
前回は論文の表3から時間割引率別の喫煙状態とBMIのデータから、
内容についてお話を進めてきました。
今回は前回の続きとなる、喫煙と肥満と飲食の関係についてお話を進めていきます。
喫煙と肥満の関係

図4「性格ビッグファイブ別の喫煙状態とBMIの分布」
1. グラフの目的
このグラフは、性格特性(ビッグファイブ)によって、
喫煙状態とBMIの関係がどのように変化するかを示したものです。
- 性格によって、禁煙や喫煙後の体重増加に違いがあるのか?
- 外向性・勤勉性・開放性などの性格特性が、BMIに影響を与えているのか?
このような疑問をデータで可視化したグラフになります。
2. グラフの構成
- 縦軸(Y軸):BMI(肥満度)
- 横軸(X軸):喫煙状態
- 非喫煙者(喫煙経験なし)
- 喫煙者(現在も喫煙している)
- 禁煙者(過去に喫煙していたが禁煙した)
- データの分類(色分け):性格ビッグファイブ
- 外向性(Extraversion)
- 協調性(Agreeableness)
- 勤勉性(Conscientiousness)
- 神経症傾向(Neuroticism)
- 開放性(Openness)
グラフでは、同じ喫煙状態でも、性格特性が異なるとBMIがどのように変化するのかを比較しています。
3. グラフの読み方
- 性格特性が強い人(ビッグファイブの上位20%)のBMIの変化を比較
- 非喫煙者・喫煙者・禁煙者の違いを、性格特性ごとに分析
(1) 外向性が高い人のBMI
- 外向性が高い人ほどBMIが高い傾向。
- 特に禁煙者ではBMIが最も高くなる。
▶ 解釈
- 外向的な人は社交的な場面での飲食が多くなり、食事量が増える可能性がある。
- 禁煙後の代償行動として、食べる量が増える可能性が高い。
(2) 勤勉性が高い人のBMI
- 勤勉性が高い人ほどBMIが低い。
- 特に禁煙者のBMI増加が抑えられている。
▶ 解釈
- 勤勉な人は健康管理を意識しやすく、禁煙後も食生活をコントロールできる。
- 禁煙後に体重が増加しにくいグループといえる。
(3) 開放性が高い人のBMI
- 開放性が高い人もBMIが高い傾向がある。
- 特に禁煙者でBMIが上昇しやすい。
▶ 解釈
- 新しい経験を好むため、食事のバリエーションが広がり、禁煙後に食べる量が増えやすい可能性。
(4) 神経症傾向が高い人のBMI
- 神経症傾向が高い人はBMIが低め。
- ストレスを感じやすいため、食事の量が減る可能性。
▶ 解釈
- 喫煙や禁煙後のストレスで食欲が抑えられる可能性がある。
(5) 協調性が高い人のBMI
- 協調性が高い人は、比較的BMIの変化が少ない。
- 喫煙状態によるBMIの影響が小さいグループ。
▶ 解釈
- 周囲の影響を受けやすいため、喫煙・禁煙による体重変化が他の性格ほど大きくない可能性。
4. グラフから導き出せる結論
- 外向性や開放性が高い人は、禁煙後にBMIが増加しやすい
- 社交的な活動や食事の楽しみが増えるため、禁煙後に体重が増加しやすい。
- 勤勉性が高い人は、禁煙してもBMIが増えにくい
- 健康管理が得意なため、食事や運動を意識できる。
- 神経症傾向が高い人はBMIが低め
- ストレスが影響して食欲が減る傾向がある。
- 協調性が高い人は、喫煙状態によるBMIの変化が少ない
- 周囲の環境に合わせる傾向があるため、大きな影響が出にくい。
5. 政策的な示唆
(1) 禁煙後の体重管理を性格に応じてカスタマイズ
- 外向性・開放性が高い人には、禁煙後の「食べ過ぎ対策」が必要。
- 代替行動(運動・低カロリー間食)を推奨。
- 勤勉性が高い人は、禁煙後も自己管理ができるため、特別な対策は不要。
- 神経症傾向が高い人は、ストレス管理を重視。
- 禁煙によるストレスで食事量が減らないよう注意。
(2) 禁煙プログラムに「性格診断」を組み込む
- ビッグファイブのスコアに応じた体重管理アドバイスを提供することで、禁煙後の体重増加を抑制できる可能性。
