育児ストレスと親のビッグファイブの変化2

前回は研究1、新生児の母親を対象に、育児の課題と性格発達の関係を調査し、
その結果についてお話を進めました。

ここでは研究2について見ていきます。

育児ストレスと親のビッグファイブ

研究2の詳細

思春期の子どもを持つ親における育児の課題と性格変化の双方向的関係の検証となります。

研究目的

研究1では、新生児の母親に焦点を当て、
育児のストレスが親の性格(特に協調性・誠実性・情緒安定性)に与える影響を明らかにしました。
研究2では、思春期の子どもを持つ親(母親・父親)を対象に、
親子の関係が親の性格に影響を与えるだけでなく、
親の性格が親子関係にも影響を及ぼす「双方向的関係」を検証しました。

研究デザイン


データセット

この研究では、
クロアチアで実施されたZagreb Personality and Parenting Longitudinal Study(ザグレブ性格・育児縦断研究)を使用しました。

  • 対象者
    • 母親: 548人
    • 父親: 460人
    • 合計: 1008人の親
    • 子ども: 720人(9.9歳~15.5歳, 平均12.7歳)
  • 年齢層
    • 母親: 27歳~57歳(平均41.3歳)
    • 父親: 29歳~65歳(平均44.2歳)
  • 調査期間
    • 3年間(1年ごとに3回調査

測定

1. 親子関係のストレス(Parent-Child Conflict)

  • 親と子ども、双方の視点から評価
  • 「親による評価」(Parent Rating)と「子どもによる評価」(Child Rating)の2種類のデータを使用
  • 25項目の質問(Parent-Adolescent Conflict Scale, Deković, 1999)
  • 例:
    • 「子どもと成績について口論することがある」
    • 「家庭内のルールについて子どもと対立することがある」
  • 回答方式: 4段階評価(1 = 「全くない」~4 = 「非常に頻繁にある」)
  • 内部整合性(信頼性):
    • 親の評価: α = .92
    • 子どもの評価: α = .90

2. 育児の自己効力感(Parenting Self-Efficacy)

  • 親が「育児をどれだけうまくこなせるか」という自己認識を測定
  • 5項目(Parenting Sense of Competence Scale, Johnston & Mash, 1989)
  • 例:
    • 「私は良い親であると信じている」
  • 回答方式: 4段階評価(1 = 「全くそう思わない」~4 = 「強くそう思う」)
  • 内部整合性(信頼性): α = .78

3. 性格特性(協調性・誠実性・情緒安定性)

  • クロアチア語版のInternational Personality Item Pool(IPIP, Goldberg, 1999, 50項目)
  • 5段階評価(1 = 「非常に当てはまらない」~5 = 「非常に当てはまる」)
  • 回答例:
    • 協調性:「私は他人に対して親切である」
    • 誠実性:「私は計画的に物事を進める」
    • 情緒安定性:「私はストレスに強い」
  • 内部整合性(信頼性):
    • 協調性: α = .79
    • 誠実性: α = .77
    • 情緒安定性: α = .86
  • データ収集時点
    • Wave 1(1年目)
    • Wave 2(2年目)
    • Wave 3(3年目)

統計解析

  • 潜在変数モデル(Latent Cross-Lagged Model)を用いたクロスラグ分析(Cross-Lagged Analysis)
    • 時間の経過による因果関係を分析
    • 親子関係のストレスが性格に影響を与えるか?
    • 親の性格が親子関係のストレスに影響を与えるか?
  • 統制変数:
    • 年齢、社会経済的地位(SES)、教育レベル
  • 欠損データ処理:
    • フル情報最大尤度法(FIML)で処理
  • モデル適合度(CFI, TLI, RMSEA, SRMRを使用)
    • 適合度指標(RMSEA < .05, CFI > .96)モデル適合度は良好

研究結果

主要な発見

  1. 親子間の葛藤は「情緒安定性」と「誠実性」の低下を引き起こす
    • 親子の対立が多いほど、親の情緒安定性と誠実性が低下
    • 特に父親の誠実性が影響を受けやすい(母親では有意でなかった)
    • β = -0.08(p < .01, 情緒安定性)
    • β = -0.06(p < .05, 誠実性, 父親のみ)
  2. 情緒安定性が高い親ほど、親子の葛藤が減少
    • 親の性格が親子関係を改善する要因になり得る
    • β = -0.08(p < .01, 情緒安定性 → 親子関係の改善)
    • 子どもの評価でも同様の結果が得られた
  3. 育児の自己効力感が高い親ほど、協調性・誠実性・情緒安定性が向上
    • 自信を持って育児を行うことが性格の成熟につながる
    • β = 0.09(p < .01, 自己効力感 → 協調性向上)
    • β = 0.06(p < .05, 自己効力感 → 誠実性向上)
    • β = 0.19(p < .001, 自己効力感 → 情緒安定性向上, 2年目以降)

