大学生とバーンアウト

ビッグファイブ性格特性(外向性、協調性、誠実性、神経症的傾向、開放性)が
不安に与える影響について研究した内容をまとめています。

また、一般的な自己効力感と学業燃え尽き症候群が、
この関係にどのように媒介効果を持つかを探るという内容です。

自己効力感と学業燃え尽き症候群

目的:

  • ビッグファイブ性格特性が不安にどのように影響を与えるか、
    その内的メカニズムを明らかにすることを目的としています。
  • 特に、一般的な自己効力感と学業燃え尽き症候群が媒介する役割に焦点を当てています。

方法:

  • 中国河北省の大学の学生2,471人を対象にした横断的研究。
  • ビッグファイブ性格特性質問票、
    一般的な自己効力感尺度、
    学業燃え尽き症候群尺度、
    不安尺度を用いて調査。

1. 背景: 不安の重要性と課題

  • 不安は大学生の間でよく見られる精神的健康問題であり、
    その影響は学業、社会的活動、身体的健康に及ぶとされています。
    WHOのデータによれば、不安障害の患者数は近年増加傾向にあり、
    特に大学生において中程度から高いレベルの不安が観察されています。
  • 不安は睡眠障害や心疾患、その他の健康問題に関連し、
    公衆衛生上の重要な課題として注目されています。
    そのため、不安の前兆やそのメカニズムを理解することが重要です。

2. ビッグファイブ性格特性と不安の関係

  • 性格特性(ビッグファイブ性格モデル:外向性、協調性、誠実性、神経症的傾向、開放性)は、
    人々の行動や感情における長期的な傾向を示します。
  • 過去の研究では、神経症的傾向が不安と強い正の相関を持つ一方で、
    外向性、協調性、誠実性、開放性は不安に対して負の影響を与える可能性が示されています。
    しかし、この関連性を詳しく説明する内的メカニズムは、まだ十分に解明されていません。

3. 大学生への注目

  • 大学生は社会的役割の変化や支援体制の不足、
    学業や将来へのプレッシャーなどにより、
    不安や精神的健康問題のリスクが高い集団です。
  • 性格特性は長期的に安定しているため、
    直接的に変更することは難しいとされています。
    一方で、不安の軽減には中間要因(mediators)に焦点を当てることが有効であると考えられています。

4. 自己効力感と学業燃え尽き症候群の重要性

  • 自己効力感(self-efficacy)は、
    自分の能力に対する自信や課題を達成する力を信じる度合いを示します。
    高い自己効力感は、
    不安を軽減する心理的リソースとして機能する可能性があります。
  • 学業燃え尽き症候群(academic burnout)は、
    長期にわたる学業ストレスが原因で生じる感情的消耗、
    達成感の欠如、学業への無関心を特徴とします。
    不安を引き起こす要因として広く知られています。
  • これら2つの要因が、
    性格特性と不安の関係をどのように媒介しているかを明らかにすることを目的としています

5. 研究目的の意義

  • 性格特性は直接的には変えられないが、
    自己効力感や学業燃え尽き症候群の調整を通じて、
    不安を軽減できる可能性があります。
  • この研究は、
    大学生の精神的健康を改善するための理論的基盤を提供し、
    不安を減少させる実践的な介入策を示唆することを目指しています。

したがって、この研究は、大学生という特定の集団に焦点を当て、
性格特性、不安、自己効力感、学業燃え尽き症候群の複雑な相互関係を明らかにするために計画されました。

この知見を通じて、
大学や教育機関がより適切なメンタルヘルス支援を提供できるようになることが期待されています。

ビッグファイブと不安という感情

ビッグファイブ性格特性と不安の関連性における内的メカニズムを解明するため、
自己効力感と学業燃え尽き症候群を媒介変数として設定し、
それらの役割を明らかにしています。
調査結果から得られた主な知見は以下の通りです。

