大学生と高校生が描く理想の教師像とビッグファイブ2

前回は大学生と高校生が描く理想の教師像についてお話をしました。

ここでは教師育成のためのプログラムが性格特性を利用して、
性格特性に合わせてパーソナライズされた育成が行われているかについて触れていきます。

教師育成において性格特性を活かすプログラム

現在の教育現場ではは十分に実施されていないのが現状と考えられます。
その理由と課題、今後の展望について詳細にみていきます。

1. 現状の教師育成プログラム

(1) 知識・技能重視の傾向

日本の教員養成課程は、主に以下の要素に焦点を当てています。

  • 教育理論や教科指導法などの知識と技能の習得
  • 教育実習を通じた実践的指導力の習得
  • 法規や教育制度に関する理解と順守

これらは教師の基本的な役割に必要なものですが、
性格特性や個々の強みを活かす教育は十分に扱われていません


(2) 一律的な育成アプローチ

多くの教員養成プログラムでは、
教育理論やスキルを全員に同じ形で教える傾向があります。

  • ビッグファイブ性格特性のような個人の特性を評価・活用する枠組みは導入されていないことが多く、
    画一的な指導法を前提としています。
  • 学生の個々の特性に合わせた柔軟なアプローチや育成方法は、
    十分に考慮されていないのが実情です。

2. 性格特性を活かす教育現場での必要性

(1) 教師の性格特性と指導スタイルの一致

研究結果によると、
教師の性格特性は指導スタイルや教育効果に大きく影響を与えます。

  • 外向性の高い教師: 活発でエネルギッシュな授業や生徒との積極的なコミュニケーションに向いている。
  • 協調性の高い教師: 生徒との関係構築や心理的サポートに優れている。
  • 勤勉性の高い教師: 計画的で目標志向型の指導に強みを持つ。

このように性格特性を考慮した教育プログラムを構築すれば、
教師の適性を最大限に発揮できる可能性があります。


(2) 学習者中心の教育と心理的サポート

現代の教育では、単に知識を教えるだけでなく、
生徒の心理的成長や社会性の育成が重視されています。

  • M機能重視の教師育成: 生徒の感情や心理的ニーズに寄り添う指導力が求められています。
  • P機能重視の教師育成: 学力向上や成果達成を重視する教師の育成も引き続き重要です。

性格特性に基づいて教師が自身の強みを理解し、
それに応じた指導スタイルを選べるプログラムが必要です。

3. 現状の課題と問題点

(1) 性格特性の評価と活用の欠如

  • 性格特性(ビッグファイブ理論など)を教師育成プログラムに組み込む試みは少ない。
  • 学生の特性を客観的に評価し、それに応じた指導力の育成を行う仕組みが欠けている。

(2) 一律的な教員養成とミスマッチ

  • 一律的なカリキュラムにより、性格特性と適性が十分に考慮されず、
    教育現場でストレスを感じる教師が多い。
  • 教師自身の個性や強みを活かす余地が少なく、
    指導法が硬直化する傾向がある。

(3) 実践的研修の不足

  • 教員養成課程では、実習の期間や質が限られており、
    実際の教育現場で性格特性を活かした指導方法を学ぶ機会が不足している。
  • 教育実習では型にはまった授業スタイルの習得が優先され、
    柔軟で個性的な指導法が軽視されがちである。

4. 今後の展望と改善策

(1) 性格特性を活かす教育プログラムの導入

  1. 自己理解と特性評価の強化
    • 学生にビッグファイブ性格診断などを実施し、
      自分の強みと弱みを理解させる。
    • 自己分析をもとに、個別の育成プランを設計する。
  2. 適性に基づいた指導法のトレーニング
    • 外向性の高い学生には「発信力を高める授業スタイル」。
    • 協調性の高い学生には「カウンセリングスキル」を強化するプログラムを設計。

(2) 柔軟な研修制度の構築

  • 教育実習や現場体験の中で、
    M機能とP機能をバランスよく強化する実践的トレーニングを取り入れる。
  • 実際の教育現場で多様な指導スタイルを試し、
    フィードバックを得られる機会を増やす。

