16の縦断的サンプルの協調分析」に関する研究についての論文があります。
このサンプルの研究からどんなことが見えてきたのか。お話しを進めていきます。
ビッグファイブにおける年齢や環境による変化とは
研究目的と概要
- ビッグファイブ性格特性(外向性、神経症傾向、開放性、協調性、誠実性)の自己報告による変化を評価することが目的です。
- 16の縦断的サンプルから、6万人以上のデータを用いて協調分析を実施しています。
- 複数のデータセットを統合し、同一の多レベル成長モデルを適用して特性変化の程度を評価しています。
16の縦断的サンプル
以下は、16の縦断的サンプルの概要を表にまとめたものです:
サンプル名 | 国 | 対象 | 測定方法 | 期間 | サンプル数 |
---|---|---|---|---|---|
Berlin Aging Study (BASE) | ドイツ | 高齢者(平均年齢85歳) | NEO-FFI(6項目版) | 13年間(5回の測定) | 516名 |
Berlin Aging Study-II (BASE-II) | ドイツ | 60~84歳の高齢者 | BFI-S(簡易版ビッグファイブ質問票) | 最大4回の測定 | 1,276名 |
Einstein Aging Study (EAS) | アメリカ | 70~99歳の地域住民 | IPIP(国際性格項目プール) | 18か月ごと(最大16回) | 342名 |
Health and Retirement Study (HRS) | アメリカ | 全国的に代表的な成人(平均年齢68歳) | MIDI(中年期開発目録) | 2年ごとの測定 | 約14,500名 |
Midlife in the United States (MIDUS) | アメリカ | 成人(28~74歳) | MIDI | 3回の測定(約20年) | 約6,000名 |
Wisconsin Longitudinal Study (WLS) | アメリカ | 1957年に高校を卒業した住民 | BFI(ビッグファイブ質問票) | 数十年にわたる測定 | 約11,000名 |
Swedish Adoption/Twin Study of Aging (SATSA) | スウェーデン | 養子や双子(26~93歳) | EPQおよびNEO-PI | 26年間で7回測定 | 約1,900名 |
German Socio-Economic Panel (SOEP) | ドイツ | 全国的な家庭調査の参加者(平均年齢47歳) | BFI-S | 毎年実施 | 約21,000名 |
Lothian Birth Cohort 1936 (LBC) | イギリス | 1947年の精神健康調査に参加した人々 | IPIP | 4回の測定(約10年) | 1,091名 |
Interdisciplinary Longitudinal Study of Adult Development (ILSE) | ドイツ | 60代~70代成人 | NEO-FFI | 3回の測定(12年) | 485名 |
Interdisciplinary Longitudinal Study of Adult Development (ILSE.Y) | ドイツ | 40代~50代成人 | NEO-FFI | 3回の測定(12年) | 496名 |
Longitudinal Aging Study of Amsterdam (LASA) | オランダ | 高齢者(平均年齢69歳) | DPQ(神経症傾向) | 4回の測定 | 約2,600名 |
Octogenarian Twins Study (Octo-Twin) | スウェーデン | 80~97歳の双子(高齢者) | EPI-QおよびNEO-PI | 4回の測定(6年) | 496名 |
VA Normative Aging Study (NAS) | アメリカ | 高齢男性(30~78歳) | EPI-Q | 4回の測定(年ごと) | 1,645名 |
Seattle Longitudinal Study (SLS) | アメリカ | 60歳以上の成人 | NEO-PI-R | 4回の測定(約30年) | 1,541名 |
Swedish Twin Study of Aging (SATSA) | スウェーデン | 高齢者(60歳以上) | NEO-PIおよびEPQ | 7回の測定(26年) | 約1,900名 |
この表は、各サンプルの国、対象、測定方法、期間、サンプル数を簡潔に示しています。
ビッグファイブ性格特性の変化に関する発見
心理学や発達研究の観点から、性格特性が固定的ではなく、
年齢や環境要因によって変化することを示唆しています。
この結果をもとに、ビッグファイブの各特性について詳しく解説します。
1. 誠実性 (Conscientiousness)
発見:
- 年齢とともに低下する傾向がある(特に高齢期に顕著)。
解説:
- 誠実性は、責任感や計画性を反映する特性で、
若年期から中年期にかけて増加する傾向が知られています。
これは、社会的役割(仕事、家庭、育児)が求める行動規範と一致するからです。 - 高齢期に低下する理由は、役割の変化(退職、子育ての終了)や健康の衰え、
認知能力の変化が関連している可能性があります。
例えば、スケジュール管理や目標達成の重要性が減少することで、誠実性の必要性が低下することが考えられます。
