こんな記事がありました、教員「心の病」で休職7119人、3年連続で最多、
指導や対人関係で悩みとあります。
この記事の内容ってビジネスの現場で起こっていることに通じます。
この国の教育現場でも人財の問題が起こっているわけです。
少しでも多くの方に問題意識を持ってもらえたらと思い、
この記事を作ろうかなと思った次第です。
この国は今どこに向かっているのか、
私個人的にはいい方向には向かっていないと感じています。
さて、今回の研究調査では、調査方法は
方法: アンケート調査によるデータ収集。
対象: 教員養成課程に属する大学生49名。
また高校生の描く理想の教師像調査のデータを利用して論文が作成されています。
ではどんな内容か見ていきます。
理想の教師像と性格特性の関係
1. 理想の教師像について
研究では、理想の教師像をPM理論に基づいて分析しました。
PM理論の概要
- P機能 (Performance): 目標達成や成果を重視する指導力。
課題解決や授業の進行を効果的に管理する能力を指します。
例:「宿題をきちんとするよう厳しく指導する」など。 - M機能 (Maintenance): 人間関係の維持や生徒への配慮を重視する指導力。
共感的な対応や生徒との信頼関係の構築を重視します。
例:「生徒と一緒に遊ぶ」「平等に対応する」など。
結果からの理想像
- 教師を志望する大学生は、
P機能よりもM機能が強い教師像を理想とする傾向が示されました。 - 特に、人間関係の維持や生徒の心理的サポートを重視した教師像(M機能)への期待が高かったです。
これは、大学生が教育現場でのリーダーシップにおいて、
成果重視よりも生徒との関係構築を重視する姿勢を持っていることを反映しています。
2. 性格特性と理想の教師像の関係
この研究では、性格特性をビッグファイブ理論に基づいて分析しました。
ビッグファイブ理論の要素
- 勤勉性 (Conscientiousness) – 責任感が強く、計画性や粘り強さを持つ。
- 外向性 (Extraversion) – 活発で社交的。
- 情緒安定性 (Neuroticism の逆尺度) – ストレスに強く落ち着いている。
- 協調性 (Agreeableness) – 共感力が高く他者と協調できる。
- 開放性 (Openness) – 新しい経験やアイデアに対して柔軟で創造的。
分析結果
各性格特性と教師像の関係を分析した結果、
以下の傾向が明らかになりました。
- M機能(関係維持)を重視する学生
- 勤勉性・外向性・情緒安定性・協調性の得点が高い学生は、
M機能を重視した教師像を理想としました。 - これらの学生は、心理的に安定し、真面目で協調性があるため、
人間関係を大切にする教師像を求めました。
- 勤勉性・外向性・情緒安定性・協調性の得点が高い学生は、
- P機能(目標達成)を重視する学生
- 開放性の得点が高い学生は、
P機能を重視した教師像を理想としました。 - 新しい知識や経験を求める特性から、
学習成果を重視する教師像への期待が反映されています。
- 開放性の得点が高い学生は、
交互作用の分析結果
- 勤勉性や外向性が高い学生は、P機能とM機能の両方を兼ね備えた教師像を理想としました(PM型)。
- 協調性が強い学生は、M機能を重視し、開放性が強い学生は、P機能を重視しました。
3. 分析結果の解釈と考察
大学生と高校生の違い
- 高校生はP機能(成果重視)を求める傾向が強く、
大学生はM機能(関係重視)を理想としました。 - 大学生は教える側としての役割意識を持っており、
生徒との心理的サポートや関係性を重視する視点が反映されたと考えられます。
性格特性の影響
- 勤勉性や情緒安定性を持つ学生は、
両機能をバランスよく取り入れた教師像を求めました。
これは、生徒の指導と関係構築の両立を重視している表れです。 - 開放性の高い学生は、学習成果を追求する教師像に惹かれました。
革新的な授業スタイルや挑戦的な教育アプローチへの関心が反映されていると考えられます。
4. 結論と教育への示唆
- 教育者を目指す学生は、自身の性格特性に基づいて理想像を描きます。
- M機能(関係重視)が支持されたことから、
教育現場では人間関係を強調した指導法の重要性が示唆されます。 - 教育実践では、学生の性格特性を考慮した指導方法や教師教育プログラムの設計が求められます。
総括
この研究は、性格特性と理想の教師像の関係を明確にし、
教育者育成において個々の特性を活かした指導力の育成を示唆しています。
特に、関係性を重視するM機能への期待は、
現代の教育現場で求められるコミュニケーションスキルや生徒理解への配慮と一致しています。
大学生と高校生で理想とする教師像が異なる理由
1. 発達段階の違いによる視点の差
(1) 高校生の発達段階:アイデンティティ形成期
高校生はエリクソンの心理社会的発達理論によれば、
アイデンティティ形成期(12~18歳)にあります。この時期の特徴は以下の通りです。
- 自我同一性の確立: 自分がどのような人間なのかを探求し、役割や価値観を模索します。
- 進路や学力への焦点: 大学受験や進学へのプレッシャーが強く、成果や学力向上を求める傾向があります。
- 教師への期待: 学力向上や試験対策へのサポートを重視し、目標達成能力(P機能)を重視する教師を理想とします。
