
前回は禁煙と肥満と飲食との関係とビッグファイブを関連させたお話を進めました。
ここでは、禁煙と食事量の関係と喫煙と食生活についてお話を進めていきます。
禁煙と食事

表4「禁煙と支出食料費・間食頻度・飲酒頻度の関係」
1. 目的
この表は、禁煙が食生活(支出食料費・間食頻度・飲酒頻度)に与える影響を統計的に分析したものです。
特に以下の関係を検証しています:
- 禁煙すると食費は増加するのか?
- 禁煙後に間食の頻度は増えるのか?
- 禁煙後に飲酒頻度は変化するのか?
- ビッグファイブの性格特性は、禁煙後の行動変化に影響を与えるのか?
2. 使用されている統計モデル
表4では、以下の回帰分析手法を使用している可能性があります:
- 固定効果モデル(Fixed Effects Model, FE):
- 個人の時間不変の特性(遺伝や育ちなど)をコントロールし、禁煙が食習慣に与える影響を分析。
- 変量効果モデル(Random Effects Model, RE):
- 個人間の違いを考慮しながら、禁煙が食習慣に与える影響を推計。
3. 表4の主な結果
(1) 禁煙と食費の関係
- 禁煙すると食費が増加する傾向がある(正の係数・有意)。
- 食費増加の理由:
- 喫煙による食欲抑制がなくなり、食事量が増加。
- 禁煙後のストレス緩和として食べる行動が増える。
- 味覚が回復し、食事の満足度が向上することで食事量が増加。
▶ 解釈 → 禁煙後、食費が増えるため、禁煙支援では食生活の管理が重要。
(2) 禁煙と間食頻度の関係
- 禁煙後、間食の頻度が増える傾向がある(正の係数・有意)。
- 理由:
- 喫煙の代替行動として間食を取る傾向が強まる。
- 口寂しさを埋めるために、甘いものやスナックを摂取する人が増える。
▶ 解釈 → 禁煙後、間食の頻度が増えるため、健康的な代替行動(ガム・ナッツ・低カロリー食品)を推奨すべき。
(3) 禁煙と飲酒頻度の関係
- 禁煙後、飲酒頻度が増える傾向がある(正の係数・有意)。
- 理由:
- 喫煙の代償行動として、飲酒を選ぶ人がいる。
- 飲酒時に喫煙したくなるため、逆に禁煙が難しくなる可能性。
▶ 解釈 → 禁煙者向けの支援では、飲酒のコントロールも考慮すべき。
4. ビッグファイブの性格特性との関連
表4では、ビッグファイブ(性格特性)が禁煙後の食習慣・飲酒習慣にどのような影響を与えるかを検証しています。
性格特性 | 禁煙後の影響(推測) |
---|---|
外向性(Extraversion) | 食費・間食・飲酒すべて増加しやすい。社交的な場での食事や飲酒が増える傾向。 |
協調性(Agreeableness) | 食費や間食は増えるが、飲酒はあまり増えない可能性。 |
勤勉性(Conscientiousness) | 禁煙後も食生活のコントロールがしやすい。間食・飲酒はあまり増えない。 |
神経症傾向(Neuroticism) | ストレスによる食欲増加が起こりやすい。間食頻度が増加しやすい。 |
開放性(Openness) | 食費の増加が顕著。新しい食品や飲食体験を試す傾向が強い。 |
▶ 解釈
- 外向性が高い人は、禁煙後に食費・間食・飲酒が増えやすい。
- 勤勉性が高い人は、禁煙後も食生活をコントロールしやすい。
- 神経症傾向が高い人は、ストレス対策が重要。
5. 政策的示唆
(1) 禁煙支援と食生活の管理をセットで実施
- 禁煙後の食費・間食の増加に対応するため、栄養指導を組み込むべき。
- 特に外向性が高い人は、禁煙後の食生活の変化が大きいため、サポートが必要。
(2) 禁煙と飲酒習慣の管理
- 禁煙後に飲酒頻度が増える人には、飲酒習慣の見直しを促す必要がある。
- 外向性が高い人は社交的な飲酒が増えやすいため、注意喚起が重要。
(3) 性格に応じた禁煙後のフォローアップ
- 外向性が高い人:飲酒や食事の管理を重点的に指導。
- 勤勉性が高い人:特別な対策は不要だが、運動習慣を推奨。
- 神経症傾向が高い人:ストレス管理と食生活のコントロールが必要。
6. まとめ
要素 | 影響 | 対策 |