2. 外向性 (Extraversion)
発見:
- 年齢とともに低下する傾向がある。
解説:
- 外向性は、社交性やエネルギーのレベルを反映します。
若年期や中年期には、仕事や社会的交流が活発であり、外向性が高い傾向にあります。 - 高齢期には、社会的ネットワークが縮小し、
活動的なライフスタイルから静かな生活へ移行することが一般的です。
このため、外向性の低下が観察されると考えられます。 - また、老年期にはエネルギーの制約(身体的健康の低下)や心理的ニーズの変化(親しい人間関係の重視)が影響を及ぼしている可能性があります。
3. 開放性 (Openness)
発見:
- 年齢とともに低下する傾向がある。
解説:
- 開放性は、創造性や新しい経験への意欲を示します。若年期や中年期には、
新しいアイデアや挑戦への興味が高いですが、高齢期にはこれが減少する傾向があります。 - 理由としては、認知的柔軟性の低下、ルーティン化された生活への適応、
リスクを避ける行動傾向が挙げられます。
また、高齢者は過去の経験を重視するため、
安定した価値観に焦点を当てることが開放性の低下につながる可能性があります。
4. 神経症傾向 (Neuroticism)
発見:
- 非線形モデルでは、高齢期に増加する可能性が示唆される。
解説:
- 神経症傾向は、不安や感情の安定性を示します。一般に、若年期から中年期にかけては減少する傾向があります(感情の成熟)。
- しかし、高齢期において再び増加する理由として、健康問題、経済的不安、社会的孤立、死への不安が挙げられます。これらの要因が高齢者の感情不安定性を引き起こす可能性があります。
- 一方、社会的支援や心理的回復力が高い個人では、増加が見られない場合もあり、個人差が顕著です。
5. 協調性 (Agreeableness)
発見:
- 協調性の変化は比較的小さく、安定している。
解説:
- 協調性は、共感や他者との調和を示します。
この特性は、他の性格特性と比較して変化が少なく、安定していることが多いです。 - 若年期から中年期にかけてやや増加する傾向がありますが、
これは社会的役割(家庭や仕事における協力関係)が原因と考えられます。 - 高齢期には、社会的ネットワークの縮小や衝突の回避傾向が、
協調性の安定性を支える可能性があります。
全体的な知見の意味
- 性格の変化はライフステージに依存:
年齢とともに変化する性格特性は、社会的役割や環境、認知的・身体的な変化と密接に関連しています。
例えば、仕事や家庭に重点を置く若年期・中年期と、
健康や死生観を意識する高齢期では、異なる特性が求められます。 - 個人差の重要性:
性格特性の変化には個人差が大きく、年齢や国籍、測定方法といった要因が影響します。
このため、特性変化の普遍的なパターンを見つけることは困難ですが、
個別のニーズに応じた介入やサポートを設計するために役立ちます。 - 理論的意義:
ビッグファイブの変化に関する知見は、「成熟原理」や「社会投資理論」といった性格変化の理論を支持します。
同時に、高齢期における神経症傾向の増加などは、従来の理論に修正を加える必要性を示唆しています。
実践的応用
- 心理的介入: 高齢期における神経症傾向の増加を軽減するためのカウンセリングや健康促進プログラム。
- 組織内教育: 年齢に応じた特性変化を考慮したリーダーシップやチーム構築の支援。
- 社会政策: 年齢層に特化した福祉やサポートシステムの設計(例:高齢者の社会的孤立を防ぐための施策)。
この研究は、性格特性が生涯を通じてどのように変化し得るかを理解するうえで重要であり、
心理学の実践的応用にも多くの示唆を与えています。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
Graham, E. K., Weston, S. J., Gerstorf, D., Yoneda, T. B., Booth, T., Beam, C. R., Petkus, A. J., Drewelies, J., Hall, A. N., Bastarache, E. D., Estabrook, R., Katz, M. J., Turiano, N. A., Lindenberger, U., Smith, J., Wagner, G. G., Pedersen, N. L., Allemand, M., Spiro III, A., Deeg, D. J. H., Johansson, B., Piccinin, A. M., Lipton, R. B., Schaie, K. W., Willis, S., Reynolds, C. A., Deary, I. J., Hofer, S. M., & Mroczek, D. K. (2020). 『Trajectories of Big Five Personality Traits: A Coordinated Analysis of 16 Longitudinal Samples』, 2025年1月9日アクセス. https://www.researchgate.net/publication/341183869_Trajectories_of_Big_Five_Personality_Traits_A_Coordinated_Analysis_of_16_Longitudinal_Samples
ビッグファイブ性格特性 変化の軌跡2へつづく