
前回は禁煙と肥満の関係についてお話を進めてきました。
ここでは、表2 の喫煙と肥満の関係についての推計結果(変量効果・固定効果モデル)についてお話を進めていきます。
喫煙と肥満の関係についての推計結果

上記の内容について詳しく解説していきます。
表2の解説
この表は、「喫煙と肥満の関係が統計的に有意であるかどうか」を示す回帰分析の結果をまとめたものです。
変量効果モデル(RE: Random Effects Model)と
固定効果モデル(FE: Fixed Effects Model)の両方を用いて分析が行われています。
1. 目的
この表の目的は、禁煙すると肥満(BMI)が増加するのかどうかを検証することです。
特に、以下の2つの関係を分析しています。
- 喫煙者と禁煙者の間で、BMIに差があるのか
- 同じ人が喫煙をやめた場合に、BMIがどのように変化するのか
2. 使用されている統計モデル
(1) 変量効果モデル(RE: Random Effects Model)
- 個人ごとの違い(異質性)を確率的に考慮したモデル。
- データ全体を対象に、「喫煙者」「禁煙者」「非喫煙者」間のBMIの違いを推定する。
- 「ある人が喫煙者か禁煙者か」というグループ間の差異に焦点を当てる。
▶ 何がわかる?
→ 喫煙者・禁煙者・非喫煙者ごとに、BMIの平均的な差がどの程度あるのかがわかる。
(2) 固定効果モデル(FE: Fixed Effects Model)
- 個人ごとの違いを固定的にコントロールするモデル。
- 同じ人が喫煙を続ける/禁煙することで、BMIがどのように変わるかを見る。
- 「喫煙者 vs 禁煙者」ではなく、「ある人が禁煙したらBMIがどう変化するか」を分析。
▶ 何がわかる?
→ 「禁煙するとBMIがどれくらい変化するか?」を特定できる。
3. 表2の主な結果
表2の主な結果として、以下のようなことが示されています。
(1) 変量効果モデル(RE)の結果
- 喫煙者ダミーの係数:-0.159(有意)
→ 喫煙者の方が非喫煙者よりBMIが低い。 - 禁煙者ダミーの係数:+0.112(有意)
→ 禁煙者は非喫煙者よりもBMIが高い。
▶ 解釈
- 喫煙している人はBMIが低めである。
- 逆に、禁煙した人はBMIが増加する傾向がある。
(2) 固定効果モデル(FE)の結果
- 喫煙ダミーの係数(当年): -0.261(有意)
→ 喫煙を続けるとBMIは低めに抑えられる。 - 喫煙ダミーの係数(1年前): -0.255(有意)
→ 禁煙すると1年後もBMIは増加傾向が続く。 - 喫煙ダミーの係数(2年前): 統計的に有意でない
→ 禁煙後2年経つと、BMI増加の影響は弱まる。
▶ 解釈
- 禁煙すると、短期間でBMIが増加する。
- このBMIの増加は1年間は継続するが、2年後には影響が薄れる。
4. 表2から導き出せる結論
(1) 禁煙するとBMIが増加する
- 変量効果モデルでは、禁煙者は非喫煙者よりもBMIが高いことが示された。
- 固定効果モデルでは、禁煙するとBMIが上昇することが確認された。
(2) 禁煙によるBMIの増加は約1年続く
- 禁煙した後、1年間はBMIが上昇するが、2年後には影響が弱まる。
(3) 喫煙者のBMIは元々低め
- 喫煙は食欲を抑制し、代謝を上げる効果があるため、喫煙者のBMIは低め。
5. 政策的示唆
(1) 禁煙プログラムに体重管理を組み込む
- 禁煙すると体重が増加しやすいため、
禁煙支援と一緒に肥満防止策を行うことが重要。 - 例えば、禁煙者向けの食事管理や運動指導が有効。
(2) 禁煙後1年間は特に注意が必要
- BMIの増加が1年続くため、禁煙直後の体重増加リスクを考慮した支援が必要。
(3) 個々の性格に合わせた禁煙・肥満対策
- 時間割引率が高い人(短期的な欲求に流されやすい人)ほど、禁煙後に太りやすい。
- 性格特性に応じた支援(例:食行動をコントロールする方法の指導)**が求められる。
6. まとめ
結果 | 解釈 | 政策的示唆 |
---|---|---|
喫煙者のBMIは低い | 喫煙は食欲を抑え、代謝を上げる | 禁煙支援と同時に体重管理を考慮する |
禁煙者のBMIは高い | 禁煙すると食欲が増し、代謝が低下する | 禁煙後の食生活指導が重要 |
禁煙後1年はBMIが増加 | 食行動の変化が影響 | 禁煙後1年間のフォローアップが必要 |
2年後にはBMIの増加は落ち着く | 長期的には体重管理が可能 | 長期的な生活習慣の改善支援 |
結論
- 「禁煙は肥満につながるリスクがある」ことが統計的に確認された。
- 禁煙後の肥満防止策(食生活管理・運動指導)を禁煙支援とセットで実施することが重要。
- 特に禁煙後1年間は体重増加リスクが高いため、重点的なサポートが必要。
このように、禁煙と肥満のトレードオフを理解したうえで、
個々の特性に合わせた健康政策を実施することが求められるというのが、
この表2から導かれる結論です。
図3「時間割引率別の喫煙状態とBMIの分布」

1. このグラフの目的
このグラフは、「時間割引率(将来の利益より現在の利益をどれだけ優先するか)」が、
喫煙状態とBMIにどのような影響を与えるかを示すものです。
- 時間割引率が高い人(短期的な満足を重視する人)は、BMIがどのように変わるのか?