---|---|---|
禁煙 → 食費増加 | 禁煙後に食欲が増え、食費が増加 | 栄養指導・食事管理 |
禁煙 → 間食頻度増加 | 禁煙後の代償行動として間食が増える | 低カロリー食品の推奨 |
禁煙 → 飲酒頻度増加 | 喫煙の代わりに飲酒が増える傾向 | 飲酒コントロール |
外向性が高い人 | 食費・間食・飲酒が特に増加 | 社交的な場での健康管理 |
勤勉性が高い人 | 食生活を自己管理できる | 特別な対策不要 |
神経症傾向が高い人 | ストレスから間食が増える | ストレス管理指導 |
7. 結論
- 禁煙後に食費・間食・飲酒が増加する傾向があるため、禁煙支援と食生活指導をセットで行うべき。
- ビッグファイブの性格特性によって、禁煙後の行動変化が異なるため、個別の対応が重要。
- 特に外向性が高い人は、社交的な場での飲食管理が必要。
- 神経症傾向が高い人には、ストレス対策が必要。
このように、禁煙後の生活習慣変化を考慮した総合的なサポートが求められることが、
表4のデータから読み取れます。
図表5 喫煙状態と食生活の関係

1. グラフの目的
このグラフは、喫煙状態(非喫煙者・喫煙者・禁煙者)によって、
食生活(食費・間食頻度・飲酒頻度)がどのように異なるかを示しています。
2. グラフの構成
- 縦軸(Y軸):食生活の指標
- 月間食費(円)
- 間食の頻度(0~6段階)
- 飲酒の頻度(0~6段階)
- 横軸(X軸):喫煙状態
- 非喫煙者
- 喫煙者
- 禁煙者
3. グラフの読み方
- 禁煙者の食費・間食頻度・飲酒頻度が最も高い
- 喫煙者の食費・間食頻度は低いが、飲酒頻度は比較的高め
- 非喫煙者は、全体的にバランスが取れている
▶ ポイント
- 禁煙後、食生活が変化しやすい
- 間食が増えることで食費が増加
- 喫煙習慣の代償行動として、食べる頻度が増える
- 特に甘いものを好む傾向がある
- 喫煙者は、間食は少ないが飲酒が多い
- タバコの影響で食欲が抑えられるため、食費が抑えられる傾向
- しかし、喫煙者は飲酒の頻度が高い
- 喫煙と飲酒は関連が深く、飲酒時のタバコの需要が高い可能性
4. 結論
- 禁煙後の体重増加の要因の一つは食生活の変化
- 禁煙者の食費・間食が増えるため、禁煙支援とセットで食生活の管理が必要
- 喫煙者の飲酒頻度が高いため、禁煙プログラムでは飲酒習慣の見直しも重要
図表6 喫煙と精神的健康(ストレス・うつ傾向)の関係

1. グラフの目的
このグラフは、喫煙状態と精神的健康(ストレス・うつ傾向)がどのように関連しているかを示しています。
2. グラフの構成
- 縦軸(Y軸):精神的健康の指標
- ストレスレベル(高いほどストレスが多い)
- うつ傾向のスコア
- 横軸(X軸):喫煙状態
- 非喫煙者
- 喫煙者
- 禁煙者
3. グラフの読み方
- 喫煙者のストレスレベルが最も高い
- 禁煙者のストレスレベルも高いが、喫煙者よりやや低い
- 非喫煙者は最もストレスレベルが低い
- うつ傾向スコアも、喫煙者・禁煙者が高め
▶ ポイント
- 喫煙者はストレスを感じやすい
- ニコチン依存の影響で、一時的にストレスが軽減されるが、
禁煙時にストレスが増加 - 喫煙はストレス対処法として用いられている可能性
- ニコチン依存の影響で、一時的にストレスが軽減されるが、
- 禁煙後もストレスが高い
- 禁煙すると、ニコチン切れによる離脱症状が生じ、ストレスが増加
- しかし、長期的にはストレスは低減する傾向がある(禁煙後1~2年でストレスレベルが安定)
- 非喫煙者は最もストレスが低い
- タバコを吸わない生活を送っている人は、精神的健康が比較的良好
4. 結論
- 喫煙とストレスには相関関係がある
- 禁煙時にストレスを感じやすいので、ストレス管理のサポートが重要
- 禁煙後の精神的健康を向上させるために、運動・リラクゼーションの推奨が有効
図表7:喫煙と身体活動(運動習慣)の関係

1. グラフの目的
このグラフは、喫煙状態による運動習慣の違いを分析したもの。
2. グラフの構成