(3) メンター制度や継続研修の強化

  • 経験豊富な教師がメンターとして若手を支援し、
    個々の性格特性に応じた指導法を継続的に指導。
  • 経験を積む中で新たな強みを発見し、
    長期的なキャリア形成を支えるプログラムを設計する。

5. 総括

現状では、性格特性を活かした教師育成は十分に実施されていないのが課題です。

しかし、研究結果や教育心理学の知見から、以下の点が重要であることが示唆されています。

  1. 教師育成では、性格特性の評価と活用を取り入れたカリキュラム設計が必要。
  2. 実践的な経験を通じて、M機能とP機能のバランスを強化する研修プログラムが求められる。
  3. 個々の強みを活かす柔軟な教育アプローチを通じて、
    多様な教育現場に対応できる教師の育成を目指す必要がある。

これらの施策を取り入れることで、
教師は自分の特性を活かしながら生徒の学習を支援し、
心理的にも支えられる存在へと成長できると考えられます。

海外における性格特性を考慮した育成プログラム

般的に広く実施されているわけではありません。
しかし、一部の国や教育機関では、
教師の個々の特性や強みを活かす取り組みが進められています。以下に具体例を挙げて説明します。

1. ドイツの「教師養成質向上キャンペーン」

ドイツでは、連邦政府と州政府が共同で「教師養成質向上キャンペーン」を実施しています。

このプログラムでは、
卓越した教師養成プログラムに競争的資金を充当し、
教師養成のデジタル化や職業教育学校教師の養成に焦点を当てています。

文部科学省

具体的な性格特性の評価や活用に関する情報は明示されていませんが、
教育の質を向上させるための多様な取り組みが行われています。

2. 日本のグローバル教師育成プログラム

日本では、海外の教育現場での経験を通じて教師の資質・能力を向上させる取り組みが行われています。

例えば、「グローバル教師ポータルサイト」では、
海外学校での経験を活かした実践事例やICT活用事例が紹介されています。

Global Teacher

これらのプログラムは、教師の国際理解や異文化理解、
コミュニケーション力の向上を目的としていますが、
性格特性の直接的な評価や活用に焦点を当てているわけではありません。

3. 教師向けの海外研修プログラム

英語教育に携わる教員を対象とした海外研修プログラムでは、
指導スキルや英語力の向上を目的とした研修が行われています。

例えば、米国政府認定国際交流団体のiiP(International Internship Programs)では、
短期から長期までの海外研修プログラムを実施しています。

English Hub

これらの研修では、教育現場の視察や地元の人々との交流を通じて、
多様な文化や価値観に触れる機会が提供されていますが、
性格特性を活かした教師育成に直接焦点を当てているわけではありません。

まとめ

海外における教師育成プログラムでは、
性格特性を直接評価・活用する取り組みは限定的であり、
一般的な教育課程や研修プログラムに組み込まれている例は少ないのが現状です。

しかし、教育の質を向上させるための多様な取り組みが進められており、
今後、性格特性を考慮した教師育成の重要性が認識され、
プログラムに反映される可能性があります。

性格特性を活かしたプログラムを考えてみる

1. プログラムの基本方針

(1) 性格特性の理解と評価

  • 目的: 教師自身が性格特性を理解し、強みや課題を自覚する。
  • 評価法:
    1. ビッグファイブ性格診断を活用(例: BFI-2やNEO-PI-R)。
    2. 自己評価シートで日常行動と教育活動への適応度を測定。

(2) 個々の強みに基づく育成モデル

  • 学生の性格特性に応じて、指導スタイル別モデルを設定し、適性を伸ばすプランを設計する。
  • 例:
    • 外向性の高い教師 → 積極的な対話型授業ディスカッション型授業法を強化。
    • 協調性の高い教師 → 心理的サポート重視のカウンセリングスキルを育成。
    • 勤勉性の高い教師 → 計画的なカリキュラム設計力成果管理手法を強化。

