営業職では、一般的に外向性(assertivenessとenthusiasm)が成功に寄与する特性とされています。
しかし、外向性と営業成績の関連については、
これまでの研究で一貫性がない結果が示されています。
外交性と営業成績について一貫した結果を求めたのが今回の研究です。
外向性とアンビバート
外向性の利点と限界
外向性は以下の理由で有利と考えられます:
- 他者と積極的に接触できる。
- エネルギッシュな態度で顧客を引き付ける。
- 顧客の態度や行動を変える力がある。
しかし、外向性が高すぎる場合には、次のような問題が発生することがあります:
- 顧客の視点を無視しがち。
- 自己主張が強すぎることで逆効果を招く。
以上のような点から、
営業成績に寄与する、外向性の高さが営業成績と結びつかないのではと考えられました。
研究調査内容
340名のコールセンター従業員を対象に行われた調査では、
外向性と営業収益の関係が逆U字型(非線形)であることが示されました。
- 外向性が中程度のアンビバートが最も高い収益を上げた。
- 外向性が低い内向的な従業員や、高すぎる外向的な従業員は、
アンビバートほどの成果を出せなかった。
アンビバートとは
- アンビバートとは
アンビバートは外向性と内向性の中間に位置する特性を持つ人々を指します。
これにより、以下のような柔軟な行動が可能です:- 必要に応じて話すことと聞くことのバランスを取れる。
- 顧客のニーズに応じた適切なアプローチができる。
つまり、アンビバート特性を持つ人財の方が成果を上げたということで、
アンビバートの優位性といいます。
営業において外向性が成功に寄与する特性であるとは言えないということです。
アンビバートがどのようにして発見されたのかを見ていきます。
1. アンビバートが発見された経緯
アンビバートという概念は、性格特性に関する研究の中で、
外向性と内向性が単純な二分ではないことが明らかになったことから注目されるようになりました。
特に、アダム・グラント教授(ペンシルベニア大学ウォートン校)の研究が、
営業成績におけるアンビバートの優位性を具体的に示した重要な貢献として挙げられます。
- 従来の考え方:
- 外向性が高いほど営業に向いていると考えられてきた。
- しかし、外向性と営業成績の関係についての過去の研究では、
一貫性のない結果が多く見られた。
- 問題の発見:
- 外向性が極端に高いと、顧客との関係構築やニーズの把握に課題が生じる可能性があることが示唆された。
- 一方、内向性が高すぎると自己主張や説得が不足することが課題となる。
- 仮説の提唱:
- 外向性と内向性の間の「中間的な位置(アンビバート)」にいる人々が、
バランスの取れたアプローチを可能にするという仮説が立てられた。
- 外向性と内向性の間の「中間的な位置(アンビバート)」にいる人々が、
2. アンビバートの優位性
アンビバートの優位性は、
外向性と内向性の特性を組み合わせることで、
営業職などの人間関係が重要な職務で柔軟な対応が可能になる点にあります。
具体的な優位性
- 話すと聞くのバランス:
- アンビバートは必要に応じて話すことと聞くことを調整できるため、
顧客のニーズを正確に把握できる。 - 外向性が高すぎると一方的に話しすぎる傾向があり、
内向性が高すぎると説得力が欠ける可能性がある。
- アンビバートは必要に応じて話すことと聞くことを調整できるため、
- 顧客ニーズへの柔軟な対応:
- 適切なタイミングで顧客の意見に耳を傾け、
興味を引きつつ説得することができる。
- 適切なタイミングで顧客の意見に耳を傾け、
- 「押し売り感」の軽減:
- 外向性が高すぎると顧客が過剰な圧力を感じる場合があるが、
アンビバートはバランスを保ち、「顧客志向」の印象を与える。
- 外向性が高すぎると顧客が過剰な圧力を感じる場合があるが、
具体例: アダム・グラント教授の研究
- コールセンターの営業職員340名を対象とした調査で、アンビバートが最も高い売上を記録。
- 平均時給で比較すると、アンビバート(外向性スコア4.0)は時給約208ドルを稼ぎ、
外向性の高い職員(スコア5.5以上)の約126ドル、内向性の高い職員(スコア3.75未満)の約120ドルを大きく上回った。
アダム・グラント教授の研究 その理論的背景
アンビバート発見の背景と理論的根拠
(1) 外向性と内向性の二分モデルへの疑問
従来のパーソナリティ心理学では、
外向性と内向性は性格特性の両極端として考えられていました。
しかし、この二分モデルは以下の課題を抱えていました。
- 外向性と営業成果の関連性が一貫しない
- 過去の研究では、外向性が営業パフォーマンスに正の影響を与えることは示されていたものの、
