私たちのビッグファイブ分析は有効なのか

「日本語におけるビッグファイブとその心理測定的条件」という論文があります。
内容は、性格心理学におけるビッグファイブ理論を日本語で適用するための心理測定的条件を探る研究です。

簡単にいうと、質問の内容は適正なのか、
答えた日本語の質問に対する結果がどれだけ有効かということです。

ビッグファイブの有効性

研究目的:
日本語でのビッグファイブモデル(外向性、協調性、勤勉性、情緒安定性、知性)の適用可能性を確認すること。

研究方法:

  • 語彙アプローチを使用し、性格表現用語を収集。
  • 調査対象は大学生370名(男性150名、女性220名)。
  • 用語の評価には2件法(はい・いいえ)を採用し、因子分析を行った。

1. ビッグファイブモデルの適用可能性の確認とは?

ビッグファイブモデルは、
性格を5つの主要な次元(外向性、協調性、勤勉性、情緒安定性、知性)で説明する理論です。

この研究では、日本語話者に対してこのモデルが有効に適用できるかどうかを検証しました。

つまり、日本語の性格表現用語を使って、
ビッグファイブと同様の構造が見出せるかを確認することです。

2. 具体的な検証の観点:

(1) 語彙の選定と収集:

  • 日本語で使われる性格表現用語を大量に収集。
  • 用語の理解度、使われる頻度、意味の広がりを評価。

(2) 測定の方法:

  • 性格表現用語を被験者に提示し、自己評定を依頼。
  • 因子分析を行い、データから5つの主要な性格因子が得られるか確認。

(3) 異文化比較:

  • 英語を含む他言語で確認されているビッグファイブモデルと日本語の結果を比較。
  • 日本語独自の文化的影響や表現の違いが構造に影響するかを評価。

3. 適用可能性が確認できるとどうなるか?

  • 日本語版ビッグファイブの測定ツールが作成可能。
  • 心理学的研究や性格診断テストに使える標準的な尺度の開発。
  • 異文化間の性格研究に日本語を含めた比較研究の道が開かれる。

調査方法

1.分析手法:

  • 因子分析の手順:
    • 項目の分散が大きい317語を選定し、評価データの相関行列を構築。
    • 主成分分析を実施し、オーソマックス回転(直交回転)を用いて因子を抽出。
    • 固有値が急激に減少する5因子解を選択。
  • 5因子のラベル付け:
    • 外向性 (Extroversion)
    • 協調性 (Agreeableness)
    • 勤勉性 (Conscientiousness)
    • 情緒安定性 (Neuroticism)
    • 知性 (Openness/Intelligence)

2. 心理測定的条件の考慮点:

  • 用語の熟知度: 被験者が理解できる用語のみを使用。
  • 用語の分散: 評価が中央に集中しないよう、分散が高い用語を選定。
  • 社会的望ましさ: 社会的評価が極端な用語を除外し、バランスを重視。

日本語におけるビッグファイブ構造の適用可能性を実証し、
英語版との比較も行いました。研究手順は心理学の標準的な測定法に沿って進められています。

英語版と日本語版を比べてみると

1. ビッグファイブの因子構造の確認:

因子分析の結果、以下の5つの因子が抽出されました。
英語版ビッグファイブの対応因子とほぼ一致しました。

(1) 外向性 (Extroversion)

  • 高い因子負荷を示した用語:
    「内気な」「内向的な」「物静かな」「大人しい」など。
  • 特徴:
    社会的な積極性や社交性に関連する用語が多く、
    ビッグファイブ理論における外向性と一致しました。

(2) 協調性 (Agreeableness)

  • 高い因子負荷を示した用語:
    「怒りっぽい」「気が短い」「ひがむ」「むっとする」など。
  • 特徴:
    感情のコントロールや他者との関係性を示す用語が含まれました。

(3) 勤勉性 (Conscientiousness)

  • 高い因子負荷を示した用語:
    「真面目な」「責任感がある」「几帳面な」「計画的な」など。
  • 特徴:
    自己管理、規律、責任感を示す用語が集まりました。

(4) 情緒安定性 (Neuroticism – 逆スコアで安定性を示す)

  • 高い因子負荷を示した用語:
    「心配性な」「神経質な」「不安な」「ストレスに弱い」など。
  • 特徴:
    精神的な安定度やストレス対処能力に関連する用語が多く含まれました。

(5) 知性/開放性 (Openness/Intelligence)

  • 高い因子負荷を示した用語:
    「好奇心がある」「独創的な」「想像力がある」など。
  • 特徴:
    創造性や新しい経験への関心に関連する語が含まれました。

2. 日本語特有の要素の発見:

