Cloningerの気質・性格モデルと Big Fiveモデルとの関連性2

前回はCloningerの気質・性格、変わりにくいパーソナリティと
変わるパーソナリティについてお話を進めていきました。

ここでは分析方法と気質・性格モデルをフレームワークとして、
どの場面で利用さえるのかをお話ししていきます。

Cloningerの気質・性格モデルの応用例

1. データ解析の方法

(1) 測定ツールの利用 – TCI (Temperament and Character Inventory)

Cloningerのモデルを測定するために使用されるTCIには以下の特徴があります:

  • 項目数: 240項目(短縮版は125項目)
  • 評価尺度: 4件法または7件法で評価(例:全く当てはまらない〜非常に当てはまる)
  • 対象因子: 気質4因子と性格3因子の合計7因子

(2) 相関分析

気質因子性格因子の関連性や、他の性格モデル(例:Big Fiveモデル)との関係を分析する際には、
相関係数 (Pearson’s r)を利用します。

例:

  • 損害回避(HA)と神経症傾向(情緒不安定性)が正の相関 (r = 0.54)を示すことが確認されています​。
  • 新奇性追求(NS)と外向性は正の相関 (r = 0.31)を示す​。

これにより、異なるモデル間の共通点や相違点を明らかにします。

(3) 階層的重回帰分析

Big Fiveモデルなどの説明変数に対して、
Cloningerの気質・性格モデルの説明力を検証するために使用されます。

解析例:

  • Step 1で「気質次元のみ」を投入し、Step 2で「性格次元」を追加投入。
  • 性格次元の追加によって説明率が向上するかどうかを評価。

結果:

  • 誠実性に対する決定係数は0.41から0.46に増加し、気質のみではなく性格次元の影響も重要であることが示されました​。

2. 応用例

(1) 精神疾患の理解と治療計画

Cloningerモデルは、精神疾患の診断と治療アプローチに応用されます。

  • 不安障害:
    損害回避(HA)が高い人は不安傾向が強く、不安障害のリスクが高いとされています。
    → セロトニン作動薬や認知行動療法を中心に治療を計画。
  • うつ病:
    報酬依存(RD)が低い人は他者との関係を構築しにくく、抑うつ傾向が高い。
    → ソーシャルスキルトレーニングを取り入れた治療を検討。
  • パーソナリティ障害:
    自己志向(SD)や協調性(C)が低い場合、パーソナリティ障害と関連。
    → 長期的な心理療法による改善を目指す。

(2) 人材採用・教育分野への応用

気質と性格の組み合わせを分析することで、職業適性やチーム編成に活用できます。

  • 例1: 新奇性追求(NS)が高く、報酬依存(RD)が高い人は、
    営業やマーケティング職に適性がある。
  • 例2: 固執(PS)が高く、誠実性も高い人は、
    プロジェクト管理やエンジニアリング職に適性がある。

(3) スポーツ心理学への応用

アスリートのパフォーマンス向上やメンタルトレーニングに活用されています。

  • 例1: 新奇性追求(NS)が高い選手は、新しい技術や戦術を積極的に採用するが、
    損害回避(HA)が高いとリスクを避けるため積極性が低下する可能性がある。
  • 例2: 固執(PS)が高い選手は長期的なトレーニングに耐える持久力がある。

(4) 組織心理学とリーダーシップ分析

リーダーシップスタイルやチームの相性を評価するために用いられます。

  • 自己志向(SD)が高いリーダーは、目標設定やチームの方向性を示す能力に優れる。
  • 協調性(C)が高いリーダーは、チームメンバーとの関係構築に長けているため、
    チームワーク重視の組織で成果を出しやすい。

(5) 臨床研究と脳科学

神経伝達物質や脳の特定部位との関連を検討する研究も行われています。

  • 例:
    新奇性追求(NS)はドーパミンD4受容体遺伝子と関連し、
    報酬依存(RD)はノルアドレナリンと関連することが示唆されています​。
  • fMRIやPETスキャンを用いた研究では、
    各気質因子と脳の特定部位の活動パターンが関連していることが確認されています​。

3. 今後の課題と展望

  1. 文化差の検討:欧米と日本では「開放性」や「協調性」の概念に違いがあることが報告されており、
    異文化間比較研究が必要とされています。
  2. 生物学的根拠の強化:遺伝子研究や脳機能イメージング技術を活用し、
    気質因子と神経伝達物質の関連性をさらに検証する研究が進められています。
  3. 実践的応用の拡大:教育、職場、カウンセリング分野での活用を拡大し、
    より多くの現場での有用性を確認していく必要があります。

4. 結論

Cloningerの気質・性格モデルは、
精神疾患の診断、職業適性、教育、
スポーツ心理学など多くの分野で応用可能な強力なフレームワークです。

データ解析手法を用いることで、
性格の基盤にある生物学的要因と学習による発達要因を同時に分析できる点が特徴です。

つまり、気質が生物学的要因で、生きていく上での価値観や優先順位が定まっていると言えます。
また性格が発達要因、環境的要因に影響を受けるということ、変化するものとなります。

多くは自分の気質を認識できずに性格によるものと判断しますが、
性格は立場にも影響を受けます。そのため、
多くの場合は気質と性格を混同して違うということがよくあり、
合っている違っているということになっているとなっているのです。

この気質と性格がわかればパーソナライズに非常に役立つ、
色々な分野で活かせるということになるのです。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Cloninger, C. R., Svrakic, D. M., & Przybeck, T. R. (1993). 『A psychobiological model of temperament and character』, Archives of General Psychiatry, 50(12), 975-990. 2025年1月10日アクセス. https://doi.org/10.1001/archpsyc.1993.01820240059008

五十嵐大介・山田洋一 (2008). 『Cloninger の気質・性格モデルと Big Five モデルとの関連性』, パーソナリティ研究, 16(3), 123-134. 2025年1月10日アクセス. https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/16/3/16_3_324/_article/-char/ja/

Cloningerの気質・性格モデルと Big Fiveモデルとの関連性3へつづく