人的資本経営を企業の当たり前に

日本でも人的資本経営を進める兆しが出ています。
人口減少、不透明な先の見えない時代に、
生き残る施策が”人的資本経営”であると確信しています。

人的資本経営に関するレポートについて、
経済産業省のサイトからダウンロード可能です。

持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~(PDF形式:2,655KB)

人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)(PDF形式:1,213KB)

実践事例集(PDF形式:7,854KB)

伊藤レポート3.0(PDF形式:1,287KB)

ご興味あればレポートのご一読を。

いまなぜ人的資本経営が必要なのか

人的資本経営がこの時代に必要とされる理由は、
次のような点が挙げられます。

変化する労働市場

技術の進化やグローバル化により、
必要なスキルや職務が急速に変化しています。
人的資本経営は、これに対応するための柔軟な人材戦略を提供します。

社員のエンゲージメント

従業員の満足度とエンゲージメントが高い企業は、
生産性や創造性が向上し、結果として企業の競争力が強化されます。

持続可能な成長

長期的な企業価値の向上と持続可能な経営を実現するために、
人的資本への投資が不可欠です。これにより、
企業は市場環境の変化に適応しやすくなります。

ESGの重要性

投資家や消費者からのESG(環境・社会・ガバナンス)への
関心が高まっており、
人的資本経営は企業の社会的責任を果たす
一環として重要視されています。

日本でもやっと始まったという感がありますが、
まだまだ広まっておらず、
中小企業の経営者さんに話をしても、
ポカンという感じです。

人的資本経営の始まりについて触れていきます。

海外における人的資本経営が始まり

人的資本開示の義務化

アメリカでは、米国証券取引委員会(SEC)が
企業に対して人的資本に関する情報開示を義務付ける規則を
2020年に導入しました。

これにより、企業は従業員のスキル、
労働環境、多様性など、人的資本に関する情報を開示する必要があります。

サステナビリティとESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まり

投資家や消費者の間で、
企業のESGへの取り組みが評価されるようになり、
人的資本もESGの一部として注目されています。

企業は従業員の健康、福祉、
キャリア開発に投資することで、
サステナビリティの向上を図っています。

デジタルツールの導入

人的資本管理のためのデジタルツールや
プラットフォームの普及が進んでいます。

これにより、企業はデータに基づいた意思決定を行い、
従業員のパフォーマンスやエンゲージメントをリアルタイムで
把握できるようになっています。

多様性とインクルージョンの強化

多くの企業が多様性とインクルージョン(D&I)を優先課題とし、
組織内の公平性と多様性を推進しています。

これには、採用プロセスの見直し、研修プログラムの導入、
管理職の多様性確保などが含まれます。

リスキリングとアップスキリングの促進

技術の進化に伴い、企業は従業員のスキルの更新や
新しいスキルの習得を支援するプログラムを強化しています。

これにより、組織の競争力を維持しつつ、
従業員のキャリア成長をサポートしています。

労働環境の改善と従業員のウェルビーイング

企業は、従業員のメンタルヘルスやウェルビーイングを
重要視するようになり、柔軟な働き方の導入や
健康管理プログラムの提供が進んでいます。

これらの取り組みは、企業の競争力を高めるだけでなく、
持続可能な経営の一環として捉えられています。

次は事例集の取り組みを数例挙げてみます。

アステラス製薬の事例

アステラス製薬では、人的資本を経営戦略と連動させるため、
以下の取り組みが行われています。

  1. 人材育成とキャリア開発:
    • アステラス製薬では、
      社員一人ひとりのキャリア形成を支援するための体制を整えています。
      これにより、社員が自身のキャリアを主体的に設計し、
      成長できる環境を提供しています。
  2. 多様なキャリア機会の提供:
    • グローバルな社内公募制度を導入し、
      社員が自らのキャリアパスを選択できるようにしています。
      これにより、社内のポジションに柔軟に応募することが可能で、
      社員のモチベーション向上とキャリア形成を促進しています。
  3. リーダーシップの育成:
    • リーダー候補者の育成プログラムを通じて、
      次世代のリーダーを早期に発掘・育成する取り組みが行われています。
      このプログラムでは、
      実践的なリーダーシップを身につけるためのトレーニングが行われています。
  4. 社員エンゲージメントの向上:
    • 社員のエンゲージメントを高めるため、
      定期的な社員満足度調査を実施し、
      その結果に基づいて働きやすい環境の整備を行っています。
  5. 柔軟な働き方の導入:
    • フレックスタイム制度やリモートワークなど、
      働き方の柔軟性を高める取り組みも積極的に進めており、
      社員が働きやすい環境を提供しています。

これらの取り組みにより、
アステラス製薬は社員の成長と企業の競争力強化を両立させることを目指しています。

株式会社荏原製作所の事例

荏原製作所では、
人的資本経営において以下の取り組みを行っています。

  1. ダイバーシティ&インクルージョンの推進:
    • 荏原製作所では、多様性を尊重し、
      インクルーシブな職場環境を整えることで、
      社員のエンゲージメントとパフォーマンスを最大化しています。
      多様なバックグラウンドや視点を持つ人材が活躍できる組織文化を育成しています。
  2. 女性活躍推進:
    • 女性社員の活躍を支援するため、
      女性のキャリアパスを明確にし、
      管理職への登用を促進しています。
      また、育児休業やフレキシブルな働き方を支援する制度を整備し、
      仕事と家庭の両立を支援しています。
  3. グローバル展開の強化:
    • グローバル市場での競争力を高めるため、
      海外拠点の人材育成や現地社員の登用を進めています。
      グローバルに通用する人材を育成し、
      海外市場での事業展開を加速させています。
  4. 社員エンゲージメントの向上:
    • 社員の意見を反映させる仕組みを構築し、
      定期的な意識調査を行うことで、
      職場環境の改善やエンゲージメント向上に努めています。
      社員が主体的に意見を出し合い、
      改善策を提案できる文化を醸成しています。

