心理学的視点からスポーツ選手の性格特性と達成目標志向の関係性を分析し、
「成功への希望」がこの関係を媒介する役割を果たすかを検証した研究論文から、
ビッグファイブがどのように利用されるのかをみていきます。
高パフォーマンスとレクリエーションアスリート 「成功への希望」
研究の目的と背景
目的:
この研究は、スポーツ選手の性格特性(ビッグファイブ)と目標達成への考え方(達成目標志向)の関係について調査し、
「成功への希望」がその関係をどのように仲立ちするかを明らかにすることを目的としています。
成功への希望とは?
「成功への希望」とは、「自分の力で目標を達成できる」と信じる気持ちのことです。
これは、自信や努力を続けるエネルギーの源となります。
背景:
達成目標志向とは、
スポーツにおける選手の動機や取り組み方を決める重要な心理的要素です。
この志向は2つに分けられます。
- タスク志向: 自己成長やスキル向上を重視し、努力やプロセスに価値を置く。
- エゴ志向: 他者との比較や競争に重きを置き、勝敗や成果を優先する。
研究の意義
本研究は、これまでの研究とは異なり、
「成功への希望」が性格特性と目標志向の間をどのようにつなぐかに焦点を当てています。
特に、選手の心理的資源として希望を育てることで、
モチベーションやパフォーマンス向上に役立つ可能性を検証します。
結果はどのようになったのでしょうか。
1. 成功への希望は媒介効果を示す
解説:
この研究では、「成功への希望」が外向性、誠実性、感情的安定性、
知性といったビッグファイブ性格特性とタスク志向の間を媒介することが示されました。
- 外向性:
外向的な人は社交性が高く、ポジティブな感情を感じやすい傾向があります。
これにより、困難な状況でも自信を持って行動しやすく、
希望を持ち続ける力を育むと考えられます。 - 誠実性:
誠実な人は計画的で目標達成への努力を惜しまないため、
達成経験を積みやすく、
結果として「自分は成功できる」という信念が強化される可能性があります。 - 感情的安定性:
精神的に安定している人はストレス耐性が高く、
失敗してもポジティブな解釈をしやすいため、
成功への希望を失わない傾向があります。 - 知性:
知的好奇心が強い人は新しい解決策を模索する柔軟性があり、
希望を持って問題解決に取り組む姿勢を育みます。
心理学的意義:
これらの性格特性は、
幼少期からの経験や育成環境によって形作られると考えられます。
特に、環境からの支援やフィードバック(例:親やコーチからの励まし)が重要であり、
これらが自己効力感を強化し、成功への希望を高める要因になると解釈できます。
この知見は、コーチや教育者がポジティブなフィードバックや成功体験を通じて、
選手の内面的な信念や希望を育むべきであることを示唆しています。
2. エゴ志向には媒介効果が認められない
解説:
エゴ志向は、他者との比較や競争に焦点を当てた目標設定を特徴とします。
この研究では、「成功への希望」はエゴ志向との間で媒介効果を示しませんでした。
- 理由:
エゴ志向は結果重視であり、
成果が得られない場合は自己肯定感が下がりやすいため、
ポジティブな信念や希望と結びつきにくいと考えられます。
例えば、競争に負けることで自己評価が著しく低下する場合、
希望よりも不安や自己疑念が強化される可能性があります。 - 心理学的視点:
エゴ志向の選手は「達成できるかどうか」という不安に駆られるため、
希望の概念とは相性が悪いと考えられます。
一方で、タスク志向は「プロセスや努力」を重視するため、
成功への希望を維持しやすいという理論的背景があります。
この差異は、目標志向理論(Achievement Goal Theory)の枠組みと一致しています。
実践的示唆:
この結果は、選手のモチベーションを高める際にタスク志向を育てることが心理的健康や持続的モチベーションに寄与することを示唆します。特に、フィードバックの内容を競争結果よりも努力やプロセスに焦点を当てることが重要と考えられます。
3. スポーツタイプによる違いはない
解説:
高パフォーマンスアスリートとレクリエーションアスリートの間で媒介効果に差が見られなかったことは、
心理学的に以下の理由で説明できます。
- 共通点:
