大学生とバーンアウトその2

前回はビッグファイブと自己効力感と
学業燃え尽き症候群との関連性についての内容でした。
ここではチェーン媒介効果のお話から始めていきます。

チェーン媒介効果

2つ以上の媒介変数が連鎖的に働き、
独立変数(ここではビッグファイブ性格特性)が
従属変数(不安)に影響を与えるメカニズムを指します。

この研究では、自己効力感学業燃え尽き症候群がチェーンの形で
性格特性と不安の間を媒介する役割を果たすことが明らかになりました。

1. チェーン媒介効果の基本構造

  • 独立変数: ビッグファイブ性格特性(外向性、協調性、誠実性、開放性、神経症的傾向)
  • 媒介変数1: 自己効力感(自分の能力を信じる度合い)
  • 媒介変数2: 学業燃え尽き症候群(学業に対する感情的消耗やモチベーションの低下)
  • 従属変数: 不安(心理的ストレスや不安感のレベル)

チェーン媒介効果では、次のような流れが確認されています:

  1. 性格特性が自己効力感に影響を与える。
  2. 自己効力感が学業燃え尽き症候群に影響を与える。
  3. 学業燃え尽き症候群が不安に影響を与える。

2. 性格特性ごとのチェーン媒介効果

(1) 外向性、協調性、誠実性、開放性:

  • 正の効果:
    • これらの特性が高い人は、
      一般的に自己効力感が高い傾向があります(例: 「自分ならできる」と感じやすい)。
    • 高い自己効力感は、学業燃え尽き症候群を軽減する効果を持っています。
      つまり、自己効力感が高いほど学業に対してよりポジティブな姿勢を維持しやすく、
      燃え尽き症候群を経験しにくいです。
    • 学業燃え尽き症候群が軽減されることで、不安も低下します。
  • 総合的な結果:
    • これらの特性は、自己効力感の向上を通じて、
      学業燃え尽き症候群を減少させ、その結果、
      不安を軽減する効果を持つと確認されました。

(2) 神経症的傾向:

  • 負の効果:
    • 神経症的傾向が高い人は、
      自己効力感が低い傾向があります(例: 自分に対して否定的で「自分にはできない」と感じやすい)。
    • 低い自己効力感は、
      学業燃え尽き症候群を増加させる可能性があります。
      これは、学業へのモチベーションが低下し、学業に対して無力感を抱きやすいからです。
    • 学業燃え尽き症候群が増加すると、それが直接的に不安を増加させる要因になります。
  • 総合的な結果:
    • 神経症的傾向は、自己効力感の低下を通じて、
      学業燃え尽き症候群を悪化させ、
      不安を増加させる効果を持つと確認されました。

3. チェーン媒介効果の割合と統計結果

この研究では、SPSSとPROCESSマクロを使用して、
チェーン媒介効果の統計的有意性を検証しています。

  • 各性格特性の間接効果:
    • 外向性、協調性、誠実性、開放性は、
      直接的な影響とチェーン媒介効果の両方を通じて不安に影響を与えます。
    • 神経症的傾向は主にチェーン媒介効果を通じて不安を増加させます。
  • 間接効果の寄与率:
    • 例えば、外向性から不安への影響のうち、
      チェーン媒介効果が全体の46.67%を占めると報告されています。

4. チェーン媒介効果の意義

この効果は、性格特性が不安に影響を与えるメカニズムをより具体的に解明するものであり、
以下のような重要な意義があることを認識できます。

  1. 介入の可能性:
    • 性格そのものを変えることは難しいが、
      自己効力感の向上や学業燃え尽き症候群の軽減を目指した
      介入が不安の軽減につながる可能性があります。
  2. 教育現場での活用:
    • 大学生の不安を軽減するために、
      自己効力感を高めるプログラムや学業ストレスを
      軽減する支援策が有効であることが示唆されています。
  3. 理論的貢献:
    • 性格特性が感情や行動に与える影響を説明する新しい視点を提供し、
      不安研究の基盤をさらに強化します。

結論として、この研究は、
性格特性と不安の関係を単なる関連性にとどめず、
媒介変数としての自己効力感と学業燃え尽き症候群が連鎖的に
作用する詳細なメカニズムを明らかにし、
不安を軽減するために、以下の実践的な方向性が提案されています。

