この研究は、Cloningerの気質・性格モデルとBig Fiveモデルの関連性を検討することを目的としています。
これにより、パーソナリティ特性をより包括的に理解する手がかりを得ることを目指している研究です。
人は生まれ持った変わりにくいパーソナリティと環境に影響されるパーソナリティを持っています。
前者は遺伝的なパーソナリティ、
後者は環境に影響をうけて変わるパーソナリティと言えます。
ここではその研究調査方法についてお話を進めていきます。
変わりにくいパーソナリティと変わるパーソナリティ
Big Fiveモデルは、外向性・神経症傾向・開放性・誠実性・調和性の5因子から成り、
パーソナリティを包括的に捉えるモデルとして広く研究されています。
Cloningerのモデルは、気質と性格の2次元からパーソナリティを説明し、
精神疾患の診断や理解に役立つモデルです。
研究調査方法
日本の大学生457名を対象に、
Temperament and Character Inventory (TCI) とBig Five尺度を用いて測定。
Cloningerの気質・性格モデルは、アメリカの精神科医C. Robert Cloningerによって提唱された、
パーソナリティ(性格)を説明する心理学的モデルです。
このモデルは、遺伝的要因と環境要因の両方を考慮し、
気質(Temperament)と性格(Character)の2つの側面からパーソナリティを体系的に説明します。
1. モデルの概要
Cloningerは、パーソナリティを以下の2つの要素に分けて分析します:
(1) 気質 (Temperament)
生まれつきの遺伝的要素に基づく特徴で、
感情や行動の反応パターンを決定します。
これらは幼少期から安定しており、
学習や経験による変化は比較的少ないと考えられています。
Cloningerの気質モデルは、4つの次元から成り立っています:
- 新奇性追求 (Novelty Seeking; NS)
- 新しい刺激を求め、興奮しやすく衝動的な行動をとる傾向。
- 神経伝達物質:ドーパミンと関連。
- 損害回避 (Harm Avoidance; HA)
- 危険を回避しようとし、不安や恐れに敏感で慎重な傾向。
- 神経伝達物質:セロトニンと関連。
- 報酬依存 (Reward Dependence; RD)
- 他者からの承認や報酬を求め、感情的で共感的な行動をとる傾向。
- 神経伝達物質:ノルアドレナリンと関連。
- 固執 (Persistence; PS)
- 困難に対して粘り強く努力し続ける傾向。
(2) 性格 (Character)
後天的に学習される要素で、経験や環境によって変化します。性格は、成熟や成長を通じて発展し、社会的・文化的影響を受ける部分を説明します。
性格は3つの次元から構成されます:
- 自己志向 (Self-Directedness; SD)
- 自己管理能力や自律性を示す傾向。
- 高い人は目標志向的で責任感が強い。
- 協調性 (Cooperativeness; C)
- 他者と協力的で共感的な行動をとる傾向。
- 高い人は対人関係が良好で社会性が高い。
- 自己超越 (Self-Transcendence; ST)
- 自己を超えた視点を持ち、精神的・宗教的体験を重視する傾向。
- 高い人はスピリチュアリティや精神的探求心が強い。
2. 測定ツール:Temperament and Character Inventory (TCI)
Cloningerは、
これらの特性を測定するためにTemperament and Character Inventory (TCI)という質問紙を開発しました。
TCIは240項目または短縮版125項目で構成され、各次元を数値化して評価します。
3. モデルの意義と応用
- 精神疾患の理解と診断:
- 気質は生物学的基盤を持つため、
不安障害やうつ病などの精神疾患のリスク評価に役立ちます。 - 例:損害回避が高い人は不安症状が強く表れる傾向があります。
- 気質は生物学的基盤を持つため、
- 個人の成長と治療計画:
- 性格次元は後天的に変化可能なため、
心理療法や認知行動療法を通じて発展や改善が可能です。
- 性格次元は後天的に変化可能なため、
- パーソナリティ研究との統合:
- CloningerモデルとBig Fiveモデル(外向性、神経症傾向、開放性、誠実性、調和性)は互いに補完的であり、
両モデルを組み合わせることでパーソナリティをより詳細に理解できます。
- CloningerモデルとBig Fiveモデル(外向性、神経症傾向、開放性、誠実性、調和性)は互いに補完的であり、
4. 注意点と限界
- Cloningerモデルは主に臨床心理学や精神病理学に焦点を当てており、
診断や治療に適していますが、一般的な性格分析ツールとしては少し複雑です。 - Big Fiveモデルは「ボトムアップアプローチ」に基づくのに対し、
Cloningerモデルは「トップダウンアプローチ」を採用しており、異なる視点から性格を捉えるため使い分けが求められます。 - 一部の研究では、文化的差異や翻訳の問題により測定結果が異なる可能性が指摘されています。
5. まとめ
Cloningerの気質・性格モデルは、
遺伝的・生物学的要素と学習・環境要素を統合してパーソナリティを理解する強力な理論です。
- 気質:生まれ持った特性(変わりにくい)
- 性格:経験によって発展する要素(変わりやすい)
このモデルは、精神疾患の理解や個人の発達支援に応用される一方で、
Big Fiveモデルと組み合わせることで、より包括的なパーソナリティ評価が可能となります。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
Cloninger, C. R., Svrakic, D. M., & Przybeck, T. R. (1993). 『A psychobiological model of temperament and character』, Archives of General Psychiatry, 50(12), 975-990. 2025年1月10日アクセス. https://doi.org/10.1001/archpsyc.1993.01820240059008
五十嵐大介・山田洋一 (2008). 『Cloninger の気質・性格モデルと Big Five モデルとの関連性』, パーソナリティ研究, 16(3), 123-134. 2025年1月10日アクセス. https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/16/3/16_3_324/_article/-char/ja/
Cloningerの気質・性格モデルと Big Fiveモデルとの関連性2へつづく