1. ビッグファイブ性格特性と不安の関連性

  • 外向性、協調性、誠実性、開放性:
    • 不安と負の相関を持つことが確認されました。
    • 高いこれらの特性を持つ人は自己効力感が高く、
      学業燃え尽き症候群が少ない傾向があり、
      結果として不安が軽減されることが示されました。
  • 神経症的傾向:
    • 不安と強い正の相関を持つことが明確になりました。
    • この特性が強い人は自己効力感が低く、
      学業燃え尽き症候群のレベルが高くなる傾向があり、
      結果として不安が増加します。

2. 内的メカニズムの解明

調査では、自己効力感と学業燃え尽き症候群が媒介変数として重要な役割を果たしていることが判明しています。

  • 自己効力感の役割:
    • 外向性、協調性、誠実性、開放性は高い自己効力感を促進し、
      自己効力感が高い人は不安が低い傾向がある。
    • 神経症的傾向は自己効力感を抑制することで、
      不安を増加させる。
  • 学業燃え尽き症候群の役割:
    • 学業燃え尽き症候群は、
      不安の増加に直接寄与する。
    • 外向性、協調性、誠実性、開放性は燃え尽き症候群を軽減する一方、
      神経症的傾向は燃え尽き症候群を増加させる。
  • チェーン媒介効果:
    • 自己効力感と学業燃え尽き症候群が連鎖して、
      不安に影響を与えるメカニズムが確認されました。
    • 特に外向性、協調性、誠実性、開放性はこのチェーン効果を通じて不安を低減する。
      一方、神経症的傾向は逆の方向に働き、不安を増加させる。

3. 他にわかったこと

以下のような追加の知見も得られました:

  • 性格特性の直接効果:
    • 神経症的傾向を除く他の4つの性格特性は、
      不安に対して直接的な負の影響を持つことが確認されました。
    • 神経症的傾向は、不安に対して強い直接的な正の影響を持つ。
  • 完全媒介と部分媒介の違い:
    • 開放性は、不安に対して直接的な影響を持たず、
      自己効力感と学業燃え尽き症候群を完全に媒介する形で影響を及ぼす。
    • 他の特性(外向性、協調性、誠実性、神経症的傾向)は、
      媒介効果と直接効果の両方を通じて不安に影響を与える。
  • 性別や学年の違い:
    • 性別、学年、出身地などの要因が、性格特性や不安、
      学業燃え尽き症候群に与える影響についても統計的に分析されており、
      例えば協調性や学業燃え尽き症候群のスコアは男女間で有意な違いがあることが示されました。

結論

この調査は、
ビッグファイブ性格特性と不安の関係における内的メカニズムとして、
「自己効力感」と「学業燃え尽き症候群」が重要な媒介変数であることを明確にしました。

また、それらがどのように相互に作用して不安を高めたり軽減したりするかを、
連鎖的に解明しています。
この知見は、不安軽減のための介入策の設計に役立つ重要な基礎を提供しています。
上記はチェーン媒介効果として後ほど解説していきます。

コロナにより、人との接触が制限されたこともあって、
大学生、とくにZ世代はメンタルヘルスに対して敏感です。
不安という見えない感情に気づいていないということを、
私は感じています。

今回の研究は、大学生にとってより良い環境とはを考える機会となり、
人財育成にもつながってきます。
これは企業にも応用できる内容ではないでしょうか。どの企業も短期的施策に力を入れて、
環境づくりという長期的な施策を行わず、人が育たないと悩んでいる経営者や経営層、
管理職の方がたくさんいらっしゃいます。植物を育てるには土壌がよくなくては育ちません。
環境づくりの大切さを認識していただける研究であると確信しています。
詳細はまた続きでお伝えしていきます。

大学生とバーンアウト その2へ続く

参考資料

Wu, X., Zhang, W., Li, Y., Zheng, L., Liu, J., Jiang, Y., Peng, Y. (2024). 『The influence of big five personality traits on anxiety: The chain mediating effect of general self-efficacy and academic burnout』, 2024年11月25日アクセス. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0295118