- 縦軸(Y軸):運動習慣(運動頻度・時間など)
- 横軸(X軸):喫煙状態
- 非喫煙者
- 喫煙者
- 禁煙者
3. グラフの読み方
- 非喫煙者の運動習慣が最も高い
- 喫煙者の運動習慣が最も低い
- 禁煙者の運動習慣は中間
▶ ポイント
- 喫煙者は運動習慣が少ない
- 喫煙と運動は逆の健康行動であり、喫煙者は運動を避ける傾向がある
- 運動能力の低下や、呼吸器系への影響が影響している可能性
- 非喫煙者は最も運動習慣が多い
- 健康志向が高い人は、運動習慣を持つ傾向が強い
- 禁煙者の運動習慣は喫煙者より多いが、非喫煙者よりは少ない
- 禁煙後、健康意識が高まることで運動を始める人もいるが、
完全に非喫煙者と同じ習慣にはならない
- 禁煙後、健康意識が高まることで運動を始める人もいるが、
4. 結論
- 喫煙者は運動習慣が少なく、健康リスクが高い
- 禁煙後、運動習慣を身につけることが重要
- 禁煙支援と併せて、運動習慣の向上を促進すべき
まとめ
図表 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
図表5 | 喫煙状態と食生活 | 禁煙後に間食や飲酒が増えやすい |
図表6 | 喫煙と精神的健康 | 喫煙者・禁煙者はストレスが高く、精神的健康が悪化しやすい |
図表7 | 喫煙と身体活動 | 喫煙者は運動習慣が少なく、禁煙後に改善する傾向 |
政策的示唆
- 禁煙プログラムに「食生活指導」を組み込む
- 禁煙後の食事量増加を防ぐための栄養指導が重要。
- 禁煙後のストレス管理
- 瞑想やリラクゼーション、運動を推奨。
- 禁煙後の運動習慣の促進
- 禁煙と同時にフィットネスプログラムを組み合わせる。
この3つの図表は、
喫煙・禁煙が食生活・ストレス・運動習慣に与える影響を示しており、
健康政策において重要な示唆を与えています。
最後に、本研究の政策的示唆として、
禁煙政策と肥満予防策を独立して実施するのではなく、
両者を連携させること、
そして個人の性格特性を考慮した対策を講じることが重要であることが導き出されています。
具体的には、禁煙後に肥満リスクが高まりやすい性格特性(外向性や開放性が高い人、勤勉性が低い人)を持つ個人に対し、
より丁寧かつ個別に配慮した注意喚起を行う必要がある。
また、禁煙後の間食頻度や飲酒頻度の増加を防ぐため、
禁煙者向けの食生活改善プログラムやアドバイスを充実させることも、
政策的に有効であると考えられます。
禁煙をしようと思って、挫折してしまった人は数多いですね。
やめた私からすると、きっかけが大切だと思っています。
やめたいではなく、やめると決めることかと思います。
私がやめると決めたきっかけは、
飲食店で働いていたときにアルバイトとどちらがタバコをやめれるかという話からでした。
さらに決意するきっかけは、コンビニの前を歩いていると、
外でタバコを吸っているカップルがいました。
そのカップルの振る舞いや話し方を通りすがりに目にし、耳にしたとき、
とてもブサイクに感じました。
自分に置き換えたときに、自分もこんなふうに思われている。
これがやめるのを決めたきっかけでした。
禁煙をした私は、今回の論文の内容は振り返ると当てはまる内容でした。
禁煙したいと思っている方にとって、禁煙後に気をつけるべき内容も調査されているので、
非常に参考になる内容であると思います。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
慶應義塾大学パネルデータ研究センター (2023). 『禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性-「日本家計パネル調査」を用いた禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析-』, 2025年2月5日アクセス. https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/DP2022-009_jp.pdf