6. まとめ
性格特性 | 喫煙状態とBMIの関係 | 対策 |
---|---|---|
外向性 | 高い人ほど禁煙後にBMIが増加 | 社交的な食事管理・運動推奨 |
勤勉性 | 高い人ほどBMIが低い | 特別な対策不要 |
開放性 | 高い人ほどBMIが高め | 食事のコントロール推奨 |
神経症傾向 | 高い人ほどBMIが低め | ストレス管理が重要 |
協調性 | 喫煙状態によるBMIの変化が少ない | 特別な対策不要 |
結論
このグラフは、「性格特性によって、喫煙と肥満の関係が異なる」ことを示しています。
特に、外向性・開放性の高い人は禁煙後に体重が増加しやすいため、禁煙支援と体重管理をセットで行うことが重要です。
この結果を活用することで、個々の性格に応じた禁煙支援プログラムを設計できる可能性があります。
表3「性格特性が喫煙・肥満に与える影響の推計結果」
1. 目的
この表は、性格特性(ビッグファイブ)や時間割引率が、
喫煙状態や肥満(BMI)にどのような影響を与えるかを統計モデルを使って分析した結果を示しています。
- 性格によって、喫煙しやすい人・禁煙しやすい人は異なるのか?
- 性格特性が高いと肥満リスクはどう変化するのか?
- 時間割引率(目先の満足を優先する傾向)は、喫煙や肥満にどのように影響するのか?
これらの疑問を、多項ロジットモデル(Multinomial Logit Model)と変量効果モデル(Random Effects Model)を用いて検証しています。
2. 使用されている統計モデル
(1) 多項ロジットモデル(Multinomial Logit Model)
- 喫煙状態(非喫煙者・喫煙者・禁煙者)、または肥満状態(低体重・普通体重・肥満)をカテゴリとして分析する。
- 基準(非喫煙者 or 低体重)と比較して、各変数が喫煙や肥満の確率をどれだけ変化させるかを推計。
▶ 何がわかる?
→ 性格特性(ビッグファイブ)や時間割引率が、喫煙・禁煙・肥満の確率にどのような影響を与えるかが明らかになる。
(2) 変量効果モデル(Random Effects Model, RE)
- 個人ごとに異なる影響を考慮し、BMIとの関連を推計。
- 喫煙者・禁煙者・非喫煙者の間で、性格特性がBMIにどのように影響するかを比較する。
▶ 何がわかる?
→ 性格によって、肥満になりやすい喫煙・禁煙グループがあるのかがわかる。
3. 主な結果
表3では、時間割引率と性格ビッグファイブ(外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性)が、
喫煙状態や肥満状態にどのように影響するかを推定しています。
(1) 喫煙者になりやすい性格
- 外向性が高い → 喫煙者・禁煙者になる確率が高い(正の有意な係数)
- 協調性が高い → 喫煙者・禁煙者になる確率が高い(正の有意な係数)
- 勤勉性が低い → 喫煙者・禁煙者になる確率が高い(負の有意な係数)
- 時間割引率が高い(目先の利益を優先) → 喫煙しやすい(正の有意な係数)
▶ 解釈
- 外向的で協調性がある人ほど、喫煙しやすい(社交的な場での喫煙習慣が影響)。
- 勤勉性が低いと、衝動的に喫煙しやすくなる。
- 時間割引率が高い人は、将来の健康より目先の快楽を優先し、喫煙する傾向が強い。
(2) 禁煙者になりやすい性格
- 時間割引率が高い → 禁煙者になる確率が高い(正の有意な係数)
- 外向性が高い → 禁煙者になる確率が高い
- 勤勉性が高い → 禁煙者になる確率が高い
- 神経症傾向が高い → 禁煙者になる確率が高い
▶ 解釈
- 時間割引率が高い人は、喫煙もするが、禁煙する可能性も高い(衝動的に行動するため、喫煙も禁煙も試みる)。
- 外向性・勤勉性の低さが、喫煙・禁煙のどちらにも影響。
(3) 肥満になりやすい性格
- 時間割引率が高い → 肥満になる確率が高い
- 外向性が高い → 肥満になる確率が高い