その相関係数は低く、0.07程度(ほぼ無関係と解釈されるレベル)という結果も報告されています。 - 例: Barrick et al., 2001 のメタ分析では、
外向性と営業成果に統計的な関連はほぼ認められませんでした。
- 過去の研究では、外向性が営業パフォーマンスに正の影響を与えることは示されていたものの、
- 高外向性のリスク
- 外向性が高い人は社交的で自信に満ちていますが、
同時に顧客のニーズを十分に聞かず、
一方的な押し売りに陥る可能性があります。 - 外向性の過剰は説得力を強調しすぎるため、
顧客に圧力を感じさせることがあります(Ames & Flynn, 2007)。
- 外向性が高い人は社交的で自信に満ちていますが、
- 低外向性の課題
- 内向性が高い人は顧客の話をよく聞くものの、
必要なタイミングでの自己主張や提案力が不足し、
クロージングに苦戦するケースが多く報告されています。
- 内向性が高い人は顧客の話をよく聞くものの、
(2) グラント教授の仮説: 曲線的モデルの提唱
- アダム・グラントは、外向性と営業成績の関係は直線ではなく、
逆U字型であるという仮説を立てました。 - このモデルでは、外向性が中程度の人(アンビバート)が最も成果を出すと考えられました。
- 理由:
- 高外向性者は話す力は強いが、顧客のニーズを十分に聞かないリスクがある。
- 高内向性者は聞く力が強いが、説得力が不足するリスクがある。
- アンビバートはこの2つのバランスを取ることができるため、
成果が最大化されると理論付けられました。
2. グラント教授の実証研究
(1) 研究デザイン
- サンプル:
- アメリカ国内のコールセンター営業職員340名。
- 男女比: 71%男性、29%女性。
- 平均年齢: 19.9歳。
- 評価項目:
- 外向性: Big Five性格分析の20項目を使用し、7段階スケールで測定。
- 営業成果: 3ヶ月間の売上データを追跡。
- 分析方法:
階層的回帰分析を用いて、外向性と売上の関係を線形・非線形モデルで検証。
(2) 結果
- 外向性と営業成果の関係は逆U字型であることが統計的に確認されました。
- 最適な外向性スコアは4.0(7段階中)。これに該当するアンビバートは、
他のグループを大きく上回る成果を上げました。
外向性スコア | 時給収入($) | 成果傾向 |
---|---|---|
3.75以下 | 約120ドル | 内向性が高く、説得力不足が課題。 |
4.0~5.5 | 約208ドル | バランスが良く、最も高い成績を記録。 |
5.5以上 | 約126ドル | 外向性が高すぎて押し売り感が強い。 |
- 補足分析: 他のビッグファイブ特性(協調性、感情安定性など)は、
外向性との相互作用で有意な影響を示さなかった。
このため、アンビバートの優位性は「外向性の中間的特性」そのものによると結論付けられました。
3. 心理学的メカニズム
(1) バランス理論
- 傾聴と説得のバランス:
アンビバートは、相手のニーズを聞きながら説得する柔軟性を発揮できる。- 傾聴力 → 顧客の要望や不安を理解。
- 説得力 → 解決策を提示しクロージングにつなげる。
- 感情的インテリジェンス(EQ)との関係:
- アンビバートはEQが高い傾向があり、状況に応じた感情コントロールが得意。
- これにより顧客と良好な関係を築きやすい。
4. 実務への応用と課題
(1) 採用と育成
- アンビバート特性を測定する評価テストを採用プロセスに導入。
- 営業職やカスタマーサービス向けに「傾聴力+提案力」強化トレーニングを提供。
(2) 注意点
- アンビバートの優位性は特定の業務(営業や顧客対応)に限定される可能性がある。
- 分析ツール(Big Fiveなど)の精度向上が継続課題。
5. 結論
アンビバートは、
心理学的観点からも柔軟性とバランスの取れた対応力を持つ特性として定義され、
実証研究によってその優位性が確認されています。
アダム・グラント教授の研究は、
この特性を営業や顧客対応のパフォーマンス向上に活用できることを示しています。
今後は、他業種への適用可能性やトレーニング手法の研究が進むことで、
さらに多くの分野で実践的な効果を発揮することが期待されています。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
アダム・M・グラント (2013). 『Rethinking the Extraverted Sales Ideal: The Ambivert Advantage』, 2024年12月30日アクセス. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0001839213480813
営業における外向性の理想像・アンビバートの優位性2へつづく