施策は研究で解明された「自己効力感」と「学業燃え尽き症候群」の役割を踏まえたものです。

1. 自己効力感を高める介入策

  • 目的: 自己効力感の向上を通じて、不安を間接的に軽減する。
  • 具体的な提案:
    1. 自己効力感向上のためのトレーニング:
      • 自己効力感を高めるためのワークショップやトレーニングプログラムの実施。
      • 学生に成功体験を提供し、自分の能力に対する自信を深める活動を組み込む。
    2. 目標設定スキルの指導:
      • 学生が達成可能な目標を設定し、それを段階的にクリアするプロセスをサポートする。
      • 適切な目標達成による成功体験が、自己効力感を高める助けになる。
    3. ポジティブなフィードバックの提供:
      • 学生の努力や成果に対して具体的でポジティブなフィードバックを提供することで、自己効力感を高める。

2. 学業燃え尽き症候群を軽減するための支援

  • 目的: 学業ストレスの軽減を通じて、燃え尽き症候群を抑制し、不安を低減する。
  • 具体的な提案:
    1. 学業支援プログラム:
      • 学業ストレスを減らすために、タイムマネジメントや学習スキルを教えるワークショップを提供。
      • 学生が効率的に学習を進める方法を学ぶことで、燃え尽き感を防ぐ。
    2. ストレス管理とリラクゼーション技術の導入:
      • 瞑想、ヨガ、マインドフルネスなどのストレス軽減技術を学生に紹介し、燃え尽き症候群の兆候を軽減する。
      • ストレス管理スキルを教えるセッションを実施。
    3. 学業と個人生活のバランスを推奨:
      • 適度な休息やリラクゼーション活動を推奨し、学業への過剰な集中を防ぐ。
      • 学生に趣味やスポーツ活動への参加を促し、精神的リフレッシュを図る。

3. 学校環境の改善

  • 目的: 学生が安心して学習し、自己効力感を高められる学習環境を整える。
  • 具体的な提案:
    1. ポジティブな学習文化の促進:
      • 学生間の協力と支援を促進し、競争ではなく協働を重視する文化を作る。
      • フィードバックや評価において、学生の努力や進歩を強調する。
    2. メンタルヘルスサポートの提供:
      • 学校内でのカウンセリングサービスやメンタルヘルスサポートプログラムを充実させる。
      • 学生が自由にアクセスできる相談窓口を設置し、
        不安や燃え尽き症候群の兆候に早期対応できる体制を構築。
    3. 教育者の役割:
      • 教員が学生に対し、励ましとサポートを提供し、
        学業のプレッシャーを軽減できるような教育スタイルを採用。

4. 特定の性格特性に応じたアプローチ

  • 神経症的傾向が高い学生への配慮:
    • 神経症的傾向が強い学生は、
      不安や燃え尽き症候群を抱えるリスクが高いため、
      特別な支援を提供。
    • このタイプの学生には、
      ストレス管理技術や不安軽減の心理教育を重点的に行う。
  • 外向性、協調性、開放性が高い学生の強みを活かす:
    • これらの特性を持つ学生には、
      自己効力感をさらに高めるような挑戦的な目標設定を支援する。

5. 長期的なフォローアップ

  • 不安軽減プログラムが効果を持続するために、
    長期的なフォローアップが重要です。
    • 定期的な自己効力感の評価と、
      学業燃え尽き症候群のモニタリングを行い、
      必要に応じてサポートを提供。

結論

性格特性に基づく不安軽減のための介入策をごらんいただきました。

特に、自己効力感の向上学業燃え尽き症候群の軽減が、
効果的な戦略として挙げられています。

また、これらの取り組みを支える学校や教育者の役割が強調され、
総合的な支援体制の構築が提案されています。

このようなアプローチは、大学生の精神的健康を向上させるだけでなく、
将来的な学業や社会的成功にも寄与する可能性があります。

いかがでしたでしょうか、学術的記述はなかなか身体には浸透しにくいものです。
しかし、研究は人々の営みをよくしていこうとしている証です。
今回は良好なメンタルヘルスを維持するための施策を解説しています。
その3では企業におけるメンタルヘルス対策もお話ししていきます。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Wu, X., Zhang, W., Li, Y., Zheng, L., Liu, J., Jiang, Y., Peng, Y. (2024).
『The influence of big five personality traits on anxiety: The chain mediating effect of general self-efficacy and academic burnout』, 2024年11月25日アクセス. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0295118

大学生とバーンアウト その3へつづく