- 喫煙者・禁煙者・非喫煙者の間で、時間割引率の影響に違いがあるのか?
このような疑問をデータで視覚的に示したグラフになります。
2. グラフの構成
- 縦軸(Y軸):BMI(肥満度を示す指標)
- 横軸(X軸):喫煙状態
- 非喫煙者(喫煙経験なし)
- 喫煙者(現在も喫煙している)
- 禁煙者(過去に喫煙していたが禁煙した)
- データの分類:時間割引率
- 時間割引率が高いグループ
- 時間割引率が低いグループ
グラフでは、同じ喫煙状態でも、
時間割引率が高い人と低い人でBMIがどのように異なるのかを比較しています。
3. グラフの読み方
- 非喫煙者・禁煙者は、時間割引率が高いほどBMIが高くなる
- 喫煙者では、時間割引率が高いほどBMIが低くなる傾向がある
▶ ポイント①:禁煙者・非喫煙者の場合
- 時間割引率が高い(短期的な欲求を優先する)人ほど、BMIが高くなる
- つまり、将来の健康よりも、目先の満足(食事・間食・飲酒など)を重視するため、
肥満リスクが高くなる。
▶ ポイント②:喫煙者の場合
- 時間割引率が高いほど、BMIは低くなる傾向がある
- これは、喫煙者は食欲を抑え、代謝を上げる効果があるため、
時間割引率が高くてもBMIが上がりにくいことを示唆。
4. グラフから導き出せる結論
- 時間割引率が高い人(短期的な満足を優先する人)は、肥満リスクが高い
- 特に非喫煙者や禁煙者の場合、BMIが高くなる。
- 喫煙者は、時間割引率が高くてもBMIが低くなる傾向
- タバコの食欲抑制・代謝向上効果が影響している可能性。
- 禁煙すると、時間割引率が高い人はBMIが増加しやすい
- 短期的な満足を食事や間食で補おうとするため、肥満になりやすい。
5. 政策的な示唆
- 禁煙支援と同時に、時間割引率が高い人向けの体重管理対策が必要
- 短期的な満足を優先する人には、代替行動(健康的な間食や運動)を促す指導が必要。
- 喫煙がBMIを低く抑える可能性があるが、健康リスクが高いため、別の方法で管理するべき
- 喫煙による肥満抑制ではなく、適切な食生活や運動による体重管理を促進する。
6. まとめ
要素 | 解釈 |
---|---|
時間割引率が高い人はBMIが高い | 目先の満足(食事・間食・飲酒)を優先するため、肥満リスクが高まる |
喫煙者は時間割引率が高くてもBMIが低め | タバコが食欲を抑え、代謝を上げる影響 |
禁煙者は時間割引率が高いほどBMIが上がる | 禁煙後、食欲増加・代償行動(間食や飲酒)が増える |
この結果から、禁煙支援と肥満防止策をセットで考え、
特に時間割引率が高い人向けのアプローチが必要であることが示唆されます。
禁煙をするにはきっかけが必要です。
私の場合は、飲食店で働いた経験があり、
そのときアルバイトのスタッフと禁煙の話になり、
禁煙しようということで、始めたのがきっかけでした。
最初の1週間は、吸いたくて仕方ありませんでしたが、
慣れるとその気持ちがおさまってきて、
やめることができました。
禁煙をすると時間割引率が増えるというデータについては、
まさにその通りで、口寂しくなるというのでしょうか、
食べる量は増え、体重も増えました。
このデータのことを知っていれば、体重制限も可能であったなと。
禁煙指導と肥満対策はセットでやる必要があります。
今回はここまでです。次回はこの続きをさらに進めていきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
慶應義塾大学パネルデータ研究センター (2023). 『禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性-「日本家計パネル調査」を用いた禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析-』, 2025年2月5日アクセス. https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/DP2022-009_jp.pdf
禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性4へつづく