- 勤勉性が低い → 肥満になる確率が高い
- 開放性が高い → 肥満になる確率が高い
▶ 解釈
- 時間割引率が高い人は、目先の満足を優先し、肥満リスクが高い。
- 外向性が高い人は、社交的な食事が多く、体重が増えやすい。
- 勤勉性が低い人は、生活習慣が乱れやすく、肥満になりやすい。
- 開放性が高い人は、新しい食品を試す傾向が強く、食習慣が変わりやすい。
(4) 喫煙者・禁煙者ごとのBMIの違い
- 非喫煙者よりも、禁煙者のBMIが高くなる傾向(変量効果モデル)
- 外向性が高いと、禁煙後のBMIが特に増加
- 勤勉性が低いと、禁煙後にBMIが増加しやすい
▶ 解釈
- 外向性が高い人は、禁煙後に食事量が増えやすく、BMIが上がる。
- 勤勉性が低い人は、食事管理が難しく、禁煙後に体重が増加する。
4. 結論
- 外向性・協調性が高い人ほど、喫煙しやすい
- 社交的な環境での喫煙が影響。
- 時間割引率が高い人ほど、喫煙もしやすいが、禁煙もしやすい
- 衝動的な行動が影響している。
- 外向性・勤勉性の低さ・時間割引率の高さは、肥満になりやすい
- 社交的な場での食事や、短期的な快楽を優先することで体重が増えやすい。
- 禁煙すると、外向性や勤勉性の低い人ほどBMIが増加しやすい
- 禁煙後の食欲増加や、代償行動が影響している。
5. 政策的示唆
- 喫煙・禁煙・肥満リスクを考慮した、性格に応じた健康プログラムが必要。
- 外向性が高い人には、禁煙後の食生活管理を重視。
- 勤勉性が低い人には、禁煙後の運動習慣の確立を支援。
- 時間割引率が高い人には、行動コントロールの指導が必要。
6. まとめ
要素 | 影響 | 対策 |
---|---|---|
外向性 | 喫煙しやすく、禁煙後にBMIが増加 | 食事管理・運動推奨 |
勤勉性が低い | 喫煙・肥満になりやすい | 生活習慣改善 |
時間割引率が高い | 喫煙しやすいが禁煙もしやすい | 衝動的行動の管理 |
この結果を活かし、個々の性格に合わせた禁煙支援・肥満防止策が求められます。
禁煙とビッグファイブを関連させて、
どのように施策を打つのかを理解していただける内容です。
いかがでしたでしょうか。禁煙のメリットはあります。
私は禁煙を成功させて、12年経ちました。
やめてからは良かったことをひとつ挙げると、
イライラはしなくなったというのがあります。
喫煙していた時は、すぐにイライラしていたように記憶しています。
口に何かないと焦りというか、
何かが欠けていると潜在意識の中で感じていたからかもしれません。
性格分析を組み合わせて喫煙時と禁煙時の傾向を知ることで、
禁煙への対策を講じやすくなるのです。
私の場合は禁煙だきたことについては、ビッグファイブ分析の観点からみると、
勤勉性(誠実性)が高いんだろうと、実際に高い方です。
私は開放性が高いので肥満になりやすい、実際には勤勉性より開放性が高いが、
若干は抑えられる傾向があると考える。
実際に太ると運動を取り入れ太りすぎないように行動するからです。
データは正しいものだと言えます。
データを使って判断することの大切さというのを改めて感じた内容です。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
慶應義塾大学パネルデータ研究センター (2023). 『禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性-「日本家計パネル調査」を用いた禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析-』, 2025年2月5日アクセス. https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/DP2022-009_jp.pdf
禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性5へつづく