今回は不登校のリスク回避を研究したものがありましたので、
前回の記事を読んでいただくとさらに深い知見が得られると考えております。
「性格特性および一般性自己効力感と不登校傾向との関連」
ビッグファイブの性格特性(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)と
一般的な自己効力感が大学生の不登校傾向にどのように関連するかを調査しています。
研究の目的は、不登校を予防するための要因を特定することにあります。
主な内容
調査方法:
調査対象:近畿圏の大学生145名
調査手段:オンラインでのアンケート
主要な分析結果:
この研究では、
ビッグファイブの各性格特性と不登校傾向との関係を階層的重回帰分析を用いて検討し、
性格特性ごとの具体的なアプローチが示されています。
以下に各特性の影響と関係性について詳しく説明します:
協調性と能力の社会的位置づけ:
協調性が低く、
自分の能力を高く見積もる場合、
登校回避行動が高まることが確認されています。
この特性を持つ学生は他者の評価に対して納得できないことがあり、
不満や不安を感じやすいことが登校回避行動につながるとされています。
神経症傾向と失敗に対する不安:
神経症傾向が高く、
失敗に対する不安が低い場合には登校回避行動が低くなる傾向が
示されています。
情緒が安定している学生は、失敗を引きずることが少なく、
ストレスが軽減されるため登校の継続がしやすくなります。
開放性と行動の積極性:
開放性が高く、
行動の積極性も高い学生は登校回避行動が低い傾向が見られました。
新しい状況に対する好奇心と行動力があるため、
登校への積極的な姿勢が見られます。
勤勉性と登校可否行動:
勤勉性が低い学生は登校回避行動が高くなる傾向が示されました。
勤勉性が高い学生は計画的に物事を進め、
責任感が強いため、学業への参加意識が強く、
不登校のリスクが軽減されると考えられます。
外向性と対人関係:
外向性が高い学生は対人関係が良好で、
友人や仲間との交流を楽しむ傾向があるため、
学校に通う意欲が高まりやすいことがわかりました。
これにより、
外向性が低い学生は登校回避行動を取りやすい傾向があり、
特に社会的な支援や人との交流が不登校のリスク回避に有効とされています。
この研究では、各特性に応じた自己効力感を高めるための
心理的支援が不登校傾向の予防に役立つことが示唆されています。
また、学生が大学関連の話題を気軽に話し合える場を提供することで、
登校回避のリスクを低減できる可能性も強調されています。
特性ごとの支援環境
この研究では、
ビッグファイブの各性格特性に応じた支援対策や環境について
具体的な推奨が示されています。
以下に各特性に応じた支援環境の提供方法についてまとめます:
外向性:
対人交流の場を提供:外向性が高い学生は社交的であり、
対人関係を通じて登校意欲が向上するため、
友人と気軽に交流できるスペースや活動を提供することが推奨されます。
たとえば、カフェ形式の学習スペースや部活動などを活用することが効果的です。
協調性:
グループワークや共同学習:協調性が低い学生には、
他者と共同で取り組むプロジェクトやグループワークを通じて
協力意識を育てる環境が推奨されます。
また、協調性の低さが原因で他者評価に不満が生じやすいため、
自己評価と他者評価のバランスをとれるフィードバックを提供することが重要です。
勤勉性:
計画的な目標設定と進捗管理:勤勉性が高い学生は自己管理能力があり、
目標に基づいて行動します。
このため、個別の目標設定や進捗確認のサポートが役立ちます。
低い場合は、リマインダーやチェックインの仕組みを導入することで、
学業に対する責任感を育むことが推奨されます。
神経症傾向:
カウンセリングやストレス管理のサポート:神経症傾向が高い学生は、
不安やストレスに対して敏感であるため、メンタルヘルスサポートが重要です。
定期的なカウンセリングやストレス管理プログラムを通じて情緒を安定させ、
失敗に対する不安を軽減する支援が有効です。
開放性:
新しい体験や課題への挑戦機会:開放性が高い学生には、
新しい学習機会やプロジェクトの提案など、
好奇心を刺激する環境を提供することが望ましいです。