両グループともスポーツ活動を行うことで自己効力感や希望を育むプロセスが似ている可能性があります。レクリエーションアスリートであっても競争的な状況を経験することがあるため、心理的メカニズムが類似していると考えられます。 - 異なる目的の一致:
高パフォーマンスアスリートは競技成績を重視し、
レクリエーションアスリートは楽しさや健康維持を重視しますが、
どちらも「自己成長」や「目標達成」を追求する姿勢は共通しており、
これが媒介効果に差を生まなかった可能性があります。
心理学的視点:
この結果は、「動機づけの質」が異なる場合でも、
目標志向や希望の役割は一貫して重要であることを示しています。
特に、スポーツ参加を通じて成功体験を積むことで、
タイプに関係なくポジティブな心理的資源が育まれることが示唆されます。
まとめと応用:
この研究は、タスク志向と成功への希望の関係性に焦点を当て、
性格特性や心理的要因がアスリートの目標達成行動にどのように影響を与えるかを明らかにしました。
- 心理教育:
コーチや教育者は、努力と成功体験を重視した育成環境を提供することで、
希望とモチベーションを高めることができます。 - パーソナライズされた支援:
個々の性格特性に応じたアプローチを取り入れることで、効果的な育成が可能になります。 - さらなる研究課題:
この研究は横断的なデータを使用しているため、
縦断的研究を通じて因果関係を明らかにする必要があります。
また、エゴ志向に関するより詳細な分析も求められます。
これまでの研究では、「性格特性」と「目標志向」が直接つながっていると考えられてきました。
しかし、この研究では「成功への希望」がその間をつなぐ重要な役割を果たす可能性を示しました。
たとえば:
- 外向的で社交的な人は、困難な状況でも「成功できる」と信じる気持ちを持ちやすく、
それが成長を重視するタスク志向につながる。 - 一方で、競争を重視するエゴ志向では、
希望の持ち方とは直接的な関連が薄い可能性があることもわかりました。
この研究は、性格や希望、目標志向がどのように結びついているかを明らかにし、
スポーツ心理学の理解を深める貴重な成果です。
これを通じて、「希望を育てる」ことが、
選手のパフォーマンスや心理的健康にとって重要なカギであることが示されました。
開放性と調和性が関連を示さない理由
この研究では、「成功への希望」が性格特性と目標志向の間で媒介する役割を果たすことが示されましたが、
開放性や調和性は直接的な関連を示しませんでした。
その理由は:
- 開放性はプロセスや学びを楽しむ傾向があり、具体的な成功へのこだわりが弱い。
- 調和性は他者との関係性や協力を重視するため、個人としての成功よりもチームワークを優先する傾向がある。
今後の方向性:
これらの特性は、チームのサポート役や協力的な環境づくりにおいて重要な役割を果たす可能性が高いため、
育成や指導においては「個人の成功」だけでなく、
「協力関係」や「創造性」を活かしたアプローチを重視する必要があります。
スポーツでは勝ち負けということになりますが、高パフォーマンスアスリート、
レクレーションアスリートどちらにとっても大切なことは、
「成功への希望」を育てる結果となっています。
これは色々な場面に応用できるのではと考えられます。
次回はビジネスにおける観点から「成功への希望」を考えていきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
トムチャク, M., クレカ, P., トムチャク-ウカシェフスカ, E., & ヴァルチャク, M. (2024年3月21日). 『Hope for success as a mediator between Big Five personality traits and achievement goal orientation among high performance and recreational athletes』, 2024年12月21日アクセス. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0288859
アスリートの「成功への希望」とビッグファイブ2へつづく