ビッグファイブ特性と広告デザイン

「ビッグファイブパーソナリティとデザイン選択の関連性」に関する研究論文からのお話です。
内容はビッグファイブの5つの特性には、どのようなデザインが伝わりやすいのか、
特性ごとの選ばれるデザインを認識していただける内容です。

ビッグファイブの特性を広告にどう活かすのか

目的

ビッグファイブパーソナリティ特性(外向性、協調性、誠実性、神経症的傾向、開放性)と、
広告デザインの好みにどのような関連性があるかを明らかにすることです。


研究の概要

  1. デザインの法則
    • 一点の法則
    • 反復の法則
    • 色彩の法則
    • コントラストの法則
      これらを基に4種類の広告サンプルを作成。
  2. 分析方法
    • ビッグファイブ分析
      Ten Item Personality Inventory(TIPI)を用いて回答者の性格特性を測定。
    • 一対比較法
      広告デザインの好みを調査するために用いられた。
    • コレスポンデンス分析
      パーソナリティ特性とデザイン選好の関係性を可視化。
  3. 回答者
    • 岡山県在住の100名。
    • 年齢層は18~70歳。

結果

  1. デザイン選好
    • 最も好まれたのは「反復の法則」を取り入れたデザイン。
    • 最も好まれなかったのは「コントラストの法則」を取り入れたデザイン。
  2. パーソナリティとデザイン選好の関連性
    • 協調性が高い人 → コントラストの法則
    • 神経症的傾向が高い人 → 反復の法則
    • 開放性が高い人 → 色彩の法則
    • 外向性が高い人 → 反復の法則
    • 誠実性が高い人 → 一点の法則

わかったこと

パーソナリティ特性に基づいて適切な広告デザインを提示することで、
より効果的な広告戦略を構築できる可能性が示唆された。

1. パーソナリティ特性に基づくデザイン選択の傾向

研究結果は、特定のパーソナリティ特性が特定のデザイン法則と関連することを示しています。この知見により、以下のことがわかります:

  • 個別化されたデザイン戦略の重要性:
    各パーソナリティ特性に応じたデザイン法則を採用することで、より高い広告効果が期待できる。

パーソナリティ特性とデザイン法則の事例

1. 外向性(Extraversion)

  • 特徴:社交的でエネルギッシュ、刺激や活動を求める。
  • 関連デザイン法則反復の法則
    • 具体例
      1. 広告:明るくカラフルなパターンを繰り返し配置し、視覚的な刺激を与える。
        • 例:カラフルな波状デザインや動きのあるアニメーション広告。
      2. ウェブデザイン:ダイナミックでインタラクティブな要素を繰り返す。
        • 例:スライドショーやスクロールで次々に表示されるコンテンツ。
    • ポイント:テンポ感や活発さを重視し、次を期待させるデザイン。

2. 協調性(Agreeableness)

  • 特徴:思いやりがあり、調和や協力を重視する。
  • 関連デザイン法則コントラストの法則
    • 具体例
      1. 広告:バランスの取れた色彩やフォントサイズの対比を使い、調和を意識。
        • 例:柔らかい色調に少しだけ目立つアクセントカラーを配置。
      2. ポスター:背景とテキストが調和しつつも、特定のメッセージが際立つ構成。
        • 例:落ち着いたトーンの背景に、明るい黄色でキャッチコピーを強調。
    • ポイント:調和と強調を同時に実現するデザインが好まれる。

3. 誠実性(Conscientiousness)

  • 特徴:計画的で信頼性が高い、明確な方向性を好む。
  • 関連デザイン法則一点の法則
    • 具体例
      1. 販促チラシ:1つの主要メッセージにフォーカスし、無駄を省いたデザイン。
        • 例:シンプルなレイアウトで「今だけ50%オフ」と中央に大きく記載。
      2. ウェブデザイン:画面の中央に行動喚起ボタン(CTA)を配置。
        • 例:「今すぐ購入」ボタンが目立つ位置にあり、視覚的に導線が明確。
    • ポイント:簡潔で整理されたデザインが信頼感を与える。

4. 神経症的傾向(Neuroticism)

  • 特徴:不安やストレスを感じやすく、安定感や予測可能性を求める。
  • 関連デザイン法則反復の法則
    • 具体例
      1. 広告:シンプルなレイアウトと統一感のある繰り返しデザイン。
        • 例:同じ形状や色彩のパターンを反復して配置。
      2. 医療パンフレット:治療手順や効果を段階的に同じフォーマットで提示。
        • 例:「ステップ1」「ステップ2」のように、予測可能な構成で説明。
    • ポイント:安定感を与え、不安を軽減する要素を強調。

5. 開放性(Openness)

  • 特徴:創造的で新しい体験を好み、色彩や多様性に敏感。
  • 関連デザイン法則色彩の法則
    • 具体例
      1. パッケージデザイン:鮮やかな配色や独自のパターンで製品を目立たせる。
        • 例:エコ商品では、緑とブラウンを基調に、鮮やかなアクセントカラーを追加。
      2. ポスター:グラデーションや多色使いを活用し、視覚的な深みを持たせる。
        • 例:カラフルな背景に柔らかいフォントを使用してストーリー性を強調。
    • ポイント:創造性を刺激し、独自性を感じさせるデザイン。

