前回は気質と性格モデルのデータ解析の方法と、
応用分野についてお話を進めていきました。
これら2つのモデルは、
異なるアプローチでパーソナリティを説明していますが、
共通点と補完的な関係があることが多くの研究で示されています。
ここでは、気質と性格モデルの補完的関係性について詳しくみていきます。
Cloningerの気質・性格モデルと Big Fiveモデル
1. 両モデルの基本的な違い
Cloningerの気質・性格モデル
- アプローチ: トップダウンアプローチ(生物学的および神経科学的基盤に焦点)。
- 目的: 精神疾患や病理的行動の理解を重視。
- 構成:
- 気質 (Temperament): 遺伝的、神経生物学的に決定される要素。
- 性格 (Character): 環境や学習によって変化する要素。
Big Fiveモデル
- アプローチ: ボトムアップアプローチ(語彙アプローチや統計解析を基にしたデータ駆動型モデル)。
- 目的: 一般的なパーソナリティの記述と分類を重視。
- 構成:
- 外向性、神経症傾向、開放性、誠実性、調和性の5因子。
2. 両モデルの関連性に関する研究成果
(1) 相関分析の結果
Cloningerの気質・性格モデルとBig Fiveモデルの関連性を分析した結果、以下のような関係が確認されています:
Big Five因子 | Cloningerの関連因子 |
---|---|
外向性 | 新奇性追求 (NS; r = 0.31) – 新しい刺激を求める衝動性と外向性が正の相関を示す。報酬依存 (RD; r = 0.46) – 他者との関係構築志向と関連。損害回避 (HA; r = -0.43) – 内向性との関連を示唆。 |
神経症傾向 | 損害回避 (HA; r = 0.54) – 不安や抑うつに対する脆弱性との強い正の相関。自己志向 (SD; r = -0.39) – 自己統制力の欠如と負の相関。 |
開放性 | 新奇性追求 (NS; r = 0.30) – 新しい経験を好む傾向と正の相関。自己超越 (ST; r = 0.37) – 精神的探求心や創造性との関連。損害回避 (HA; r = -0.44) – 閉鎖的傾向と負の相関。 |
誠実性 | 固執 (PS; r = 0.47) – 粘り強さと誠実性が強く関連。新奇性追求 (NS; r = -0.51) – 衝動性と誠実性が負の相関を示す。 |
調和性 | 協調性 (C; r = 0.47) – 共感や対人関係のスキルと強く関連。報酬依存 (RD; r = 0.18) – 他者の評価を重視する傾向とも弱い関連を示す。 |
(2) 説明力の比較 – 階層的重回帰分析
- 目的: CloningerモデルがBig Fiveモデルの各因子をどの程度説明できるかを検討。
- 結果:
- 気質のみ(Step 1)では、Big Fiveモデルの説明率は比較的高いが、特定の因子では不足があった。
- 性格次元(Step 2)を加えると、外向性以外の説明率が有意に向上した。
- 例:誠実性の決定係数は41%→46%、調和性は14%→26%。
- 外向性は主に気質(遺伝的要素)によって説明され、その他の因子は性格(環境や学習要素)の影響を強く受ける。
3. 考察と心理学的観点
(1) 補完的な関係性
- Cloningerモデル: 神経生物学的基盤を持つ気質に焦点を当て、行動や感情の根源的な傾向を説明。
- Big Fiveモデル: 行動や認知のパターンを包括的に説明し、一般的な性格特徴を評価。
→ 両モデルは、生得的要素と経験による発達的要素を補完する関係にある。
(2) 応用への適用性
- 臨床心理学: Cloningerモデルは、精神疾患のリスク要因を理解し、治療計画の設計に有用。
- 産業心理学: Big Fiveモデルは職務適性や人材配置に適しており、リーダーシップやチームビルディングにも役立つ。
- 教育心理学: 性格の発達や学習パターンの理解に両モデルを統合することで、教育介入の質を向上できる。
(3) 遺伝と環境の相互作用の理解
- Cloningerモデルは気質を遺伝的要素として扱い、
性格を環境要素として見るため、遺伝と環境の相互作用を解析できる点が優れている。 - Big Fiveモデルは「結果としてのパーソナリティ」を測定するため、
発達プロセスよりも結果の評価に適している。
4. 今後の研究課題
- 文化差の影響:
日本と欧米では、協調性や開放性の概念に違いがあるため、国際的な比較研究が求められる。 - 生物学的根拠の強化:
fMRIや遺伝子研究を用いて、気質と脳の関係をさらに明らかにする必要がある。 - パーソナリティ発達の長期的研究:
性格因子が時間とともにどのように変化するかを追跡する縦断研究が求められる。
5. 結論
Cloningerの気質・性格モデルとBig Fiveモデルは、
それぞれ異なる視点からパーソナリティを説明するため、
補完的な関係にあることが示されています。
- Cloningerモデルは遺伝的・生物学的要素の説明に優れ、精神疾患や治療計画に応用しやすい。
- Big Fiveモデルは、一般的なパーソナリティの理解と実用的な評価に適している。
両モデルを統合的に活用することで、
個人のパーソナリティや行動特性をより深く理解できると考えられます。
個人のパーソナリティや特性が見える化できるとしたら、
あなたはどんなことに応用できると考えますか。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
Cloninger, C. R., Svrakic, D. M., & Przybeck, T. R. (1993). 『A psychobiological model of temperament and character』, Archives of General Psychiatry, 50(12), 975-990. 2025年1月10日アクセス. https://doi.org/10.1001/archpsyc.1993.01820240059008
五十嵐大介・山田洋一 (2008). 『Cloninger の気質・性格モデルと Big Five モデルとの関連性』, パーソナリティ研究, 16(3), 123-134. 2025年1月10日アクセス. https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/16/3/16_3_324/_article/-char/ja/
Cloningerの気質・性格モデルと Big Fiveモデルとの関連性4へつづく