  • 文化的影響:
    • 日本語では「内気な」「控えめな」「物静かな」など、
      控えめであることが重要視される文化的要素が特に外向性因子に強く表れました。
    • また、「協調性」に関連する用語には、「怒りっぽい」「むっとする」などの
      否定的な感情コントロールに関する用語が含まれ、
      他言語版とは異なる傾向が確認されました。
  • 異文化比較:
    • 英語版ではポジティブな表現が多い一方、
      日本語版では感情や態度のネガティブな表現も多く含まれている点が特徴的でした。

3. 社会的に望ましい用語の除外の有効性:

  • 用語の評価値が極端に高い、または低い語は、評価の分散が小さいため除外されました。
  • 例えば、「誠実な」「正直な」など、社会的に高く評価されがちな用語は回答が集中しやすいため、除外されました。
  • この方法によって、より客観的な性格因子が得られ、測定の精度が高まりました。

結論

この結果は、
日本語版のビッグファイブ因子構造が文化的な影響を受けることを示しています。

同時に、基本的な5因子は異文化間でも共通していることが確認されました。
英語版と比較しつつ、日本語独自の語彙選定や文化的要素を考慮した
新たなビッグファイブ尺度の構築が示唆されました。

30,000人規模のデータによるビッグファイブ分析

HR CONCIERGEでもビッグファイブ分析を利用しています。
その分析の有効性についてお話ししていきます。

1. メリット: 精度と信頼性の向上

(1) 統計的パワーの向上:

  • 大規模データにより、小さな効果も検出可能。
  • 結果の誤差が減り、信頼性が向上。

(2) 文化的・個人差の補正:

  • 個人差や文化的バイアスが平均化され、一般的な傾向が明確に。
  • 国際比較が可能。

(3) 外的妥当性の向上:

  • 異なる集団や環境にも適用できる結果が得られる。
  • 性別、年齢、職業などの違いを統計的にコントロール可能。

2. 課題: 規模が大きくても考慮すべき点

(1) データ品質のばらつき:

  • 回答の正確さや真剣さが保証されない場合、結果にノイズが発生する。

(2) 文化的バイアスの残存:

  • 言語や文化の違いは完全には補正できない。

(3) 項目選定の重要性:

  • 不適切な質問項目は誤った結論を導くため、因子分析と検証が必要。

3. 実例: 大規模データの成功例

  • ビッグファイブ国際調査 (IPIP): 50か国以上での大規模調査により文化間比較が可能に。
  • 心理テスト標準化: MBTI、MMPIなどの心理測定ツールは数万人のデータを基に開発され、信頼性が高い。

4. 30,000人データの有効性

  • 30,000人規模のデータは、心理学研究において非常に高い精度と信頼性をもたらす。
  • 文化的バイアスの除去、データ品質の管理、項目選定、統計手法の選択が成功のカギ。
  • 多文化間の比較と個人差の補正による普遍的な心理モデルの構築が可能。

30,000人のデータから平均値を抽出

HR CONCIERGEは28年間性格分析に特化して携わっている
株式会社ロジック・ブレインのコンサルティングパートナーとして活動しております。

30000人のデータから平均値を出して結果を数値化しております。
ビッグファイブ分析がどの程度有効かなどをみていきます。


1. 強み: 精度と信頼性の向上

  • 信頼性の向上: 個人差が相殺され、ばらつきが減少。
  • 文化的・個人差の吸収: 年齢、性別、職業別の比較が可能。
  • 細分化分析: 性格特性の詳細な解析が可能。

2. 実用性: 平均値から得られる応用

  • 性格プロファイルの確立: 平均値から個人の性格特徴を評価可能。
  • 組織・社会的活用: 採用、教育、人材配置、社会的傾向の分析。
  • 異文化比較: 他国データとの比較で国際的な研究が進展。

3. 課題: 考慮すべき点

  • 回答の質: 回答のばらつきやノイズの影響が残る可能性。
  • 文化的バイアスの残存: 評価基準の違いによるバイアス。
  • 平均値の限界: 極端な個人差が平滑化される。

4. データ利用の期待と改善点

  • 実用性: 個人診断から組織運営まで幅広く活用可能。
  • 研究価値: 教育、職業適性、異文化比較の研究支援。
  • 改善可能性: 測定項目の見直しやデータの細分化が可能。

結論

30,000人のデータによるビッグファイブ分析は、
信頼性が高く、個人・社会レベルの心理測定に広く応用可能。
ただし、文化的バイアスやデータの質の管理、評価項目の改善が引き続き重要です。

いかがでしたでしょうか。HR CONCIERGEは組織分析屋です。
分析で利用しているビッグファイブ分析が有効であることが示されたかと思います。

これからも多くの方々のお役に立てるように精進してまいります。
引き続きよろしくお願い申し上げます。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

村上宣寛 (2003). 『日本語におけるビッグファイブとその心理測定的条件』, 性格心理学研究, 第11巻第2号, 69-85頁, 2024年12月12日アクセス.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpjspp/11/2/11_KJ00002442203/_article/-char/ja/?utm_source=chatgpt.com