
前回は基本統計量のデータについて解説を進めました。
ここでは禁煙と肥満の関係についてお話を進めていきます。
喫煙状態とBMI の関係

上記は禁煙と肥満のデータの水準とその後の変化についてのデータです。
図1:喫煙状態とBMIの関係(水準)
グラフの概要
- このグラフは、「非喫煙者」「喫煙者」「禁煙者」の3つのグループごとのBMIの平均値を示しています。
- 縦軸(Y軸):BMI(肥満度を示す指標)
- 横軸(X軸):喫煙状態(非喫煙者、喫煙者、禁煙者の3つ)
グラフの見方
- 非喫煙者(喫煙経験なし) → BMIが最も低い
- 喫煙者(現在も喫煙している) → BMIがやや高い
- 禁煙者(過去に喫煙していたが禁煙した) → BMIが最も高い
▶ ポイント
- 禁煙者ほどBMIが高いことがわかる。
- つまり、禁煙することで体重が増加する可能性があることを示唆している。
- 喫煙は食欲を抑える作用があるため、禁煙すると食欲が増して食事量が増えることが要因の一つと考えられる。
図2:喫煙状態とBMIの関係(変化)
グラフの概要
- このグラフは、**前年と当年で喫煙状態が変化した人のBMIの変化(差分)**を示しています。
- 縦軸(Y軸):BMIの前年から当年の変化量(BMIの増減)
- 横軸(X軸):前年と当年の喫煙状態
- 前年も当年も喫煙していない人(非喫煙者)
- 前年も当年も喫煙している人(継続喫煙者)
- 前年に喫煙していなかったが、当年に喫煙を始めた人
- 前年に喫煙していたが、当年に禁煙した人
グラフの見方
- 非喫煙者や継続喫煙者のBMIはほぼ変化しない。
- 禁煙した人のBMIは大幅に増加。
- 新たに喫煙を始めた人のBMIは減少傾向。
▶ ポイント
- 禁煙した人は、BMIが増加する傾向が顕著。
- 禁煙すると体重が増える可能性があることがデータで確認できる。
- 喫煙を開始するとBMIが減少する傾向がある。
- これは、喫煙による食欲抑制効果や代謝の変化によるものと考えられる。
図1・図2から分かる重要なポイント
- 禁煙するとBMIが上昇する傾向がある(図1・図2ともに確認できる)。
- 禁煙後の体重増加は1年程度続く(他の統計分析結果とも整合的)。
- 新たに喫煙を始めるとBMIが減る可能性がある(図2から確認)。
- 継続して喫煙している場合、BMIの大きな変化は見られない。
政策的な示唆
- 禁煙を推奨する際には、禁煙後の体重増加を防ぐ対策(食生活や運動習慣の指導)が必要。
- 禁煙と肥満の関係を考慮した健康政策が求められる。
- 特に、肥満リスクの高い人(時間割引率が高い人、外向性が高い人)は、禁煙後の体重管理に注意する必要がある。
まとめ
図1(喫煙状態とBMI)
- 喫煙状態別にBMIの水準を比較。
- 禁煙者のBMIが最も高い(禁煙による体重増加)。
図2(喫煙状態とBMIの変化)
- 喫煙状態が変化した人のBMIの変化を示す。
- 禁煙した人のBMIは増加し、喫煙を始めた人のBMIは減少。
この2つの図は、「禁煙と肥満にはトレードオフの関係がある」ことをデータで示しており、
禁煙政策を進める上での課題を明らかにしています。
禁煙と肥満のトレードオフの具体的な要因
論文の結果をもとに、禁煙によって肥満が増加する要因を整理すると、
主に以下の5つが考えられます。
1. ニコチンの食欲抑制効果の喪失
要因の説明
- ニコチンには食欲を抑制する効果がある。
- 喫煙者は、タバコを吸うことで食事の摂取量が減る傾向がある。
- 禁煙すると、食欲が回復して食事量が増加し、カロリー摂取量が増える。
データからの裏付け
- 禁煙後の食費や間食頻度が増加する傾向が見られる。
- 特に、高カロリーの食品を摂取する傾向が強まる。
▶ 結論
禁煙すると食欲が増し、カロリー摂取量が増えて肥満につながる。
2. 代謝の低下
要因の説明
- ニコチンは基礎代謝を上げる作用がある。
- 喫煙していると、安静時のエネルギー消費量(基礎代謝)が高くなる。
- 禁煙すると、基礎代謝が低下し、消費カロリーが減る。
データからの裏付け
- 禁煙後にBMIが1年間ほど増加するというデータがある。
- 運動習慣に変化がないにもかかわらず、体重が増加する。
▶ 結論
禁煙によって基礎代謝が低下し、消費カロリーが減ることで肥満になりやすくなる。
3. 禁煙後の代償行動(食事や飲酒)
要因の説明
- 禁煙後、喫煙の代わりに他の行動(間食・飲酒)が増える。
- タバコを吸えないストレスから、食事や間食で満足感を得ようとする。
- 飲酒量も増加し、アルコールによるカロリー摂取が増える。
データからの裏付け
