年齢による性格特性(神経症傾向、外向性、経験への開放性)への影響

性格特性(神経症傾向、外向性、経験への開放性)が年齢とどのように関連しているかを調査した研究です。
主な内容は以下の通りとなります。

性格特性と年齢

研究の目的

  • 性格の安定性と年齢: 成人期における性格が安定しているのか、
    それとも年齢とともに変化するのかを調べる。
  • 横断的研究と縦断的研究の比較: 全国規模のデータ(NHANES I)とバイアスの可能性がある縦断的データ(ABLSA)を比較して、
    結果の一般化可能性を評価する。

方法

  • データセット:
    • NHANES I Epidemiologic Followup Study(全米規模で10,063人のデータ)。
    • Augmented Baltimore Longitudinal Study of Aging(ABLSA、より選ばれた被験者のデータ)。
  • 対象年齢: 32歳から88歳。
  • 測定項目:
    • 神経症傾向(Neuroticism)
    • 外向性(Extraversion)
    • 経験への開放性(Openness)

性格の安定性と年齢を調べる意味

成人期における性格の安定性を研究することには、以下の意義があります:

  1. 心理学理論の検証:
    • 伝統的な発達心理学や性格心理学の理論では、成人期の性格は安定しているとされることが多いです(例: Costa & McCraeの「Big Five」理論)。一方、ライフステージ理論(Levinsonなど)では成人期に性格が変化する可能性が示唆されています。これらの仮説を検証することで、性格の本質に関する理解が深まります。
  2. 老年期の支援と介入:
    • 性格が安定しているのか、年齢とともに変化するのかを知ることで、老年期の心理的介入やサポートの設計に役立ちます。たとえば、変化しにくい性格要因に焦点を当てるのか、それとも変化可能な部分をターゲットにするのかを明確にできます。
  3. 社会的影響の理解:
    • 年齢に伴う性格変化が、内的(生理的、心理的)な要因によるのか、外的(文化、社会的役割)な要因によるのかを明らかにすることで、個人と社会の相互作用についての洞察が得られます。

主な結果

  1. 性格の年齢差:
    • 高齢者は神経症傾向、外向性、経験への開放性が若干低い。
    • 年齢に伴う変化は線形的であり、急激な変化は見られない。
  2. 性格の安定性:
    • 性格は成人期において基本的に安定している。
    • 中年期の危機(ミッドライフクライシス)に関連する性格変化は確認されなかった。
  3. サンプル間の比較:
    • ABLSAの参加者は外向性が低く、経験への開放性が高い傾向があるが、差は小さい。

考察

  • 性格の変化が小さいことは、個人の内的な安定性や調整メカニズムの存在を示唆している。
  • 年齢や社会的背景の変化が性格に与える影響は限定的である。
  • 中年期の危機は一部の人々に限られ、年齢に基づく一般的な現象ではない可能性が高い。

この研究は、性格の年齢に伴う変化について、広範な全国規模のデータを用いて検証し、成人期の性格の安定性を強調する内容となっています。

横断的研究と縦断的研究の意味

横断的研究縦断的研究は、研究デザインの方法を指し、それぞれに利点と限界があります:

  1. 横断的研究(Cross-sectional Study):
    • 定義: ある一時点で異なる年齢層の人々を比較する研究。
    • 特徴:
      • 一度きりのデータ収集で、短期間で結果が得られる。
      • 年齢層間の違いを比較することで、年齢による傾向を推測する。
    • 利点:
      • 大規模データを収集しやすい。
      • 迅速でコストが比較的低い。
    • 限界:
      • 同一世代間の違い(コホート効果)を分離できない。
      • 個人の変化ではなく、集団の平均的な違いを示すに過ぎない。
  2. 縦断的研究(Longitudinal Study):
    • 定義: 同一の被験者群を長期間にわたり追跡し、時間の経過とともに変化を観察する研究。
    • 特徴:
      • 時間による変化(発達や老化の影響)を直接観察できる。
      • 個人内の変化に焦点を当てることが可能。
    • 利点:
      • 発達や年齢による変化をより正確に捉えられる。
      • コホート効果の影響が少ない。
    • 限界:
      • 追跡中の脱落(attrition)が発生する可能性がある。
      • 長期間のデータ収集が必要で、コストが高い。

結果の一般化可能性を評価する意味

一般化可能性とは、研究結果を対象となる母集団全体に適用できる程度を指します。
これを評価することの重要性は次の通りです:

  1. データの代表性の確認:
    • 研究対象が母集団を代表しているかどうかを検討します。たとえば、特定の地域や社会経済的背景に偏ったサンプルでは、
      結果を他の集団に当てはめることが難しくなります。
  2. 方法論的バイアスの影響を理解する:
    • 縦断的研究では、参加者が途中で脱落したり(attrition)、
      自発的参加者に偏りが生じたりする可能性があります(例: 健康で裕福な人が研究に残りやすい)。
      この偏りが結果にどの程度影響しているかを比較することで、結論の信頼性を高めることができます。
  3. 横断的研究の限界補完:
    • 横断的研究は比較的簡単に大規模なデータを収集できますが、
      コホート効果(世代間の社会的・文化的違い)を考慮する必要があります。
      縦断的研究との比較により、横断的研究の結果がどの程度正確であるかを判断できます。

