女子大学生における職業価値観
女子大学生における職業選択に関する価値観と
性格特性(Big Five)との関連性を調査するものです。
女子大学生にとっては、自分の適職は何かを知る手掛かりとなりますし、
大学の就職指導におけるキャリアカウンセリングの指針なりえるかと思います。
企業にとっては成長段階があるため、採用時点で自社にマッチした人財かを
見極める手掛かりともなるのではないでしょうか。
研究目的
- 女子大学生が職業選択の際に何を重要視するかを明らかにし、
職業価値観の基本構造を探索する。 - 職業価値観と性格特性(Big Fiveモデル)の関連性を明らかにする。
方法
- 対象:同志社女子大学の女子学生277名(18〜23歳)
- 測定:
- Big Five尺度(外向性、神経症傾向、誠実性、調和性、開放性)
- 職業価値観尺度(自己価値、人間関係、労働条件、社会的評価、組織からの独立)
PDFの内容では、性格特性(Big Fiveモデル)の違いによって、
職業価値観で重視する項目が異なることが明確に示されています。
具体的には、次のような関連性が報告されています。
職業価値観と性格特性の関連
因子分析で、職業価値観は「自己価値」「人間関係」「労働条件」
「社会的評価」「組織からの独立」の5因子に分類。
職業価値観に影響を与える性格特性が確認され、
具体的には以下のような関係が見れました。
- 外向性(Extraversion)
- 自己価値、人間関係、社会的評価を重視する傾向が強い。
- 活動的で社交的な性格特性が、他者との関わりや社会的認知を重視する職業観につながる。
- 神経症傾向(Neuroticism)
- 自己価値、人間関係、社会的評価に正の影響。
- 不安や心配が強い性格特性が、安定や評価を重視する選択につながると考えられる。
- 開放性(Openness)
- 自己価値、社会的評価、組織からの独立を重視する。
- 新しい経験や創造性に価値を置く性格が、独立性や革新的な働き方を求める価値観に影響を与える。
- 誠実性(Conscientiousness)
- 人間関係を抑制する傾向が見られる。
- 計画性や目標達成を重視する性格が、柔軟性を要する人間関係への関心を低める。
- 調和性(Agreeableness)
- 本研究では職業価値観に有意な影響を与えないと報告されています。
- 調和性は自己の欲求を抑制する特性であるため、
特定の職業価値観には関連しにくいと考えられます。
- 労働条件には性格特性の影響が見られない。
「労働条件」に性格特性の影響が見られない
- 労働条件の特性
- 勤務時間や福利厚生など、外的で客観的な要因であり、
性格よりも環境や状況に左右されやすい。
- 勤務時間や福利厚生など、外的で客観的な要因であり、
- 外的要因の強い影響
- 法規制や企業のポリシーなど、
個人の性格特性では変えられない外部要因が労働条件を大きく規定する。
- 法規制や企業のポリシーなど、
- 労働条件の普遍性
- 残業の少なさや収入の安定など、
性格に関係なく多くの人々に共通して重要視されるため、
性格特性の違いが反映されにくい。
- 残業の少なさや収入の安定など、
- 選択肢の制限
- 職業や業界によって選べる労働条件が限られるため、
性格特性が影響を与える余地が少ない。
- 職業や業界によって選べる労働条件が限られるため、
- 主観性の低さ
- 「自己価値」や「人間関係」などの主観的価値観とは異なり、
「労働条件」は具体的で客観的な要素であるため、性格特性との関連性が低い。
- 「自己価値」や「人間関係」などの主観的価値観とは異なり、
- 職業経験やライフステージの影響
- 労働条件への価値観は、
性格特性よりもキャリア経験や家庭環境など、
個人のライフステージによる影響が大きい。
- 労働条件への価値観は、
結論
労働条件は外的要因や状況に強く規定され、
性格特性が反映される余地が少ないため、
性格との関連性が低く見られると考えられます。
追加ポイント
- 性格特性による職業価値観の違いは、