- 禁煙者は、間食の頻度が高い。
- 飲酒頻度が増える傾向もあり、アルコール摂取が体重増加につながる可能性。
▶ 結論
禁煙によるストレス解消のために、食事や飲酒が増え、結果として肥満になりやすくなる。
4. 性格特性の影響
要因の説明
- 時間割引率が高い人ほど、禁煙後に肥満リスクが高い。
- 短期的な満足を求める性格の人は、禁煙後に食べ物で欲求を満たしやすい。
- 外向性が高い人も肥満リスクが高い。
- 社交的な人ほど、食事や飲酒の機会が多く、体重増加につながる。
データからの裏付け
- 時間割引率が高い人ほど、喫煙・禁煙後の体重増加傾向が強い。
- 外向性が高い人ほどBMIが高い傾向。
▶ 結論
時間割引率や性格特性が禁煙後の体重増加に影響を与えている。
5. 禁煙による味覚の変化
要因の説明
- 喫煙は味覚や嗅覚を鈍らせる効果がある。
- 禁煙すると味覚が回復し、食事の味をより強く感じるようになる。
- その結果、食事をより美味しく感じ、食べる量が増える。
データからの裏付け
- 禁煙後に食事の量が増え、特に間食が増える傾向がある。
- 間食の種類(甘いもの・スナックなど)が増える可能性が指摘されている。
▶ 結論
禁煙後、味覚が回復することで食欲が増し、肥満になりやすくなる。
まとめ
禁煙と肥満のトレードオフの要因は、以下の5つに分類できる:
要因 | 影響 | データでの裏付け |
---|---|---|
① ニコチンの食欲抑制効果の喪失 | 食欲が増し、カロリー摂取が増加 | 禁煙後の食費・間食頻度の増加 |
② 代謝の低下 | 消費カロリーが減り、体重が増える | 禁煙後のBMIの増加(1年間持続) |
③ 禁煙後の代償行動(食事・飲酒) | 食欲や飲酒欲が高まり、肥満につながる | 禁煙者の間食頻度・飲酒量の増加 |
④ 性格特性の影響 | 短期的な欲求を満たそうとする | 時間割引率・外向性が高い人のBMI増加 |
⑤ 味覚の変化 | 食べ物の味を強く感じ、食事量が増える | 禁煙後の食事の満足度の向上 |
政策的示唆(対策)
禁煙後の肥満を防ぐためには、以下の対策が必要:
- 禁煙プログラムに体重管理対策を組み込む
- 禁煙支援と同時に、適切な食生活と運動習慣の指導を行う。
- 禁煙後の食事・飲酒のコントロール
- 低カロリー食品の推奨、禁煙中の食事管理サポート。
- アルコール摂取量の管理も重要。
- 個々の性格特性に応じた対策
- 時間割引率が高い人向けの禁煙後の行動指導。
- 外向的な人への社交的な食事の管理策の提案。
- 禁煙者向けの健康的な間食の推奨
- 食事のバランスを見直し、間食を低カロリーにする。
- ナッツ・ヨーグルト・野菜スティックなど健康的な間食を促す。
結論
禁煙と肥満には明確なトレードオフがあり、その背景には 生理的・心理的・行動的要因 が絡んでいます。
特に、食欲の変化・代謝の低下・代償行動・性格特性・味覚の変化が大きな影響を与えています。
この研究結果を踏まえ、禁煙支援と肥満防止をセットで考える健康政策が求められます。
禁煙するメリットと肥満のデメリットをトレードオフしてしまう内容です。
次回は禁煙することについて考えていきたいと思います。
禁煙することのメリット・デメリットからいうと、
タバコ代は減らせるということはあります。
私は禁煙したので、そこに使っていたお金を自分への投資へ回すことができました。
特に味覚は変化したように感じます。
喫煙していた時よりも、禁煙した方が味覚は敏感になっています。
唎酒師の資格を持っており、利酒をするときには非常に役に立ちました。
体重については食べてしまいますので、トレードオフになるというのはその通りかと思います。
ただそれ以上に禁煙した方が色々振り返って考えると、やめてよかったと思っています。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
慶應義塾大学パネルデータ研究センター (2023). 『禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性-「日本家計パネル調査」を用いた禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析-』, 2025年2月5日アクセス. https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/DP2022-009_jp.pdf
禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性3へつづく