前回は7つの転換点がパーソナリティへ与える影響についてみていきました。
この調査では10年間のパーソナリティへの変化についても調査しています。
どのような変化があったのかをみていきます。
10年間にわたるビッグファイブ特性の変化
安定性
10年間にわたるパーソナリティ特性の順位的安定性(rank-order stability)は高く、
個々のランキングはほぼ一貫していました。
安定性:順位的安定性とは
意味:
順位的安定性とは、同じ集団内で個々の順位(特性の相対的な高さ)が時間を通じてどれだけ一貫しているかを示します。
例えば、外向性が高い人が10年後も外向性の順位で集団内の上位にいる場合、順位的安定性が高いとされます。
結果の背景:
研究では、パーソナリティ特性の順位的安定性が高いことが示されています。
これは、個人のパーソナリティが環境や経験によって変化する可能性はあるものの、
特性の全体的な順位づけ(例えば、外向性が高い人は引き続き高い傾向)は変わりにくいことを意味します。
心理学的観点:
- 遺伝的要因:
パーソナリティの順位的安定性は、遺伝的要因による部分が大きいとされています。
遺伝子が基本的な特性の「土台」を提供し、
これが長期間にわたって一貫性を持つ可能性があります。 - 環境的要因:
環境は特性の変化を促進することがありますが、
多くの人が中年期において安定した社会的役割(家庭、仕事など)を持つため、
外部の影響が減少し、特性が安定化することがあります。
平均レベルの変化
パーソナリティ特性の平均値に有意な変化は見られず、
中年期が比較的安定した時期であることが確認されました。
個別の変化
平均値は安定している一方で、
神経症傾向や協調性などの特性において個々の参加者が顕著な変化を示しました。
なぜ神経症傾向や協調性が変化したのか:
平均レベルは安定しているものの、
一部の個人は神経症傾向(感情の不安定さ)や協調性(他者への思いやり)において顕著な変化を示しました。
その理由として以下が考えられます。
- ライフイベントの影響:
- 神経症傾向: 離婚、失業、健康問題などのストレスフルな出来事は、
感情の不安定さを増大させる可能性があります。 - 協調性: 新たな社会的関係や親密な関係の喪失・回復が協調性に影響を与えることがあります。
- 神経症傾向: 離婚、失業、健康問題などのストレスフルな出来事は、
- 役割の変化: 中年期は、多くの社会的役割が変化する時期です。
例えば、子供の独立やキャリアの転機がこれに該当します。
これらの役割変化に適応する過程で、パーソナリティ特性が変化することがあります。 - 個人差の影響: 個人の適応能力や回復力(レジリエンス)が、
特性の変化に寄与する可能性があります。
例えば、ストレスに対して適切に対処できる人は、
長期的には協調性や感情安定性を向上させることがあります。
心理学的観点:
- 脆弱性ストレスモデル: ストレスのレベルと個人の脆弱性が特性の変化に影響する可能性があります。
- 社会投資理論: 新しい役割や人間関係への適応が特定の特性を変化させるとされています。
心理的転換点の影響が限られていた理由
自分にとって嬉しい出来事(happy for self)」や「夢の実現(fulfill a dream)」などのポジティブな転換点は、
外向性や開放性の基準値の高さに関連していました。
「友人のために嬉しかった出来事(happy for friend)」を経験した人は、
神経症傾向の変動がより大きい傾向が見られました。
なぜ限られた転換点しか影響を与えなかったのか:
研究調査の結果では、ポジティブな転換点(例: 「自分にとって嬉しい出来事」「夢の実現」)が外向性や開放性と関連していた一方、他の転換点の影響は限定的でした。この理由として以下が考えられます。
- 転換点の主観性:
- 心理的転換点は個人の主観的な評価に依存しています。同じ出来事でも、
人によって影響の大きさが異なるため、平均的な効果が小さくなる可能性があります。
- 心理的転換点は個人の主観的な評価に依存しています。同じ出来事でも、
- 転換点の一過性:
- 多くの転換点の影響は短期的なものであり、
10年後にはその影響が薄れている可能性があります。
特にネガティブな転換点は、個人が適応や再構築を行うことで長期的な影響を抑える場合があります。
- 多くの転換点の影響は短期的なものであり、
- 特定の特性にのみ影響:
- 研究では、転換点がすべてのパーソナリティ特性に等しく影響を与えるわけではなく、
外向性や開放性のような特定の特性に影響が集中していることが示されています。
- 研究では、転換点がすべてのパーソナリティ特性に等しく影響を与えるわけではなく、
心理学的観点:
- 自己認識とナラティブの再構築: 転換点の効果は、
個人がそれをどのように解釈し、人生のストーリーに統合するかによって異なります(ナラティブアイデンティティ理論)。 - 特性のプラスチシティ: パーソナリティ特性の変化には一定の柔軟性(プラスチシティ)があるものの、
その影響は長期的には制限される可能性があります。
結論
- 安定性: 中年期のパーソナリティは全体として安定していますが、
遺伝的要因や安定した社会的役割がその背景にあります。 - 個別の変化: 神経症傾向や協調性はストレスやライフイベントの影響を受けやすく、
特定の個人で顕著な変化が見られます。 - 心理的転換点の影響: 転換点の影響が限定的である理由には、
主観性や時間の経過、特定の特性への集中効果が挙げられます。
- 将来の研究への提案
- 転換点の発生時期とその長期的な影響を探るために、
より短い間隔での研究が推奨されます。 - 定性的データの活用や、パーソナリティ、目標、人生の出来事との相互作用を探ることで、
より深い理解が得られるとされています。
- 転換点の発生時期とその長期的な影響を探るために、
中年期におけるパーソナリティの転換点の影響と、
10年間のパーソナリティの安定性を見てきました。
パーソナリティにより影響されるイベントがそれぞれあるということです。
ネガティブな影響であれば、あらかじめ支援策を用意しておくことで、
建設的な方向へ導けるということになります。
また転換点をどのように捉えるのかが、心理的な影響を左右するという内容でした。
ポジティブに捉えるのか、ネガティブに捉えるのか。
あなたならどのように捉えますか。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
アレマンド, M., ゴメス, V., & ジャクソン, J.J. (2010). 『中年期におけるパーソナリティ特性の発達: 心理的転換点の影響を探る』, 2025年1月10日アクセス. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5547353/