考察

  1. 「親子関係」と「親の性格」は相互に影響を与え合う
    • 親子の葛藤が性格に悪影響を与えるだけでなく、
      親の性格が親子の関係を改善する可能性がある
  2. 父親と母親で異なる影響
    • 父親の誠実性は親子の葛藤に敏感 → 葛藤が多いと誠実性が低下しやすい
    • 母親は誠実性よりも情緒安定性が影響を受けやすい
  3. 育児の自己効力感は親の性格をポジティブに変える
    • 育児への自信が性格の成熟を促す
    • 育児支援プログラムや心理的サポートの重要性を示唆

結論

  • 親子の関係が親の性格を変えることが明確に示された
  • 特に、ストレスが性格の未熟化を招く一方、自己効力感は性格の成熟を促す
  • 育児ストレスの軽減が、親の性格発達や家族関係の向上につながる

1. 協調性(Agreeableness)

  • 思春期の子どもを持つ親(研究2)
    • 親子間の葛藤は、協調性の低下と有意な関連を示さなかった。
      これは予想外の結果であり、研究者は協調性が主に「対人関係の質」に影響を与えるため、
      葛藤の頻度ではなく、解決方法の違いがより重要である可能性を示唆しています。
    • 一方、育児の自己効力感(parenting self-efficacy)が高い親ほど、
      協調性が向上 することが確認されました。

2. 誠実性(Conscientiousness)

  • 思春期の子どもを持つ親(研究2)
    • 親子間の葛藤が、父親の誠実性を低下させる ことが確認されました。
    • 逆に、誠実性の高い父親は、親子間の葛藤が減少 することも示されました。
    • 母親については、親子の葛藤と誠実性の関連が確認されませんでした。
    • 育児の自己効力感が高いほど、誠実性が向上 することも明らかになりましたが、
      誠実性が育児の自己効力感を高める影響は確認されませんでした。

3.情緒安定性(Emotional Stability, またはNeuroticismの反対)

  • 思春期の子どもを持つ親(研究2)
    • 親子間の葛藤が、情緒安定性の低下と強く関連 していました。
    • 逆に、情緒安定性の高い親は、親子の葛藤が減少する傾向がありました。
    • 育児の自己効力感は情緒安定性の向上と関連 していましたが、
      この影響は時間の経過とともに変動しました(特に2年目以降に強く現れた)。

補足:他の特性(外向性・開放性)との関連

  • 外向性(Extraversion):
    • 研究では直接的な分析は行われていませんが、
      先行研究では「育児のストレスが高いと、外向性が低下する可能性」が指摘されています。
    • ただし、外向的な人は育児のストレスを軽減しやすいとも考えられます。
  • 開放性(Openness to Experience):
    • 本研究では分析対象ではありませんでした。
    • しかし、過去の研究では、
      開放性が高い親ほど育児に対して柔軟な対応ができる可能性が指摘されています。

この研究は、
「親子関係の質が、親の性格発達に影響を及ぼす」ことを示した
初の長期的・双方向的な検証として重要な意義を持っています。

個人的見解としては、親が子供の個性や特性を知っていれば、
関係に質は向上してくると考えます。

これをビジネスの観点に置き換えると、
リーダー、経営者、経営層や管理職層が自分の部下の個性や特性を認識していれば、
関係性の質は向上できる可能性もあるということにつながると考えます。

親子関係と、上司の部下の関係は似ているものです。
何度もお伝えしていますが、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」、
戦略や経営、さらには人間関係や自己理解にも応用できる普遍的な原則です。
視野を広げれば、
自己理解や他者理解の重要性が理解していただけるのではないでしょうか。

あなたはどのようにお感じになりましたか。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Hutteman, R., Bleidorn, W., Keresteš, G., Brković, I., Butković, A., & Denissen, J. J. A. (2014). 『若年期および中年期における育児の課題と親の性格発達の双方向的関連』, 2025年1月30日アクセス. https://doi.org/10.1002/per.1932