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若年成人期(18〜35歳)における基本的な性格特性と対人関係の問題について、
年齢および性別の違いを分析した研究論文のご紹介。
ここでは主に人間関係円環モデルについてお話を進めていきます。
五因子モデル(Big Five)と対人関係円環モデル(Interpersonal Circumplex Model)
本研究は、
五因子モデル(Big Five)と対人関係円環モデル(Interpersonal Circumplex Model)に基づいて、
若年成人の性格特性および対人関係の問題に関する年齢・性別の違いを調査しています。
使用された理論モデル
- 五因子モデル(Big Five Personality Traits)
- 神経症傾向(Neuroticism):ストレスやネガティブな感情を感じやすい傾向
- 外向性(Extraversion):社交的で活動的な傾向
- 開放性(Openness):新しい経験やアイデアを受け入れる柔軟性
- 協調性(Agreeableness):共感や協力的な態度
- 良心性(Conscientiousness):責任感があり、計画的な行動を取る傾向
- 対人関係円環モデル(Interpersonal Circumplex Model)
- 対人関係の二軸(支配―服従、敵対―友好)を基に、人間関係の特徴を分類
- サンプル: トルコの18〜35歳の514名(男性257名、女性257名)
- 目的: 若年成人の性格特性と対人関係の問題における性別および年齢の違いを明らかにすること
- 主な発見:
- 性別の違い:
- 男性は「開放性(Openness)」と「敵対的支配(Hostile-Dominance)」が高い
- 女性は「神経症傾向(Neuroticism)」と「協調性(Agreeableness)」が高い
- 年齢の違い:
- 良心性(Conscientiousness)は加齢とともに増加
- 敵対的支配(Hostile-Dominance)は加齢とともに減少
- 文化的背景の影響:
- トルコは集団主義から個人主義へ移行中であり、
社会的価値観が影響を与えている可能性がある。 - 日本でも集団主義から個人主義へ移行している段階であり、
参考になる点が多いです。
- トルコは集団主義から個人主義へ移行中であり、
- 性別の違い:
対人関係円環モデル(Interpersonal Circumplex Model)とは?
対人関係円環モデル(Interpersonal Circumplex Model)は、
人の対人行動や性格を2つの基本的な軸(次元)に基づいて整理し、
円環(サークル)状に配置することで、
人間の対人関係パターンを視覚的に理解しやすくするモデルです。
このモデルは、もともと精神分析学者ハリー・スタック・サリヴァン(Harry Stack Sullivan, 1953)の対人関係理論を基に発展し、
ウィギンズ(Wiggins, 1982)らによって詳細に整備されました。
1. モデルの基本構造
対人関係円環モデルは、次の2つの軸を基本にしています。
① 支配―服従(Dominance-Submission)
- 支配(Dominance):リーダーシップを発揮し、他者を導く行動
- 服従(Submission):他者に従い、受動的な行動を取る傾向
この軸は、対人関係の「パワーバランス」を示します。
② 友好―敵対(Affiliation-Hostility)
- 友好(Affiliation):親しみやすく、協力的で、温かい態度
- 敵対(Hostility):冷淡、批判的、攻撃的な態度
この軸は、対人関係の「感情的な方向性(協力的 or 対立的)」を示します。
2. 円環モデルの構成
この2つの軸を組み合わせることで、対人行動は円環(サークル)状に配置され、
8つの主要な性格・行動タイプが生まれます。
対人円環の8つの性格・行動タイプ
セクター | 特徴 | 例 |
---|---|---|
① 支配的-友好的(Domineering/Controlling) | リーダーシップがあり、人を指導する | カリスマ的リーダー |
② 支配的-敵対的(Vindictive/Self-centered) | 批判的で支配的、自己中心的 | ワンマン社長、横暴な上司 |
③ 敵対的-冷淡(Cold/Distant) | 冷たく距離を取る、批判的 | 無愛想な学者、厳格な審査員 |
④ 敵対的-服従的(Socially Inhibited) | 社交的に不安を感じ、遠慮がち | 内向的な人、消極的な部下 |
⑤ 服従的-敵対的(Nonassertive) | 自己主張が苦手で、人に流されやすい | いつも人に従うタイプ |
⑥ 服従的-友好的(Overly Accommodating) | 過度に協力的で、自己犠牲的 | お人好し、尽くしすぎる人 |
⑦ 友好的-服従的(Self-Sacrificing) | 他人を優先し、献身的 | 優しい相談役、世話好きな人 |
⑧ 友好的-支配的(Intrusive/Needy) | 親しみやすいが、押しつけがましい | おせっかいな人、世話好きすぎる親 |
各カテゴリーの間にはグラデーションがあり、極端な特徴があるわけではなく、
連続的に対人関係のパターンが形成されることがポイントです。
3. 対人円環モデルの活用
このモデルは、心理学、ビジネス、教育、カウンセリング、
チームビルディングなどの分野で活用されています。
① 人間関係の分析
- 対人問題の診断(例えば、ある人が「冷淡・敵対的」な性格傾向がある場合、
それが仕事やプライベートでどのように影響しているかを分析) - 組織内のリーダーシップスタイルの評価(例えば、「支配的-友好的」なリーダーはチームを引っ張る力があるが、
場合によっては強引になりすぎることも)
② カウンセリング・心理療法
- 対人関係の問題の理解と改善(例えば、「自己主張が苦手な人」がもっと自信を持って発言できるようにサポート)
- パーソナリティ障害の理解(対人円環は、自己愛性パーソナリティ障害(NPD)や回避性パーソナリティ障害(AVPD)などの診断にも役立つ)
③ ビジネスやリーダーシップ
- チームダイナミクスの理解(例えば、部下が「服従的-友好的」なタイプなら、支援的な指導が効果的)
- 営業や交渉のスキル向上(相手の性格タイプを見極め、適切な対人アプローチをとる)
4. 研究での活用
今回の論文では、この対人関係円環モデルを使って、
若年成人期の年齢や性別ごとの対人関係の問題を分析しています。
性別の違い
- 男性:「支配的-敵対的(Vindictive/Self-centered)」の傾向が強い
- 女性:「協調的・友好的(Self-Sacrificing)」の傾向が強い
- ただし、近年の社会変化により、女性の従来の「従順」な役割は減少傾向
年齢の違い
- 18〜22歳(移行期):支配的・敵対的な対人問題が多い(自信過剰・自己主張の強さ)
- 23〜26歳(若年成人期):対人関係のバランスが取れてくる
- 27〜35歳(早期成人期):支配的・敵対的な対人問題が減り、
協調性や責任感が増加(より成熟した対人関係を築くようになる)
今回は人間関係の円環モデルについてお話を進めてきました。
本論には入っていけませんでしたが、
次回はビッグファイブとの関連性についてお話を進めていきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
Akyunus, M., Gençöz, T., & Aka, B. T. (2019). 『若年成人期における基本的な性格特性と対人関係の問題における年齢と性別の違い』, 2025年1月31日アクセス. https://doi.org/10.1007/s12144-019-0165-z
若手のビッグファイブと人間関係の問題2へつづく