2. プログラムの具体的構成

ステップ1: 自己理解フェーズ

  1. 性格診断テストの実施
    • 使用ツール: ビッグファイブ診断やストレングスファインダー。
    • 結果分析: 各特性ごとに強みと課題を把握。
  2. 自己分析ワークショップ
    • 自己認識を深めるためにグループディスカッションを実施。
    • ロールプレイを通じて自己の強みを発揮できる場面をシミュレーション。

ステップ2: 教育スキルの開発フェーズ

  1. 性格特性別指導法トレーニング
    (a) 外向性: コミュニケーションスキル強化セミナー(例: アクティブラーニング技法、ディベート技法)。
    (b) 協調性: カウンセリング技術や児童生徒支援スキルの習得(例: 傾聴技法、ピアサポート指導法)。
    (c) 勤勉性: 授業設計・教材開発ワークショップ(例: ルーブリック評価、ICTツール活用)。
    (d) 開放性: 創造的指導法やプロジェクトベース学習法の導入。
    (e) 情緒安定性: ストレス管理研修とレジリエンス強化プログラム。
  2. 現場実践トレーニング
  • 性格特性を反映した授業モデルを実施し、フィードバックを受ける。
  • 例: 外向性が高い教師は「対話中心授業」の実践、
    協調性が高い教師は「個別支援や相談活動」を強化。

ステップ3: 実践・評価フェーズ

  1. 教育実習・フィードバックセッション
    • 授業実践後、性格特性ごとに具体的なフィードバックを提供。
    • 他の学生や指導教員との共同省察セッションを実施し、成長点を共有。
  2. 長期的成長計画の策定
    • 成果指標を設定し、将来のキャリア目標と特性をどう生かすかを具体化。
    • 例: 協調性の高い教師は、学級経営やスクールカウンセラー的役割を視野に入れる。

3. プログラムのメリットと期待される効果

(1) 教師の強みを最大限に活用

  • 自分の特性を理解することで、
    教師自身のリーダーシップスタイル指導スキルを強化できる。

(2) 生徒の多様なニーズへの対応力向上

  • 自己理解が深まることで、
    生徒の性格や学習スタイルに合わせた柔軟な指導が可能になる。

(3) ストレス管理能力の向上

  • 自身の弱みや課題に向き合い、
    レジリエンス(回復力)を高めるトレーニングを行うことで、
    バーンアウトを防ぐ。

(4) 教育現場での実践力強化

  • 現場でのフィードバックを重視することで、
    理論と実践をつなぐスキルを磨く。

4. 実践例とモデルケース

ケース1: 外向性の高い学生

  • 授業スタイル: グループディスカッションや発表形式の授業を重視。
  • プログラム: プレゼン技術やディベートトレーニングを実施。

ケース2: 協調性の高い学生

  • 授業スタイル: 生徒の相談活動やカウンセリングを重視した指導法。
  • プログラム: 生徒支援・カウンセリングスキルやピアサポートプログラムを強化。

ケース3: 勤勉性の高い学生

  • 授業スタイル: 計画的・構造的な指導を得意とし、評価や分析を重視。
  • プログラム: ICT教材開発や評価基準設定ワークショップを取り入れる。

5. 総括

このように、性格特性を活かした教師育成プログラムは、以下の点で有効です。

  1. 自己理解の強化: 自身の特性を分析し、それを授業設計や指導法に反映できる。
  2. 柔軟な指導スタイル: 生徒の多様なニーズに対応できる個別化指導の実践が可能になる。
  3. 持続可能な成長: ストレス管理やレジリエンス強化によって、教育現場で長く活躍できるスキルを育成。

このプログラムは、教師の性格特性を生かした教育実践を支援し、
生徒の学習成果や心理的成長を促す教育現場の実現を目指します。

大学生が描く理想の教師像から、教師を育成することについてお話を進めてきました。
教育現場でも教師が不足し、教師が心を病んで休んでしまうという状況が現実に起きています。

今までのあり方やり方では通用しなくなっているということです。
あなたはどのように感じられましたでしょうか。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

菊野春雄・菊野雄一郎・李琦・山田悟史 (2017). 『教師を目指す学生の理想的教師像に及ぼす性格的要因』, 大阪総合保育大学紀要第12号, 2024年12月20日アクセス.https://jonan.repo.nii.ac.jp/records/922