(2) 大学生の発達段階:自己実現期
一方で、大学生は自己実現期(18歳以上)に入ります。以下の特徴があります。
- 自己概念の確立: 自身の価値観や目標を確立し、将来のキャリアや社会的役割を意識するようになります。
- 役割モデルとしての意識: 教育者になるという目標を持つため、自己の役割意識が強まり、教える立場を意識します。
- 他者への関心: 他者を支援し、関係を構築するスキルや態度(M機能)が重視されるようになります。
発達心理学的視点からのまとめ
高校生は「自分をどう伸ばしてくれるか」に重点を置きますが、
大学生は「自分がどう他者を伸ばせるか」を重視します。この視点の違いが、
P機能とM機能への期待の違いを生み出していると考えられます。
2. 役割変化による意識の違い
(1) 高校生: 学習者の立場
高校生は学習者としての立場にいるため、
教師に対して知識伝達や学力向上といった役割を期待します。
- 「試験に合格したい」「良い成績を取りたい」という直接的な目標達成への欲求が強く、
教師にはP機能(成果を出す力)を求めます。
(2) 大学生: 教育者への移行期
大学生は教育者としての立場を目指しており、
教育現場での実践や教える立場への移行を前提としています。
- 他者への働きかけや心理的サポートが重視される教育活動に関心が移行します。
- 特に教育実習などを通じて生徒との関係構築や信頼関係の重要性を実感するため、
M機能(関係重視)が重視されるようになります。
教育実践との関係
教育実習や指導経験は、大学生に「教育者としての自己効力感」を強化させます。
これにより、教える側の立場として心理的支援や関係構築の重要性を強く認識する傾向が強まると考えられます。
3. 社会的期待と役割認識の違い
(1) 高校生: 成果重視の社会的期待
高校生は大学受験や進路選択など、社会的な期待を強く受けています。このため、教師に対して成果や結果を重視した指導を求めます。
(2) 大学生: 教育の質を重視する期待
大学生は教育現場における質の高い指導者になることを期待されており、
成果だけでなく、生徒との関係性を通じた教育を重視します。
- 生徒の心理的安定やモチベーションを高める教師像が理想とされる背景には、
教育実習や教育理論で学ぶ「学習環境の最適化」への理解が関係しています。
4. 実践的経験の有無による違い
(1) 高校生: 実践経験の欠如
高校生は、教える側の経験がほとんどないため、教育の現実よりも理想を求める傾向があります。そのため、成果や知識伝達を重視する教師像を描きやすくなります。
(2) 大学生: 実践的経験の蓄積
大学生は教育実習や模擬授業などを通して、教師としての具体的な役割を体験します。
この経験を通じて、関係構築の重要性や心理的サポートの必要性を理解し、
M機能を重視するようになります。
経験による違いのまとめ
教育の現場で実践的な経験を積む大学生は、成果を重視するP機能だけでなく、
人間関係の維持を重視するM機能の重要性を実感しやすくなります。
5. 性格特性との相互作用
大学生が教える側としての役割意識を持つ背景には、
性格特性との相互作用も関係しています。
- 外向性や協調性が高い大学生は、人間関係を重視する性格特性を持っており、
M機能の教師像に共感しやすい。 - 勤勉性や開放性が高い学生は、成果や学力向上への関心も持ちつつ、
M機能を補完的に重視するバランス型の教師像を求める。
6. 総括
大学生と高校生の違いは、
発達段階・役割変化・社会的期待・実践経験・性格特性が複合的に影響していることが示されました。
- 高校生: 学習成果や知識伝達を求める段階で、P機能を重視。
- 大学生: 教える立場を想定し、心理的サポートや関係構築を重視するM機能を理想化。
この違いは、教育課程の設計や教師育成プログラムにおいて、
学生の発達段階や性格特性を考慮した支援が必要であることを示唆しています。
大学生がM機能を重視する背景には、
教育実習や模擬授業などの経験による「教育実践力の養成」が関与しており、
教える側としての視点や役割認識が強く反映されていると考えられます。
今回は大学生と高校生が描く理想の教師像を性格分析やPM理論により、
お話を進めていきました。
こうした理想の教師像を描きながら、実際に教師になると…
仕事となればいろいろありますが、
現実は…というようになるこの環境を変えていくとしかありません。
次回は、教師の育成プログラムについて考える内容のお話を進めていきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
菊野春雄・菊野雄一郎・李琦・山田悟史 (2017). 『教師を目指す学生の理想的教師像に及ぼす性格的要因』, 大阪総合保育大学紀要第12号, 2024年12月20日アクセス.https://jonan.repo.nii.ac.jp/records/922
保坂芳男(2004). 『理想的な英語教師像に関する実証研究(2): PM理論を用いての生徒の学力差による構造比較』, 2024年12月26日アクセス. https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00018266?utm_source=chatgpt.com
大学生と高校生が描く理想の教師像とビッグファイブ2へつづく