たとえば、海外交流プログラムやインターンシップなど、
挑戦的な活動を通じて学びを深めることが推奨されます。
これらの対策は、学生の個別性を尊重し、
心理的および社会的支援の場を提供することにより、
不登校傾向の予防に役立つとされています。
今回の研究で示されたビッグファイブ分析は、
不登校のリスク回避において非常に有効であると考えられます。
ビッグファイブの各性格特性(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)に基づいて、
個々の性格に応じた支援や環境調整が不登校傾向の予防に役立つことが明らかにされています。
具体的には、ビッグファイブ特性に応じた支援を提供することで、
学生が登校拒否を選ぶリスクを軽減し、
心理的安全性を高めるサポートができると考えられます。
今回の研究結果から、
ビッグファイブ分析を活用したアプローチが
不登校予防の有用なツールであることが示唆されています。
離職防止対策に
この研究をビジネスの離職防止対策に応用する場合、
ビッグファイブ分析を活用して社員の性格特性に基づいたサポート環境を整備することが、
全体最適と個別最適の両面で効果的です。
以下に、各観点からの具体的な実施方法を示します。
1. 全体最適の観点
職場文化の調整:
ビッグファイブ特性に基づき、
多様な性格特性を尊重し、
安心して働ける職場文化を築くことが重要です。
例えば、
外向的な社員が活躍できるようにチームビルディング活動や
社内交流イベントを定期的に開催する一方、
内向的な社員にも無理なく貢献できるリモートワークや
個人作業を支援する仕組みを整えます。
包括的なメンタルヘルスプログラム:
神経症傾向の高い社員やストレスに敏感な社員に配慮した、
メンタルヘルス支援(相談窓口、カウンセリング、
ストレス管理セミナーなど)を用意します。全社員向けに設置することで、
特性に関わらず支援を受けやすい環境を構築します。
柔軟な成長機会の提供:
開放性の高い社員に合わせたキャリアパスの多様化を図り、
社内での新しい挑戦やプロジェクトへの参加機会を増やす仕組みを導入します。
これにより、全体として成長意欲を引き出す土壌が形成されます。
2. 個別最適の観点
個別に合わせた目標設定とフィードバック:
勤勉性や協調性などの特性に応じて、
目標設定やフィードバックの方法を調整します。
例えば、勤勉性が高い社員には細かい目標管理や進捗確認を行い、
自己管理を促進。
一方で協調性が低い社員には、
他者との共同作業を通じて協力意識を育てるフィードバックを提供します。
性格特性に応じたサポートプランの導入:
例えば、神経症傾向が高い社員には、
失敗を防ぐためのリスクマネジメントやメンタルサポートを強化する一方で、
開放性の高い社員には新しいスキル習得やイノベーション活動への参加を支援します。
これにより、各社員が自身の特性に合わせて働きやすい環境を作ることができます。
キャリアコーチングとカスタマイズ支援:
特性に応じたキャリアコーチングを導入し、
各社員の目標やキャリアビジョンに合わせたカスタマイズ支援を提供します。
たとえば、外向性の高い社員にはリーダーシップ研修を、
内向性の高い社員には専門スキル向上のための研修を提案します。
このように、
全体最適では全社員が働きやすい基盤づくり、
個別最適では社員一人ひとりの特性を尊重した成長支援と
サポートを組み合わせることで、社員の満足度を向上させ、
離職防止に繋がる職場環境が構築できます。
このモデルは、
ビッグファイブ分析を基にした柔軟な対応を可能にし、
離職リスクの低減に大きく貢献すると考えられます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
Pina Filippello,Luana Sorrenti,Buzzai Caterina,Sebastiano Costa.“Predicting risk of school refusal: Examining the incremental role of trait EI beyond personality and emotion regula”.RserchGate.(2024年11月4日)