職業選択時の動機づけや選択肢の優先順位に影響を与えることが示唆されています。 - 職業価値観は静的ではなく、
キャリア経験や社会環境に応じて変化する可能性も強調されています。
特性ごとに異なる職業価値観が存在するという理解をされることと思いますが、
これらの関係性はさらに個人や状況によって変動する
可能性もある点を留意する必要があります。
次に職業価値観の変化についてお話ししていきます。
就労における価値観の変化(キャリア経験や状況による影響)
職業価値観は、時間や経験に伴い変化する可能性があります。
以下は、変化の具体的な例となります。
- ライフステージの変化
- 学生から社会人になることで、自己価値や人間関係の重視から、
安定性(労働条件)や社会的評価を求めるようになる可能性。 - 例:就職後、家族を持つと労働条件や安定性への関心が増加する。
- 学生から社会人になることで、自己価値や人間関係の重視から、
- キャリア経験
- 長年の職務経験が「自己価値」を重視させたり、
「組織からの独立」への欲求を高める可能性。 - 例:専門職としての成功が、さらなる成長や自立への価値観を育む。
- 長年の職務経験が「自己価値」を重視させたり、
- 社会環境や文化的影響
- 働き方改革やテレワークの普及により、
「労働条件」や「組織からの独立」を重視する傾向が増加する可能性。
- 働き方改革やテレワークの普及により、
- キャリアの転換点
- 転職や昇進などの経験が職業価値観を変化させる。
例:新しい環境で「人間関係」の重要性が見直される。
- 転職や昇進などの経験が職業価値観を変化させる。
3. 性格特性と職業価値観を踏まえたキャリア支援の具体的行動
性格特性と職業価値観の関連性を活用することで、
意思決定を促進できます
(1) 性格特性に基づくカウンセリング
- 外向性の高い人には、チームベースの職業やリーダーシップの役割を提案。
- 神経症傾向が高い人には、不安を軽減するための安定性の高い職場を推奨。
- 開放性が高い人には、クリエイティブな職業や多様性を尊重する職場を紹介。
(2) 適性検査の活用
- ビッグファイブ診断や職業価値観テストを用いて、
自己理解を深めさせる。 - 自分の性格特性と価値観に合うキャリアパスを視覚化するツールの提供。
(3) キャリアプランニングのサポート
- 性格特性と職業価値観を考慮し、
短期・長期の目標設定を支援。 - キャリアの転換点において新たな選択肢を提供し、
意思決定のプロセスを明確化する。
(4) ロールモデルの提供
- 性格や価値観が似ているロールモデル(先輩社員やメンター)を紹介し、
具体的なキャリアのイメージを持たせる。
(5) 自己効力感の向上
- キャリア選択において「自分で選んでいる」という
感覚を持たせるためのワークショップやコーチングを提供。
まとめ
- 性格特性は職業価値観の形成に具体的な影響を及ぼし、
特性に応じて重視する価値観が異なる。 - 職業価値観はキャリア経験や社会環境によって動的に変化するため、
ライフステージや経験に基づいた柔軟な支援が重要。 - 性格特性と職業価値観を基にした具体的な支援
(適性診断、キャリアプランニング、ロールモデルの提供)を行うことで、
意思決定を促進できる。
女子大学生にとっては仕事の選択は、これからの長い人生を過ごし、
自分のやりたいことを実現するための手段が仕事であると考えます。
現時点での自分に合った最適な仕事を選択する有効な手段の参考になれば幸いです。
企業にとっては自社に合う人財かどうか、
ミスマッチを防ぐためのヒントになれば大変嬉しいです。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
諸井克英・坂元宏江(2014). 『女子大学生における職業価値観 : 性格特性との関連』, 同志社女子大学生活科学, 第48号, pp.25-32, 2024年11月09日アクセス. https://dwcla.repo.nii.ac.jp/records/991