「Women in the Workplace 2024」レポートは、
マッキンゼーがアメリカ企業における性別多様性と包摂性(インクルージョン)の
現状を10年間にわたって分析しています。
今回は経営者やマネージャー層に向けたポイントでお話を進めていきます。
女性はなぜ上にいけないのか
1. 女性の職場における地位向上:進展と課題
- Cスイートにおける進展
2015年には17%だった女性のCスイート(役員クラス)での
割合が2024年には29%に増加しましたが、
この進展は非常に脆弱です。
進展の多くは新たなスタッフ職の追加によるもので、
組織全体の構造的改善にはつながっていません。 - 「壊れたはしご」問題
女性は初めての昇進(マネージャー職)で大きな壁に直面します。
100人の男性が昇進するごとに、
女性は81人しか昇進できておらず、
これが管理職への進出を妨げています。 - 有色人種の女性の課題
有色人種の女性は著しく過小評価されており、
Cスイートにおける割合はわずか7%にとどまります(白人女性は22%)。
1. 進展が脆弱である理由と構造的改革につながらない背景
- 進展の主因
女性のCスイートでの増加は、
主にスタッフ職(例:人事、法務、ITなど)を新設し、
そこに女性を配置した結果です。
これにより数値上の進展は見られるものの、
利益責任や主要業務を担う「ライン職」における女性の割合は
依然として低い状況が続いています。- 脆弱性の原因: 新しい役職を増やすことは持続可能な戦略ではありません。
企業が無限にスタッフ職を増やすことはできないため、
最終的には限界が訪れます。 - 構造的改革の欠如: 女性がライン職や利益責任のあるポジションに進出しない限り、
経営上の意思決定やリーダーシップにおける真の多様性は実現しません。
- 脆弱性の原因: 新しい役職を増やすことは持続可能な戦略ではありません。
2. 「壊れたはしご」問題における女性が直面する壁
- 具体的な壁とは:
- 昇進機会の格差: 女性は男性に比べ、初めての昇進(マネージャー職)で大きく出遅れます。
たとえば、100人の男性が昇進する一方で、女性は81人しか昇進できていません。 - 評価の偏見: 女性は能力ではなく、
実績に基づいて昇進が決まる傾向が強いのに対し、
男性は将来性(ポテンシャル)で昇進が決まる場合が多いです。
このバイアスは特にキャリア初期において顕著であり、
女性がリーダーシップを発揮する機会を制限します。
女性と男性でリーダーシップにおいて差があるかという研究においては、
差がないことがわかっています。 - サポート不足: マネージャーからの支援が不足していることが、
女性のキャリア成長の妨げになっています。
- 昇進機会の格差: 女性は男性に比べ、初めての昇進(マネージャー職)で大きく出遅れます。
- 壁を壊す施策:
- 一部の企業では、評価基準の明確化やバイアスに関するトレーニングを実施しています。
- ただし、レポートでは「壊れたはしご」の問題に対する取り組みはまだ不十分で、
多くの企業が手付かずの状態であることが指摘されています。
3. 有色人種の女性が過小評価される背景
- 歴史的背景とバイアス:
- 歴史的な構造的格差: 有色人種の女性は、
長年にわたり教育や職場での機会が制限されてきました。
その結果、昇進に必要なネットワークや支援を得られにくい状況が続いています。 - 無意識の偏見: 職場での無意識のバイアスが、
有色人種の女性に不利に働いています。
たとえば、リーダーシップ能力や専門知識が過小評価される傾向があります。
- 歴史的な構造的格差: 有色人種の女性は、
- 具体的な事例:
- 「唯一の存在」問題: 多くの有色人種の女性は、
職場で「唯一の女性」「唯一の有色人種」であることが多く、
この状況が孤立感を生み出し、過剰な注目や厳しい評価につながります。 - マイクロアグレッション: 言語能力や専門性に対する疑念を投げかけられるなど、
日常的な偏見が職場での信頼感や自信を損なう原因となっています。
- 「唯一の存在」問題: 多くの有色人種の女性は、
レポートは、
これらの問題に対応するために企業が持続的かつ包括的な取り組みを進める必要性を強調しています。
特に、「壊れたはしご」を修復し、
偏見を取り除く仕組みを整えることが求められます。
壊れたはしごの具体的な状況
- 昇進の格差
- 同じエントリーレベルにいる男性と女性を比較した場合、
男性100人が昇進するのに対し、
女性は81人しか昇進していません。
この昇進率の格差が、女性が管理職に進むためのチャンスを大幅に減少させています。 - 特に、有色人種の女性においてはこのギャップがさらに広がる傾向があります。
- 同じエントリーレベルにいる男性と女性を比較した場合、
- 職場での偏見
- パフォーマンス偏見: 男性は将来的な可能性(ポテンシャル)を
理由に昇進することが多い一方、
女性は既に達成した実績を証明しなければなりません。
このため、キャリア初期の女性は公平に評価されないケースが多いです。 - リーダーシップの評価: 女性の能力やリーダーシップが過小評価されることがあり、
昇進の障壁となります。
- パフォーマンス偏見: 男性は将来的な可能性(ポテンシャル)を
- 昇進の透明性の欠如
- 昇進基準が明確でないことや、
昇進プロセスにおける偏見(例:無意識のバイアス)が存在することが、
女性がマネージャー職に昇進しにくい原因とされています。
- 昇進基準が明確でないことや、
壊れたはしごが及ぼす影響
- 管理職レベルの男女比の不均衡
最初の昇進で女性が遅れることで、
管理職全体における男女比のバランスが崩れ、
企業のリーダーシップ層における女性の割合が減少します。 - 次世代リーダーの育成の停滞
マネージャー職で女性の割合が少ないと、
