オンラインショッピングとビッグファイブ分析

ビッグファイブ性格特性(Five-Factor Personality Traits)を活用して、
オンラインの衝動買い(Impulsive Buying)
および強迫的購買行動(Compulsive Buying Behavior)における性格特性と
意思決定スタイルの関連性を探る内容となっています。

ショッピングとビッグファイブ

本研究の意義

  • 性格特性と購買行動の関係を探る点で、
    マーケティングや消費者行動研究に貢献する内容。
  • 特に衝動買いや強迫的購買行動を
    予測・管理するための実務的インサイトを提供。

ビッグファイブ性格特性ごとの関係

1. 外向性(Extraversion)

  • 衝動買い:
    • 有意な関係は見られない(p = 0.784)。
    • 外向性は衝動買いに対して特に影響を与えていないことを示唆。
  • 強迫的購買行動:
    • 有意な関係は見られない(p = 0.127)。
    • 外向性は強迫的購買行動にも特に影響を与えていない。

2. 調和性(Agreeableness)

  • 衝動買い:
    • 有意な関係は見られない(p = 0.063)。
    • 調和性は衝動買いを抑制する傾向があるが、統計的に有意ではない。
  • 強迫的購買行動:
    • 有意な負の相関(β = -0.145, p = 0.010)。
    • 調和性が高い人は強迫的購買行動を示す可能性が低い。

3. 誠実性(Conscientiousness)

  • 衝動買い:
    • 有意な負の相関(β = -0.185, p < 0.001)。
    • 誠実性が高いほど、衝動買い行動は減少。
    • これは、自己管理能力や計画性が高いことと関連。
  • 強迫的購買行動:
    • 有意な負の相関(β = -0.190, p = 0.001)。
    • 誠実性が高い人は、強迫的購買行動を示す可能性も低い。

4. 神経症傾向(Neuroticism)

  • 衝動買い:
    • 有意な関係は見られない(p = 0.966)。
    • 神経症傾向は衝動買い行動に直接的な影響を与えない。
  • 強迫的購買行動:
    • 有意な関係は見られない(p = 0.202)。
    • 神経症傾向と強迫的購買行動の関連は確認されていない。

5. 開放性(Openness to Experience)

  • 衝動買い:
    • 有意な関係は見られない(p = 0.055)。
    • 開放性が高い人が衝動買いを示す可能性は低いが、統計的に有意ではない。
  • 強迫的購買行動:
    • 有意な負の相関(β = -0.150, p = 0.015)。
    • 開放性が高い人は強迫的購買行動を示す可能性が低い。

関係の要点

  • 調和性、誠実性、開放性:
    強迫的購買行動と負の相関があり、
    これらの性格特性を持つ人は強迫的購買行動を抑制する傾向。
  • 誠実性:
    衝動買い行動に対しても唯一の負の相関が確認されており、
    最も抑制的な特性。
  • 外向性、神経症傾向:
    衝動買いおよび強迫的購買行動に対して特に有意な影響は確認されなかった。

これらの結果は、
衝動買いや強迫的購買行動が特定の性格特性によって影響されることを示し、
特に誠実性が重要な役割を果しています。

誠実性(Conscientiousness)が
衝動買いや強迫的購買行動において重要な役割を果たしている理由について。

1. 誠実性の特徴

誠実性は、自己管理能力、計画性、
規律を重視する特性として定義されており、
以下の要素が含まれています。

  • 計画性: 行動や選択を事前に計画し、衝動的な決断を避ける。
  • 責任感: 他者や自分自身に対する責任を重視するため、無駄遣いを避ける傾向。
  • 規律性: 感情や衝動を制御する能力が高い。

このような特徴が、
非合理的で無計画な購買行動(衝動買いや強迫的購買行動)を抑制する役割を果たしています。

2. 衝動買いとの関係

衝動買いは、
感情や外部の刺激による瞬間的な判断で購入が行われる行動です。
この点で誠実性が高い人々は以下のような行動をとる傾向があります。

  • 衝動的な欲求を認識し、それを抑制する力がある。
  • 購買前に予算や必要性を検討し、合理的な選択をする。
  • 外部刺激(セールや広告)に対して冷静な判断を維持できる。

これが衝動買い行動との負の相関(β = -0.185, p < 0.001)として現れています。

3. 強迫的購買行動との関係

強迫的購買行動は、
心理的な不安やストレスを解消するための繰り返し的な購買行動であり、
計画性や規律性が低い場合に顕著です。

一方、誠実性が高い人々は…

  • ストレス解消を購買行動以外の方法で行う(例:運動、問題解決思考)。
  • 長期的な結果を重視し、一時的な満足感のために経済的・心理的リスクを冒さない。
  • 責任感が高く、自己制御力が強いため、過剰な購買行動を避ける。

