禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性

第4回学生論文コンテスト JHPS AWARD の最優秀賞受賞論文です。
禁煙と肥満のメカニズムとビッグファイブ分析がどのように関連するのかを調査した論文から、
健康であるためのヒントについてお話を進めていきます。

禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析

概要

この論文では、「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」のデータを用いて、
禁煙と肥満(BMI)の関係について実証分析を行っています。
主な研究内容は以下のとおりです。

  1. 研究背景
    • 喫煙と肥満は生活習慣病のリスク要因であり、
      公的医療費負担増加や生産性低下につながる。
    • 近年の海外研究では、「禁煙者は肥満になりやすい」ことが指摘されているが、
      日本における実証研究は不足している。
  2. 研究目的
    • 日本において、禁煙と適正体重の間にトレードオフ関係が存在するかどうかを明らかにする
    • この関係が時間割引率(将来の利益より現在の利益を重視する度合い)や
      性格特性(ビッグファイブ)と関連しているかを検証
    • 禁煙が食生活の変化を通じて肥満につながるメカニズムを解明
  3. 分析手法
    • パネルデータ分析(固定効果モデル・変量効果モデル)を使用し、
      個人の異質性をコントロール。
    • 多項ロジットモデルを用いて、性格特性が禁煙や肥満に与える影響を分析。
  4. 主な分析結果
    • 禁煙者は非喫煙者や喫煙者よりも肥満度(BMI)が高い
    • 禁煙するとBMIが増加し、その影響は約1年間続く
    • 時間割引率の高さや外向性の高さ、勤勉性の低さが、禁煙と肥満の両方に影響を与える
    • 禁煙後、食欲や飲酒欲が高まり、食生活の変化を通じて肥満リスクが増大する
  5. 政策的インプリケーション
    • 禁煙推進政策には、禁煙後の肥満防止対策も組み込むべき
    • 個々人の性格特性に応じた禁煙後の健康管理指導が必要
    • 禁煙プログラムの中で、食事や運動の指導を強化することが重要

基本統計量

データの分布や基本的な特徴を示す統計情報をまとめたものです。

1. 表1の概要

表1は、日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)の2009年~2020年のデータを対象に、
20歳~65歳の男女について、主要な変数の統計量を示しています。

この表に含まれるのは、主に以下の情報です:

  • 喫煙に関する変数
  • 肥満(BMI)に関する変数
  • 時間割引率
  • 性格特性(ビッグファイブ)
  • 飲食に関する変数
  • 個人属性(性別・年齢・学歴など)

2. 各変数の説明

表1に掲載されている変数と、それぞれが何を意味するのかを解説します。


(1) 喫煙状態に関する変数

  • 非喫煙者ダミー(0/1)
    • 以前からタバコを吸っていない人を1、それ以外を0とする。
    • この値が高いほど、サンプル内に非喫煙者が多いことを示す。
  • 喫煙者ダミー(0/1)
    • 現在タバコを吸っている人を1、それ以外を0とする。
    • この値が高いほど、喫煙者が多いことを示す。
  • 禁煙者ダミー(0/1)
    • 過去に喫煙経験があるが、現在は禁煙している人を1、それ以外を0とする。
    • この値が高いほど、禁煙者が多いことを示す。

ポイント
全体の約半数が喫煙経験を持つ(喫煙者+禁煙者)
厚生労働省の統計(成人喫煙率27.1%)と比較してバイアスがない


(2) 肥満(BMI)に関する変数

  • BMI(Body Mass Index)
    • 「体重(kg) ÷ 身長(m)²」で算出される。
    • 平均値が22.71(標準的な体重範囲に多いことを示唆)。
  • 低体重ダミー(0/1)
    • BMIが18.5未満の人を1、それ以外を0とする。
  • 普通体重ダミー(0/1)
    • BMIが18.5以上25未満の人を1、それ以外を0とする。
  • 肥満ダミー(0/1)
    • BMIが25以上の人を1、それ以外を0とする。

ポイント
肥満者の割合は男性33.0%、女性22.3%で、日本の統計と整合的


(3) 時間割引率

  • 時間割引率
    • 将来の利益より現在の利益をどれだけ重視するかを示す指標。
    • 「1ヶ月後に1万円もらう vs. 13ヶ月後にいくらなら受け取るか」の質問を基に算出。
    • 数値が高いほど、短期的な欲求を優先する(喫煙や過食の傾向が強まる可能性)。

ポイント
時間割引率が高い人ほど喫煙しやすく、禁煙後に肥満リスクが高まる傾向


(4) 性格特性(ビッグファイブ)

  • 外向性
    • 社交的で積極的な性格。
    • 数値が高いほど、人との交流が多い。
  • 協調性
    • 他人との関係を重視し、対人関係に配慮する度合い。
  • 勤勉性
    • 計画性があり、自己管理が得意な性格。
    • 数値が低いと、喫煙や肥満になりやすい傾向。
  • 神経症的傾向
    • 不安やストレスを感じやすい度合い。
  • 開放性
    • 新しい経験を好む傾向。

ポイント
勤勉性が低いと喫煙・肥満リスクが高まる
外向性が高い人も肥満リスクが高い(社交的な場での飲食が影響)


(5) 飲食に関する変数

  • 食費
    • 世帯全体の1ヶ月あたりの食費支出(平均61,360円)。
  • 間食頻度
    • 菓子パンやお菓子を食べる頻度(0~6の7段階)。
  • 飲酒頻度
    • 月に数回・週1-2回・週3回以上・毎日飲酒の5段階。

ポイント
禁煙者は食費・間食頻度・飲酒頻度が増加し、BMIが高くなる傾向


(6) 個人属性

  • 性別
    • 男性ダミー(男性=1、女性=0)。
  • 年齢層
    • 20代~60代の各年齢層ごとにダミー変数を作成。
  • 学歴
    • 高卒、大卒、大学院卒のダミー変数。
  • 家族構成
    • 配偶者ダミー(配偶者がいる=1)。
    • 子どもダミー(子どもがいる=1)。
    • 未就学児ダミー(未就学児がいる=1)。
  • 家計所得
    • 世帯収入(前年の所得)。

ポイント
学歴が高いほどBMIが低い(知識・健康意識の影響)
配偶者がいるとBMIが高くなる傾向


3. 表1の意義

表1は、サンプルの代表性やデータの妥当性を確認するための基礎資料です。特に以下の点が重要:

  1. データのバイアスがないか確認
    • 喫煙率・肥満率など、日本の公的統計と整合性がある。
  2. 変数の基本的な傾向を把握
    • 喫煙者と禁煙者の違い。
    • 肥満リスクに関わる性格特性。
  3. 統計分析の前提条件を整理
    • モデルで用いる変数の範囲と分布を把握。

まとめ

  • 表1は、研究対象の基本的な統計情報をまとめたもの
  • 喫煙状態・肥満・時間割引率・性格特性・飲食習慣・個人属性のデータを整理
  • 禁煙後に肥満リスクが高まる要因(時間割引率・食生活・性格特性)を分析するための基礎データ

この表をもとに、禁煙が肥満につながるメカニズム性格特性が影響する要因が分析されています。

参考資料

慶應義塾大学パネルデータ研究センター (2023). 『禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性-「日本家計パネル調査」を用いた禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析-』, 2025年2月5日アクセス. https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/DP2022-009_jp.pdf

禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性2へつづく