線内の右側など)と関連し、
    リスク管理が弱いことを示します。
  • 誠実性: 誠実性が高い人は、慎重で規則を守る行動をとり、
    速度を抑える傾向が確認されています。

性格分析が安全運転をさらに深化させる

  1. 車線内の位置と性格: 車線内の位置選択は感覚追求や外向性と関連し、
    刺激やリスクへの反応が反映されることが確認されました。
  2. 性格の予測力の重要性: 性格特性を通じて、
    リスク行動を予測し、個別の教育や安全対策を実施する可能性が示されました。

この研究は、運転行動と心理的特性を結びつけることで、
交通安全に向けた科学的根拠を提供しています。

上記の内容から、安全運転のためにトレーニングプログラムを考えてみます。

トレーニングプログラムの要点

1. 性格評価に基づく個別対応

  • 感覚追求が高いドライバー:
    • スピード管理やリスク認識の訓練。
    • シミュレーターでリスク体験を実施。
    • スピード制御スキルの向上。
  • 誠実性が低いドライバー:
    • ルール遵守の重要性を学習。
    • シミュレーターでルール違反のリスクを体験。
    • 目標設定と行動計画のサポート。
  • 外向性が高いドライバー:
    • 注意力を高める訓練。
    • 安全な車線位置を保つ習慣作り。

2. シミュレーション技術の活用

  • 特定の運転シナリオ(カーブ、速度制限など)を再現。
  • 運転後に性格特性に基づいたフィードバックを提供。

3. グループワークと自己反省

  • 同じ性格特性を持つドライバー同士でワークショップを実施。
  • 自分の運転行動を振り返り、改善目標を設定。

現在日本では高齢ドライバーの事故や危険運転が問題となっています。
交通安全を維持するためにできることは以下のようになってきます。

日本への応用と高齢ドライバーへの適用

日本では高齢ドライバーによる事故が増加しているため、
この研究の知見を活用して以下のような交通安全政策やトレーニングプログラムを設計できます。

1. 高齢ドライバー向け性格評価と個別教育

  • 高齢者特有の課題: 認知機能や身体的能力の低下があるため、
    これらと性格特性を組み合わせた総合評価を実施。
  • 具体例:
    • 感覚追求が高い高齢者には、速度制御を強調するトレーニング。
    • 誠実性が低い高齢者には、信号や道路標識の重要性を実地で体験させる。

2. 認知機能と性格特性の統合評価

  • 日本の免許更新時には認知機能検査が行われていますが、
    性格特性評価を統合することで、より包括的なリスク評価が可能になります。
  • : 感覚追求が高い高齢者はリスクを過小評価する傾向があるため、
    危険を実感させるトレーニングを重点化。

3. 地域に応じた政策の柔軟性

  • 都市部では歩行者や自転車との事故防止のため、車線内の位置維持を強調する教育。
  • 農村部では、直線道路での速度超過を抑制するための訓練。

4. テクノロジーの活用

  • 車両内の速度制御や車線逸脱警告システムの利用を義務化。
  • 高齢ドライバーには、操作が簡単で安全機能が強化された車両を推奨。

日本の交通政策へのヒント

  1. 心理評価の導入:
    • 性格特性を評価する心理テストを免許更新時に導入することで、
      リスクの高いドライバーを早期に特定。
  2. シミュレーター訓練の普及:
    • 高齢者やリスクドライバーが運転行動を視覚的・体感的に理解できるシミュレーターを広範に活用。
  3. 教育プログラムの個別化:
    • 性格や認知能力に基づいて、トレーニング内容を個別に調整する仕組みを整備。
  4. 地域ごとの課題に対応:
    • 都市部と地方部の交通事情に応じたプログラムを柔軟に提供。

いかがでしたでしょうか、チェコ共和国の交通安全への取り組みは、
日本でも取り入れる施策があると考えられます。
ビッグファイブは海外では利用されているのですが、
日本ではまだまだ浸透していません。

いろいろなデータはありますが、ビッグファイブ分析データがあまり使わないのが不思議でなりません。
心理学のデータは普段何気なく使うのになと、個人的には疑問符が頭に浮かびます。
これからどんどん使われていくものだと思います。
また世界で最も論文数が多い性格分析ですので、知っていただけるように、
泥臭く地道に情報発信して参ります。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Linkov, Václav, Aleš Zaoral, Pavel Řezáč, & Chih-Wei Pai (2019). 『Personality and professional drivers’ driving behavior』, 2024年12月1日アクセス. https://doi.org/10.1016/j.trf.2018.10.017