この研究は、交通事故の避難行動と性格特性(主にビッグファイブ特性:神経症傾向、
外向性、開放性、協調性、誠実性)との関連を探ることを目的としています。
実験では、交通事故をシミュレートした動画(爆発を含むシーンと含まないシーン)を被験者に視聴させ、
その避難行動を観察しています。
ビデオを用いた実験と一般線形モデルを活用し、
性格特性や爆発の影響が避難行動に及ぼす定量的な影響を分析しているという内容です。
事故災害時のビッグファイブと避難行動
実験の詳細
- 被験者は大学生200名(男性68名、女性132名)。
- 被験者は、実験前にビッグファイブ性格特性、状態不安、特性不安、抑うつの質問票に回答。
- シミュレーションでは、2つの異なる動画を視聴。1つは通常の運転シーン、もう1つは爆発を含むシーン。
モデルの構築
主要変数:
- 独立変数: 性格特性(神経症傾向、外向性、開放性、協調性、誠実性)、爆発シナリオ(有無)
- 従属変数: 避難反応時間、避難速度、避難方向(近いドア vs 遠いドア)
モデル構造:
- 主効果: 性格特性や爆発シナリオの避難行動への直接的影響
- 相互作用効果: 性格特性と爆発シナリオの組み合わせによる避難行動への影響
適用方法:
- 性格特性ごとに主効果モデルと相互作用モデルを構築
- 従属変数の性質に応じて正規分布または二項分布を用いて推定
という内容で調査しています。
主な結果
主効果モデルの結果
性格特性や爆発シナリオの避難行動への主な影響:
- 神経症傾向:
- 反応時間: 高い神経症傾向の人は反応時間が短い。
- 速度: 避難速度は遅い。
- 方向: 爆発源から遠いドアを選択する傾向が強い。
- 外向性:
- 反応時間: 高い外向性の人は反応時間が短い。
- 速度: 避難速度がやや遅い。
- 方向: 遠いドアを選ぶ傾向がある。
- 開放性・協調性:
- 速度: 高い開放性・協調性の人は避難速度が遅くなる。
- 方向: 爆発源に近いドアを選ぶ傾向がある。
- 誠実性:
- 反応時間: 反応時間が短い。
- 速度: 避難速度が速い。
- 方向: 爆発源から遠いドアを選ぶ傾向がある。
- 爆発シナリオ:
- 爆発が発生すると、反応時間が短縮され、避難速度が向上。
- 爆発源に近いドアを選ぶ傾向が増加。
相互作用モデルの結果
性格特性と爆発シナリオの相互作用の影響:
- 神経症傾向 × 爆発シナリオ:
- 高い神経症傾向の人は、爆発が発生すると速度が遅くなる一方で、遠いドアを選択する傾向が強化される。
- 感情的な興奮(覚醒度)が高まり、より強い感情的体験を報告。
- 外向性 × 爆発シナリオ:
- 低い外向性の人は、爆発が発生しても比較的穏やかに反応。
- 遠いドアを選択する傾向が顕著。
- 開放性 × 爆発シナリオ:
- 低い開放性の人は、爆発が発生した場合に反応が遅れ、近いドアを選ぶ傾向がある。
- 協調性 × 爆発シナリオ:
- 低い協調性の人は、爆発が発生した場合に速度が遅く、遠いドアを選ぶ傾向が強まる。
- 誠実性 × 爆発シナリオ:
- 高い誠実性の人は、爆発が発生した場合でも迅速に反応し、遠いドアを選ぶ傾向がある。
具体例(データ例)
以下はモデル結果の一部を示したものです:
- 反応時間: 爆発シナリオがない場合は平均1.12秒、爆発シナリオでは0.43秒。
- 避難速度: 神経症傾向が低い場合は1.37 m/s、高い場合は1.39 m/s。
- 避難方向: 高い神経症傾向の人は遠いドア(選択確率約60%)を選ぶ傾向。
この結果は、避難行動の設計や群衆の避難計画の最適化に活用可能です。
また、性格特性を考慮したよりパーソナライズされた安全対策の立案にも寄与します。
避難計画の最適化や安全対策の立案
以下のような場面で活用が可能です。
具体的な活用場面
1. 高層ビルの避難計画
- 課題: 高層ビルでは階段やエレベーターが避難ルートとして利用され、避難が遅れる可能性があります。
- 活用方法:
- 性格特性を考慮した避難指導を行う。たとえば、神経症傾向が高い人には事前に明確な避難指示を提供し、遠い出口を選ぶ傾向があるため、その出口の混雑を想定したプランを設計。
- 外向性が高い人は冷静に行動できる可能性があるため、リーダー役を担わせる。
2. 映画館や劇場の避難計画