心理学的知見からの補足

  • 性格は一般に安定しているとされる一方で、
    特定のライフイベント(例: 仕事の転機、病気、喪失など)によって一時的に変化する場合もあります。
    この研究が示したように、これらの変化が年齢によるものか、
    個人の特性によるものかを分離することが、心理学的理解を深めます。
  • 性格安定性のメカニズムを解明することで、
    個人の成長や老化における心理的プロセスに関する新しい介入方法を開発することが可能です。

神経症傾向(Neuroticism)」「外向性(Extraversion)」「経験への開放性(Openness)」の3つの測定項目に絞った理由には、
心理学の理論的背景や実践的な理由が考えられます。

理論的背景

Big Five理論の基盤

  • これら3つの項目は、性格心理学の「Big Five」モデル(五因子モデル)に基づいています。
    このモデルでは、次の5つの主要因子が性格を包括的に説明するとされています:
  • この研究では、神経症傾向、外向性、経験への開放性の3つを選んでいますが、
    これらは五因子モデルの中でも特に以下の理由で注目されています:
    • 神経症傾向: 感情的安定性やストレス反応と深く関連し、老化や健康問題への影響を調べるのに重要。
    • 外向性: 社会的関係や活動性、幸福感との関連性が強く、加齢とともに変化する可能性を評価するのに適切。
    • 経験への開放性: 知的好奇心や創造性、学習意欲を反映し、特に加齢による変化が議論されてきた項目。
  • 他の2つの因子(協調性、誠実性)については、
    測定する際に社会的文脈や役割の影響が大きいため、
    性格の安定性の議論にはやや適しにくいと考えられる場合があります。

実践的な理由

データ収集の効率性

  • NHANES Iのような大規模調査では、
    質問項目を必要最小限に絞ることで、
    回答の質や参加者の負担を最小限に抑えることが求められます。
    このため、最も重要で代表的な項目に絞り込む必要があります。
    • 神経症傾向、外向性、経験への開放性は、
      それぞれ異なる側面(感情的側面、社会的側面、知的側面)をカバーするため、包括性を損なわずに測定可能です。

先行研究との整合性

  • この研究の前に行われた性格特性の測定法(Costa & McCrae, 1986)の開発において、
    これら3つの特性が精度高く測定可能であることが実証されています。
    そのため、同じ枠組みを用いることで、信頼性と妥当性が確保されます。

神経症傾向、外向性、開放性が持つ実践的な意義

  • 神経症傾向:
    • 高齢者に関する一般的なステレオタイプ(例えば「高齢者は不安や孤独を感じやすい」)を検証するための重要な指標。
    • 感情的安定性が健康や生活の質にどのように関連するかを明らかにする手がかり。
  • 外向性:
    • 社会的活動や幸福感に直結するため、老化に伴う社会的関係の変化を分析するのに適切。
    • 過去の研究では、外向性が幸福感や寿命に関連する可能性が指摘されています。
  • 経験への開放性:
    • 創造性や学びへの意欲が、年齢とともにどのように変化するかを評価可能。
    • 開放性の低下が、高齢期の保守的な態度や新しい体験への抵抗感と関連するかを調べる上で重要。

五因子の全項目を含めなかった理由

  • 研究目的やリソースの制約から、すべての因子を測定するのは現実的ではない場合があるためです。
  • この研究は、性格の年齢による変化や安定性に特化しており、
    対象特性として上記3つが最適と判断された可能性が高いです。

研究の応用可能性

  • 健康心理学:
    • 感情的安定性(神経症傾向)や活動性(外向性)が高齢者の心身の健康とどのように関連するか。
  • 老年期教育:
    • 開放性が学びや新しい活動への参加を促進するかどうか。
  • 社会政策:
    • 高齢者が社会的つながりを維持し、幸福感を高めるための支援策の基盤。

これらの測定項目の選定には、心理学的、実践的、社会的な視点が複合的に影響しているのです。

今回はどのような目的で研究調査されているのかという、
目的についてのお話としてこの題材を選んびました。

私たちの生きている世界では日々世の中を良くするために心理学的な分析が行われており、
分析を利用しているということを再認識していただければ幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

コスタ, P. T., Jr., マクレー, R. R., ゾンダーマン, A. B., バーバノ, H. E., レボウィッツ, B., & ラーソン, D. M. (1986). 『Cross-Sectional Studies of Personality in a National Sample: Stability in Neuroticism, Extraversion, and Openness』, 2025年1月11日アクセス.
https://www.researchgate.net/publication/247434005_Cross-sectional_studies_of_personality_in_a_national_sample_I_Development_and_validation_of_survey_measures