これらの取り組みを通じて、
荏原製作所は組織全体の活性化と持続的な成長を目指しています。

特に、ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、
社員一人ひとりのパフォーマンスを最大化するための
重要な要素と位置づけられています。

※**ダイバーシティ(多様性)**とは、組織や社会において、
さまざまな背景や特性を持つ人々が
共存することを指します。
これには、性別、年齢、文化、
国籍、性的指向、障害の有無などが含まれます。

**インクルージョン(包摂)**は、
ダイバーシティが存在する環境で、
全ての人々が平等に扱われ、
意見やアイデアが尊重される文化や
制度を作り出すことを意味します。

ダイバーシティが「多様性の受け入れ」であるのに対し、
インクルージョンは「その多様性を活かす」ことに
重点を置いています。

中小企業が実践可能な進化・変化の方向

  • 社員の主体的な成長を支援する文化の醸成:
    • 社員一人ひとりが主体的に目標を設定し、
      それに向けて挑戦する文化を作ることが重要です。
      中小企業でも、社員が自分の目標を定め、
      その達成に向けて努力するための支援やフィードバックの
      仕組みを整えることで、企業全体の成長に繋がる可能性があります。
  • 多様性とインクルージョンの推進:
    • 大手企業が行っているような多様性推進の取り組みを参考に、
      ジェンダーや年齢、障がいの有無にかかわらず、
      多様なバックグラウンドを持つ社員が活躍できる
      職場づくりを進めることが重要です。
      中小企業でも、社員同士の多様な価値観や経験を尊重し、
      活かす文化を育むことが求められます。

これらの取り組みは、
中小企業でも規模に応じた形で実践可能であり、
企業の持続的な成長や競争力の向上に寄与するものです。

実践後の業績について

伊藤忠商事株式会社

  • 同社では「労働生産性」を重視し、
    少数精鋭の組織で競争力を向上させるために、
    労働生産性の向上を社外に発信しています。
    また、労働市場からの高い評価(学生の就職人気企業ランキング1位など)を受けており、
    これが優秀な人材の確保と業績向上に繋がっていることが示唆されています​

オムロン株式会社:

  • 企業理念を浸透させる取り組みを通じて、
    企業全体のエンゲージメントが高まり、
    それが持続的な成長を支える多様な人材の活躍に繋がっているとしています。
    この取り組みが企業の長期的な業績向上に寄与していると考えられます​。

ロート製薬株式会社:

  • 社外副業や社内兼務などの取り組みにより、
    社員の挑戦や自律的なキャリア形成を促進しており、
    これが企業と社員の双方の成長、
    ひいては業績向上に結びついていると報告されています​。

人的資本経営は我が国にどう影響するか

「人材版伊藤レポート2.0」と「3.0」は、
人的資本経営が企業の持続的な成長と競争力向上に不可欠であると強調しています。

以下は、企業が人的資本経営に取り組むことで日本経済や
国際競争力に与える影響についての考察です。

日本経済への影響

  1. 企業の生産性向上:
    • 人的資本経営は、社員のスキル向上、
      エンゲージメント強化、多様性の促進などを通じて、
      企業の生産性を高める効果があります。
      これにより、企業の競争力が向上し、
      日本全体の経済成長に寄与する可能性があります。
  2. イノベーションの促進:
    • 多様な人材の活用やリスキル(再教育)によって、
      社員が新しいアイデアを生み出しやすくなります。
      これが新たな製品やサービスの開発に繋がり、
      国内外での競争力を強化する原動力となります。
  3. 持続可能な経済成長:
    • 人的資本経営は、
      長期的な視点で企業の成長を支える基盤となるため、
      短期的な利益追求よりも持続可能な成長を重視します。
      これにより、日本経済全体が安定した成長を遂げる可能性があります。

国際競争力への影響

  1. グローバルスタンダードとの整合性:
    • 人的資本経営は、
      ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも重視されており、
      国際的な投資家やパートナーからの評価を高めます。
      これにより、日本企業がグローバル市場でのプレゼンスを強化し、
      海外企業と対等に競争できるようになります。
  2. 人材の国際競争力強化:
    • グローバルな視点での人材育成や、
      多様なバックグラウンドを持つ人材の活用を推進することで、
      企業が国際的な競争力を高めます。
      特に、多国籍企業や海外市場に依存する企業にとって、
      人的資本の強化は市場シェアの拡大に直結します。
  3. 海外市場での信頼獲得:
    • 日本企業が人的資本経営に取り組むことで、
      企業の透明性やガバナンスが向上し、海外市場での信頼を得やすくなります。
      これにより、外国企業との協業や提携も進めやすくなり、
      ビジネスチャンスの拡大に繋がります。

課題と展望

  • 中小企業の取り組み:
    • 大企業に比べてリソースが限られている中小企業が
      人的資本経営をどのように実践するかが課題です。
      しかし、成功事例の共有や支援プログラムの活用を通じて、
      中小企業もグローバルな競争力を獲得する可能性があります。
  • 文化的な変化:
    • 日本企業の伝統的な経営文化や
      働き方に対する変化を求められるため、
      人的資本経営の導入には時間と努力が必要です。
      しかし、これが定着すれば、日本企業はより柔軟で
      適応力のある組織となり、国際競争力を高めることができます。

結論

人的資本経営を推進することにより、
日本企業は国内外での競争力を強化し、
持続可能な経済成長を実現することが期待されます。

これが、日本経済全体の活性化に繋がり、
海外企業との競争でも対等にビジネスを展開できる
基盤を構築することが可能となるでしょう。