- 課題: 観客がパニックになり、出口に殺到することで混雑が発生しやすい。
- 活用方法:
- 高い神経症傾向の人がパニックになりやすいことを考慮し、非常口の分散配置や誘導スタッフによる迅速な誘導を強化。
- 外向性の高い観客をモデルに、冷静な避難誘導シミュレーションを作成し、非常時のリハーサルに活用。
3. 地下街やショッピングモール
- 課題: 複雑な構造や限られた出口が避難を困難にする。
- 活用方法:
- 協調性の高い人は群衆に従う傾向があるため、案内標識や音声ガイドを利用して視覚と聴覚で群衆を誘導。
- 開放性の高い人は柔軟な判断をしやすいため、情報を視覚的に提供し、最適な出口を選ばせる仕組みを設計。
現実の避難計画や個別の行動予測モデルを設計
1. 高層ビル火災
状況
- 火災が発生し、煙が特定の階に充満。エレベーターは使用不可。
- 階段が主な避難経路であるが、煙の影響で視界が制限される。
行動の詳細
- 神経症傾向が高い人:
- 短時間で階段を利用し始めるが、混雑を避けようと遠い出口を選ぶ傾向。
- 感情的覚醒が高まるため、他の避難者との衝突が増える可能性がある。
- 外向性が高い人:
- 冷静さを保ちながら、近い出口を選び、他の人をリードして避難を促進。
- 群衆の混乱を抑える行動を取ることが期待できる。
- 開放性が高い人:
- 煙が少ない別のルートを模索し、柔軟に避難ルートを変える。
- ただし、判断が遅れる場合があり、混雑に巻き込まれるリスクも。
2. 映画館での避難
状況
- 映画の上映中に火災警報が鳴り、全観客が非常口へ向かう必要がある。
- 非常口は2箇所(スクリーンの左右)で、片方は煙で塞がれている。
行動の詳細
- 神経症傾向が高い人:
- 短い反応時間で動き始めるが、より安全と思われる出口(煙が少ない方向)を選ぶ。
- パニックを起こしやすく、他の避難者とぶつかる可能性が高い。
- 協調性が高い人:
- 他者を優先しようとする行動を取るため、避難が遅れることも。
- 秩序だった避難を促す役割を果たすことができる。
- 外向性が低い人:
- 冷静さを保ちながら遠い出口を選ぶ傾向があり、混雑を避ける。
3. 地下鉄火災
状況
- 地下鉄トンネル内で火災が発生し、乗客はホームから非常出口へ向かう必要がある。
- 煙がトンネル内に充満し、光が制限されている。
行動の詳細
- 誠実性が高い人:
- 指示に従い、秩序を保ちながら避難する。
- 適切な速度で移動するため、避難全体の効率向上に寄与。
- 開放性が高い人:
- 別ルートを探し、混雑を避ける傾向がある。
- 非常灯や標識を素早く認識し、それに従う。
- 神経症傾向が低い人:
- 冷静に近い出口を利用し、効率的に避難する。
4. 大規模イベントでのテロ発生
状況
- 屋外イベントで爆発音が聞こえ、混乱が発生。参加者は安全な場所へ避難する必要がある。
- 出口が限られており、一部は混雑している。
行動の詳細
- 外向性が高い人:
- 他の人をまとめ、リーダーシップを発揮。
- 遠い出口を選ぶ傾向があり、混雑を回避。
- 協調性が低い人:
- 自己中心的な行動を取り、混雑した出口へ急ぐ可能性が高い。
- 混乱を引き起こすリスクがある。
- 神経症傾向が高い人:
- 遠い出口を選び、安全を確保しようとする。
- 避難速度が遅れる可能性もある。
行動詳細を活用した対策
- 避難シナリオの設計:
- 特性ごとに異なる行動パターンを想定し、出口の配置や避難ルートを最適化。
- 例: 神経症傾向が高い人向けに遠い出口への誘導を強化。
- 誘導体制の強化:
- 外向性が高いリーダーを配置し、秩序を保ちながら避難を進める。
- 音声ガイドや視覚的案内で、協調性が低い人の混乱を抑制。
- 避難訓練のカスタマイズ:
- 性格特性別に異なる訓練を実施し、個々の弱点を補強。
これらの特定の場面における行動の詳細を理解することで、
より効果的な危機管理計画や避難体制を構築できます。
参考資料
Xie, Y., Xu, X., & An, W. (2022). 『交通事故における性格特性と避難行動:実験とモデリング分析』, 2024年12月8日アクセス. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.800093
ビッグファイブと避難行動2へつづく