個人事業主やギグワーカーの資産形成と管理

ここでは個人事業主(一人親方を含む)やギグワーカーの資産形成について考えていきます。

ライフプランで直面する主な課題

1. 収入の不安定さ

  • 仕事の受注状況に左右され、収入が安定しにくい。
  • 景気や業界の変化による収入の変動リスクがある。

2. 社会保険・年金の問題

  • 厚生年金ではなく国民年金のみの加入となるため、将来の年金受給額が少ない。
  • 会社員に比べて健康保険や労災保険の自己負担が大きい。
  • けがや病気による収入減少のリスクがある。

3. 税金・確定申告の負担

  • 確定申告を自分で行う必要があり、税務知識が必要。
  • 収入に応じた税金対策(青色申告や小規模企業共済など)を適切に行わないと負担が大きくなる。

4. 資産形成の難しさ

  • 会社員と違い、退職金制度がないため、自分で老後資金を準備する必要がある。
  • 投資や資産運用の知識が不足しがちで、運用の選択肢を十分に活用できていない。

5. 事業と個人の資産管理

  • 事業資金と個人資産を分けて管理するのが難しく、無計画な支出が発生しやすい。
  • 事業拡大や設備投資を考えたときに、資金繰りに困ることがある。

6. 住宅ローンや信用の問題

  • 収入が不安定なため、住宅ローンの審査が通りにくい。
  • 金融機関の信用を得るための方法(決算書の整備など)を知らないことがある。

7. 万が一の備え

  • 事故や病気で働けなくなった場合の生活資金の確保が難しい。
  • 生命保険や所得補償保険の適切な加入ができていないケースが多い。

8. 事業承継や引退後の計画

  • 事業をどう引き継ぐか、またはどう清算するかの準備が不足しがち。
  • 引退後の生活資金の計画が不十分で、老後に困るケースがある。

これらの課題を解決するために、
ファイナンシャルプランナーや税理士のサポートを受けながら、
計画的な資産形成とライフプランを考えることが重要です。

ギグワーカーとは?

ギグワーカー(Gig Worker) とは、
単発や短期の仕事(ギグ=Gig)を請け負う働き方をする人のことを指します。
フリーランスや個人事業主に近い形態ですが、特定の会社に雇用されるのではなく、
プラットフォームや企業と契約しながら柔軟に働くのが特徴です。

ギグワーカーの具体例

配車サービス(Uber、DiDi、Lyftなどのドライバー)
デリバリー配達員(Uber Eats、Wolt、出前館など)
クラウドソーシング(ライター、デザイナー、プログラマー)
家事代行・清掃サービス(タスカジ、カジーなど)
ハンドメイド販売(メルカリ、minneなどでの商品販売)
スポット派遣(タイミー、ショットワークスなどの短期バイト)

小規模企業共済とは?

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者・役員が、
将来のリタイアや廃業時の資金を準備するための退職金制度です。

中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営し、
掛金が全額所得控除になるなどの税制優遇があります。

1. 小規模企業共済の概要

項目内容
運営機関中小企業基盤整備機構(中小機構)
対象者個人事業主、小規模法人の役員など
掛金額月額1,000円~7万円(500円単位で変更可能)
掛金の特徴掛金は全額所得控除の対象
受け取り方一括・分割(年金形式)・併用が選択可能
受取時の税制退職所得控除・公的年金等控除の適用あり
中途解約可能だが、元本割れのリスクあり

2. 加入資格

以下の条件を満たす事業者・経営者が加入できます。

(1) 個人事業主

  • 常時使用する従業員が5人以下(商業・サービス業)
  • 常時使用する従業員が20人以下(製造業・建設業など)

(2) 法人の役員

  • 会社の役員(社長、取締役など)であり、従業員数が上記の基準以下であること

(3) フリーランス・一人親方

  • 業種によっては加入が可能(例えば、建設業の一人親方など)

3. 掛金の特徴

(1) 柔軟な掛金設定

  • 月額1,000円~7万円の範囲で500円単位で自由に設定
  • 事業の状況に応じて増額・減額が可能

(2) 掛金は全額所得控除

  • 掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得税・住民税の計算時に控除可能
  • 所得税を抑えることで、実質的な負担が軽減される

例:掛金3万円/月を支払う場合

  • 年間の掛金:36万円
  • 所得税率20%の場合 → 7.2万円の税負担軽減
  • 所得税率30%の場合 → 10.8万円の税負担軽減

4. 共済金の受け取り方

受け取り方法は3種類あり、それぞれ税制優遇があります。

受取方法税制優遇
一括受取退職所得控除(税負担が大幅に軽減)
分割受取公的年金等控除(年金扱い)
併用受取上記の併用可能

(1) 一括受取(退職金扱い)

  • 退職所得控除が適用されるため、税金が大幅に軽減
  • 控除額計算式:40万円 × 掛金納付年数(20年以上なら800万円)

例:20年間掛けた場合

  • 40万円 × 20年 = 800万円が非課税
  • 受取額が800万円以下なら税金ゼロ

(2) 分割受取(年金形式)

  • 「公的年金等控除」が適用され、年金収入として計算
  • 65歳以上なら控除額が大きくなる
  • デメリット:年金受給のタイミングにより課税される可能性あり

(3) 一括+分割の併用

  • ある程度の金額を一括で受け取り、残りを年金形式にする
  • 税制メリットを活かしながら、資金計画を立てやすい

5. 解約時の注意点(元本割れのリスク)

小規模企業共済は長期的な制度であるため、短期間で解約すると元本割れすることがあります。

(1) 掛金納付期間による解約返戻率

掛金納付期間解約返戻率
1年未満0%(掛け捨て)
1年以上15年未満元本割れの可能性大
15年以上元本を上回る可能性あり
  • 長期加入するほど有利だが、短期間での解約はリスクがある
  • 事業廃業・退職でなくても解約可能だが、その場合は「任意解約」扱いで返戻率が低くなる

6. 小規模企業共済とiDeCoの違い

項目小規模企業共済iDeCo(個人型確定拠出年金)
目的廃業・引退時の退職金老後資金
税制優遇(掛金)全額所得控除全額所得控除
受取時の税制退職所得控除・年金控除退職所得控除・年金控除
運用運用なし(積立)運用あり(投資信託など)
途中解約可能だが元本割れリスクあり原則60歳まで解約不可
加入対象個人事業主・小規模企業経営者ほぼ全ての個人
  • 小規模企業共済は事業者向けの退職金制度
  • iDeCoは老後資金のための年金制度
  • 両方の制度を活用することで、税制優遇を最大化できる

7. 小規模企業共済を活用すべき人

個人事業主・フリーランス・一人親方
小規模法人の役員で、退職金制度がない人
節税しながら退職金を準備したい人
長期的に積み立てられる人(15年以上が望ましい)
事業のリスクに備えたい人

一方で、短期間での解約を考えている場合は元本割れのリスクがあるため、
慎重に検討する必要があります。事業の資金計画を立てながら、
iDeCoや保険など他の資産形成手段と組み合わせて活用すると効果的です。

最後までご覧いただきありがとうございます。

個人事業主やギグワーカーの資産形成と管理2へつづく