広告デザインへの応用事例

1. 外向性(Extraversion)

  • 特性の特徴:活発でエネルギッシュ。動きのあるものや刺激を好む。
  • 広告デザインの応用
    • 動画広告:明るい色彩を使い、リズミカルな音楽やアニメーションを織り込む。
      • :スポーツウェアの広告で、ランニングする人々を繰り返し表示し、エネルギーを感じさせるデザイン。
    • ソーシャルメディア広告:ストーリー機能で動的な要素(スワイプ、タップ)を利用。
      • :「タップして次の色を見てみよう!」という仕掛け。

2. 協調性(Agreeableness)

  • 特性の特徴:調和や協力を重視。他者を思いやるメッセージに敏感。
  • 広告デザインの応用
    • テーマの選定:家族や友人のつながりを強調するデザイン。
      • :キャンペーンで「家族割引」を提案し、笑顔の家族を中心にしたビジュアル。
    • 柔らかい色調:暖色系(オレンジ、ピンク)を使用し、安心感を与える構成。
      • :子供向け食品の広告で、親子が一緒に食卓を囲むシーン。

3. 誠実性(Conscientiousness)

  • 特性の特徴:計画的で整理された内容を好む。シンプルかつ明確なメッセージに惹かれる。
  • 広告デザインの応用
    • レイアウト:主要メッセージを一つに絞り、不要な要素を排除。
      • :「エコで選ぶならこれ一択」と大きなキャッチコピーを中央に配置。
    • 色使い:シンプルで清潔感のある配色(白や青)。
      • :保険商品や金融サービスの広告で、信頼感を与えるデザイン。

4. 神経症的傾向(Neuroticism)

  • 特性の特徴:不安を感じやすい。安定感や予測可能性を求める。
  • 広告デザインの応用
    • 段階的な説明:ステップごとに製品の利点をわかりやすく説明。
      • :健康食品の広告で、「1日1粒で健康に」のような簡潔なメッセージを配置。
    • 穏やかな配色:柔らかいトーン(ベージュ、パステル)を使い、落ち着き感を与える。
      • :高齢者向けサプリメント広告で、安心感のある背景色。

5. 開放性(Openness)

  • 特性の特徴:創造性や新しいアイデアを好む。視覚的な多様性に惹かれる。
  • 広告デザインの応用
    • 革新的なレイアウト:グラデーションや非対称のデザインを採用。
      • :ファッションブランドの広告で、動きのある背景と大胆な色彩を使用。
    • ストーリー性:製品の背景やストーリーを視覚的に表現。
      • :クラフト製品で、「この一品がどのように作られたか」を短編映像で紹介。

プライバシー課題

データ収集とプライバシーの問題

課題

パーソナリティ特性を正確に測定するには、
個人データの収集が不可欠。

しかし、プライバシー保護の観点からデータの収集と利用には慎重な対応が求められる。

解決策の方向性

データ匿名化やプライバシー保護技術の導入。

ユーザーの明示的な同意を得る仕組みの構築。

異なる文化や世代への適応

課題

デザインの好みや心理的反応は、文化的背景や世代間で異なる可能性がある。

解決策の方向性

地域や世代ごとにパーソナリティとデザインの関連性を再検証。

グローバル対応可能なデザイン指針を開発。

デザイン法則のさらなる細分化

課題

本研究では4つのデザイン法則に絞って検討しているが、
他のデザイン要素(例:フォント、レイアウトなど)の影響も分析する必要がある。

解決策の方向性

より多くのデザイン要素を含めた包括的な研究を実施。

特定の要素間の相乗効果や競合関係の分析。

実世界での効果測定

課題

実験室的環境で得られた結果が、
実際のマーケティングやデザイン環境でどの程度再現可能かが未知数。

解決策の方向性

実際の広告キャンペーンや商品デザインでのフィールドテストを実施し、効果を測定。

ROI(投資収益率)や顧客行動の具体的なデータを収集。

パーソナリティが持つ多面性の考慮

課題

人間は一つの特性だけでなく複数の特性を持つため、
単一法則に基づくデザインが必ずしもすべての人に適合するわけではない。

解決策の方向性

複数の特性を考慮したハイブリッドデザインの開発。


これらの応用例と課題は、
パーソナリティ特性を活用したデザイン戦略を実世界に展開する際の指針となり得ます。

これからの時代はパーソナライズドマーケティングが主流になると考えています。
性格情報を利用したマーケティングが必要な時代到来です。
ご覧いただいた方のマーケティング戦略のヒントになれば幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

 千足南々子(岡山理科大学経営学部経営学科),森裕一(岡山理科大学経営学部). (2023年3月). 『ビッグファイブパーソナリティとデザイン選好の関係性: 実証的アプローチ』, 2024年11月12日アクセス.https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202302231295400528