このため、強迫的購買行動との負の相関(β = -0.190, p = 0.001)が見られます。

4. 理論的背景と文献の支持

  • 自己制御理論(Self-Control Theory):
    誠実性が高い人は、自己制御能力が優れており、
    短期的な欲求を抑え、長期的な目標や価値観を優先する傾向がある
    (Tangney et al., 2004)。
  • 責任感と購買行動:
    Mowen(2000)やShahjehan et al.(2012)の研究では、
    誠実性が高い人々は、不合理な購買行動を回避し、
    責任ある購買選択を行う傾向があると報告されています。
  • 消費者心理の観点:
    誠実性は、購買行動における理性的な意思決定や目標指向性を促進し、
    衝動的・強迫的な購買行動の抑制に寄与します。

5. 実務的な意義

マーケティングの観点から見ると、
誠実性の高い消費者は衝動買いや強迫的購買行動を避けるため、
次のような特徴が挙げられます。

  • 割引や広告などの外部刺激に影響されにくい。
  • 計画的に商品を購入するため、
    長期的な信頼や価値を重視したマーケティングが効果的。

結論

誠実性は、計画性、責任感、規律性という特性を持つため、
衝動買いや強迫的購買行動を抑制する重要な役割を果たしています。

この特性を理解することで、
非合理的な購買行動を防ぐための介入やマーケティング戦略の設計が可能になります。

付録

ビッグファイブ分析との関連はありませんが、
この論文では意思決定スタイルが衝動買いや
強迫的購買行動とどのように関連しているかについての調査について報告されています。
いかに簡易的に内容を要約しております。

調査の背景

この研究では、消費者の意思決定スタイル(Consumer Decision-Making Styles)を評価するために、
Sproles & Kendall(1986)が開発した「消費者スタイルインベントリ(Consumer Style Inventory, CSI)」を使用しています。

このインベントリは、
消費者が購買行動においてどのような意思決定の傾向を持っているかを測定するための標準的なツールです。

研究で使用された意思決定スタイルは以下の通りです。

  1. ブランド志向(Brand Consciousness): ブランド価値や高価格を重視。
  2. ファッション志向(Fashion Consciousness): 流行や新しいものへの関心が高い。
  3. 娯楽志向(Recreational Orientation): ショッピングを楽しみとして捉える。
  4. 優柔不断(Indecisiveness): 選択肢が多い場合に混乱しやすい。
  5. 衝動的(Impulsiveness): 計画や熟慮がなく衝動的に行動する。
  6. 習慣的(Habitual): お気に入りのブランドや店舗で繰り返し購買する傾向。
  7. 完璧主義(Perfectionism): 完璧な選択を求める。
  8. 価格志向(Price Consciousness): コストパフォーマンスや価格に敏感。

調査概要

  • 目的:
    消費者の意思決定スタイルが衝動買いや強迫的購買行動とどのように関連しているかを検証。
  • 方法:
    Sproles & Kendall(1986)の消費者スタイルインベントリ(CSI)を使用し、
    オンライン調査を実施。
    • サンプル:
      オンラインショッピングを利用する18歳以上の478人。
    • 測定:
      各意思決定スタイル、
      衝動買い行動(Rook & Fisher, 1995)、
      強迫的購買行動(Flight & Scherle, 2013)を5段階リッカートスケールで評価。
  • 分析手法:
    構造方程式モデリング(SEM)を用いて、
    各意思決定スタイルと購買行動の関連を検討。

主な結果

  1. 衝動買いや強迫的購買行動と正の相関を示した意思決定スタイル:
    • ブランド志向、ファッション志向、娯楽志向、優柔不断、衝動的、習慣的。
    • これらのスタイルを持つ消費者は、非合理的な購買行動を示す傾向が高い。
  2. 関連性が認められなかった意思決定スタイル:
    • 完璧主義、価格志向。
    • 計画性やコスト意識が高く、非合理的な購買行動を抑制する傾向。

考察

  • 正の相関を持つスタイル:
    感情的や快楽的な要因に影響されやすく、
    購買行動が非合理的になりやすい。
  • 関連性がなかったスタイル:
    計画的で合理的な行動に基づくため、
    衝動的・強迫的な購買行動に影響を受けにくい。

意義

この調査は、
特定の意思決定スタイルが衝動買いや強迫的購買行動にどのように影響するかを理解し、
マーケティング戦略やターゲットセグメンテーションに活用できる重要な知見を提供しています。

ビッグファイブ分析により、
パーソナライズしたマーケティング戦略が有効であることを認識していただける内容となっています。
マーケティングに携わる方のヒントになれば幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Altınkan, D. & Armağan, E. (2024). 『THE EFFECT OF CONSUMER PERSONALITY TRAITS AND DECISION-MAKING STYLES ON ONLINE IMPULSIVE AND COMPULSIVE BUYING BEHAVIORS』, 2024年11月11日アクセス. https://doi.org/10.46238/jobda.1469380