女性社員が将来のキャリアを目指す際にロールモデルが不足し、
女性全体のキャリア志向にも影響を与える可能性があります。
バイアスというキーワードが浮かび上がってきます。
私たちはバイアスを通して判断し得ていると言わざるを得ません。
私たちは無意識のバイアスに支配されれているということです。
バイアスを認識するためには。
企業での施策状況
- 現状の取り組み
一部の企業では、昇進の透明性を向上させるために以下の施策を実施しています:- 昇進基準の明確化。
- バイアスを認識するためのトレーニング。
- 多様な候補者リストの作成(Diverse Candidate Slate)。
- 課題
しかし、レポートによれば、
多くの企業は依然としてこの問題への取り組みが不十分であり、
「壊れたはしご」の修復が進んでいないと指摘されています。
壊れたはしごは、単なる数値上の問題ではなく、
女性がキャリアを積み上げる際に直面する具体的な障壁を象徴しています。
この問題を解決するためには、企業が昇進プロセスを見直し、
公平な機会を提供することが重要です。
では、環境を整えればどうなるのかを考えていきます。
心理的安全性のある組織であれば、どうなると思いますか。
心理的安全性が担保されている組織とそうでない組織では、
女性の昇進に明確な違いが生まれる可能性があります。
心理的安全性が昇進にどのように影響するかを説明します。
心理的安全性が担保されている組織の特徴と昇進への影響
- 偏見の排除
- 心理的安全性が高い環境では、
無意識のバイアス(例:性別や人種に基づく評価の偏り)が組織内で認識されやすく、
改善に向けた対策が取られます。
これにより、女性が実力やポテンシャルを公平に評価される機会が増えます。
- 心理的安全性が高い環境では、
- オープンなコミュニケーション
- 女性が自分の意見や成果を自由に発信しやすい環境が整い、
上司や経営陣に対する visibility(見える化)が向上します。
これにより、昇進候補として認識される可能性が高まります。
- 女性が自分の意見や成果を自由に発信しやすい環境が整い、
- 失敗を恐れない文化
- 心理的安全性のある組織では、
失敗が成長の一環として受け入れられるため、
女性がリスクを伴う挑戦(リーダーシップの発揮など)に積極的になります。
これが、昇進に必要な経験の蓄積につながります。
- 心理的安全性のある組織では、
- ロールモデルの存在
- 心理的安全性の高い組織では、
女性リーダーが増えやすくなり、
次世代の女性社員にとってのロールモデルが確保されます。
これにより、女性が昇進を目指す動機付けが強化されます。
- 心理的安全性の高い組織では、
心理的安全性が欠如している組織の特徴と昇進への影響
- 偏見が固定化される
- 偏見や固定観念が是正されない環境では、
女性が能力や実績を正当に評価されず、
昇進が阻まれる可能性が高まります。
- 偏見や固定観念が是正されない環境では、
- 声を上げづらい環境
- 自分の意見を述べたり、
リーダーシップを発揮したりすることにリスクを感じるため、
昇進に必要な visibility(認知度)が低下します。
- 自分の意見を述べたり、
- リスク回避志向
- 心理的安全性がないと、
女性がリーダーシップを発揮するために必要なリスクを避ける傾向が強くなり、
昇進の機会を逃す可能性があります。
- 心理的安全性がないと、
- ロールモデルの不足
- 女性リーダーが少ないため、
若手女性社員が昇進を目指す明確なビジョンを描きにくくなります。
- 女性リーダーが少ないため、
研究や実例からの示唆
- GoogleのProject Aristotle:
心理的安全性が高いチームは、
創造性や効率性が向上するだけでなく、
メンバーが自信を持って意見を述べることで、
より公平な意思決定が行われることが報告されています。
この環境は、女性の昇進にもポジティブな影響を及ぼす可能性があります。 - リーダーシップ開発プログラム:
心理的安全性の高い職場では、
メンターシップやスポンサーシップを活用した昇進支援が行われる例が増えており、
これが女性の昇進を後押ししています。
結論
心理的安全性が高い組織では、
女性が自分の能力を発揮しやすく、
昇進の可能性が大きく高まると考えられます。
一方、心理的安全性がない組織では、
偏見や固定観念が残り、昇進が困難になる傾向があります。
リーダーシップにおいて、男女差はないという研究結果があります。
現在主流となりつつある変革型リーダーシップにおいては、
女性がの方が(ビジョンの提示や個別の配慮など)を
より発揮する傾向があると報告されています。
ここまでご覧いただき、どのように感じられましたか。
私たちがバイアスに支配され、そのバイアスで人を判断していることが
認識できる内容となっています。
あなたの組織はどんな状況ですか、バイアスが判断基準となっていませんか。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
マッキンゼー・アンド・カンパニー(2024). Women in the Workplace 2024. https://www.mckinsey.com (2024年11月10日アクセス)
野村浩子, 川﨑昌. “成果につながるリーダーシップ・スタイルの男女階層別比較”. 淑徳大学人文学部研究論集,2020年8月27日,https://shukutoku.repo.nii.ac.jp/records/1859(2024年11月10日アクセス)
グロービス. 「男性脳女性脳はもう古い。ジェンダーレスな脳の世界―心理学の研究データに見るジェンダー#1」. グロービス・インサイト, 2024年. https://globis.jp/article/57383/(2024年11月10日アクセス)