研究の目的は以下になります。
態度尺度の作成: 教える行為に対する態度を測定する尺度を開発。
関連性の検討: 態度が性格特性(Big Five)や経験とどう関連するかを明らかにする。
教えることとビッグファイブがどのように関連しているかを調べる事で、
指導するのに向いているタイプかどうかなどを知る手掛かりになる内容です。
お話を進めていきます。
教えることに向き不向きはあるのか
調査方法は以下のようにして行われました。
対象者: 成人178名を対象。性別や年齢も記録し、質問紙調査を実施。
項目分類: 質問項目を以下の6分類で作成:
教えることの好悪
教える行動
教えられることへの考え方
教えることへの自信
教える価値観
成功を収めた時の誇らしさ(ナヘツ)。
※ナヘツとは、この研究で使用されている用語で、自分が何かを教えたりアドバイスしたりした相手が成功を収めたときに感じる誇らしい感情を指します。
この概念は、McGonigal (2011) の研究に基づき、「他者の成功を見て喜びや誇りを感じること」を心理的に重要な感情として定義しています。
具体例:
- 教えた相手が試験に合格したときに感じる誇り。
- アドバイスした同僚がプロジェクトで成果を上げたときの喜び。
- 子どもや部下が成長して目標を達成したときの達成感。
この感情は、教える行為への動機づけや満足感を高める要素として分析されています。
因子分析と結果
- 因子分析: 3つの因子を抽出。
- 信頼性: 各因子の信頼性係数(Cronbachのα)は0.72~0.90と高い。
1. 3因子を抽出した理由
この研究では、教える態度をより具体的かつ多面的に捉えるために、因子分析を行いました。
最尤法とPromax回転を用いた分析の結果、以下の3因子が抽出されました。
- 教えることへの自信
- 自己評価や他者評価に基づく自信を測定する項目で構成。
- 高い負荷量を示した項目には「教え方がうまいと言われる」や「教える自信がある」などが含まれます。
- 教えることの価値
- 教えることの意義や喜び、他者への肯定的影響を評価する項目群。
- 「教えることは大切な技能だと思う」や「教えた相手が成長したときにうれしい」といった項目で構成。
- 教える相手次第
- 教える結果が相手の努力や姿勢によると考える視点を評価。
- 「やる気のない人に教えても無駄だと思う」といった内容を含む。
この3因子は、因子負荷量に基づいて、概念的に明確で異なる領域を示したため採用されました。
2. 信頼性とは何か
信頼性とは、測定尺度が一貫して安定した結果を提供できるかを示す指標です。
この研究では、尺度の内部一貫性を検証するためにCronbachのα係数が使用されました。
- 基準値: 一般にα値が0.7以上であれば信頼性が高いとされます。
- 結果: 各因子のα係数は以下の通りでした。
- 教えることへの自信: 0.90(非常に高い信頼性)
- 教えることの価値: 0.79(高い信頼性)
- 教える相手次第: 0.72(十分な信頼性)
これにより、各因子は測定項目の内部一貫性が高く、信頼性が確保されたことが確認されています。
3. 分析視点からの補足
本研究では、Big Five性格特性との関連分析を行い、尺度の妥当性も検証しています。
因子分析の妥当性
尺度開発のプロセスでは、質問項目が理論的概念に合致しているか検証されます。
最尤法とPromax回転は、因子間に相関があることを前提に使用される方法であり、今回のデータでは因子間の関係も分析されています。
信頼性の重要性
高い信頼性は、測定結果が再現可能であることを示し、長期的な研究や他の調査への応用が可能になります。
特に教育心理学では、感情や態度を測定する際に一貫性が確保されることで、介入効果や変化を正確に評価できます。
妥当性との関係
信頼性が高い場合でも、その尺度が測定したい内容を正確に測っているか(妥当性)も重要です。
Big Five性格特性と教える態度の関連性について
1. 外向性・協調性・勤勉性と教えることへの自信の正の相関
- 外向性 (r = .21, p < .01)
外向的な人は社交的で他者と積極的に関わる傾向があります。
このため、教える行為をポジティブに捉え、相手とのコミュニケーションに自信を持ちやすいと考えられます。 - 協調性 (r = .15, p < .05)
他者への配慮や共感力が高い人は、教える相手への理解を深め、
適切な指導ができることで自信を高めます。 - 勤勉性 (r = .28, p < .01)
計画的で目標達成に向けて努力する傾向があるため、
教えることの準備や実践において高いパフォーマンスを発揮し、自信を得やすくなります。
これらの性格特性は「他者からの評価」や「目標達成の成功体験」によって自信を強化する傾向があるため、
教える態度においてもポジティブに作用します。
2. 神経症傾向と教えることへの自信の負の相関
- 神経症傾向 (r = – .27, p < .01)
神経症傾向が高い人は、不安や自己否定感を抱きやすく、
失敗を過度に恐れるため、教える場面での自信を持ちにくくなります。
心理学的視点では、この特性はストレス耐性の低さや自己効力感の不足を反映しており、
対人関係の困難さから教える行動に消極的になる可能性があります。
3. 関連性の解釈と応用
- 外向性・協調性・勤勉性の強化: これらを高めることで、
教えることへの自信を育むトレーニングが可能です。例として、グループ活動やフィードバックを取り入れた教育プログラムが効果的です。 - 神経症傾向への対応: 不安を軽減するマインドフルネスやリラクゼーション技法を用いることで、自信の回復やストレス耐性を強化する介入が役立ちます。
4. 結論
この研究は、教える態度が性格特性によって影響を受けることを明らかにし、
特に外向性や勤勉性が自信を高める要因である一方で、
神経症傾向が阻害要因になることを示しました。
心理学的視点からは、自己効力感の向上やストレス管理を組み合わせたアプローチを活用することで、
より効果的な教育活動が期待できると考えられます。
特性により、教えることに対する内面の傾向が向き不向きとなるのでは?
ということを示唆する内容でした。
あなたはどのように感じられましたか。
次回でもこの教えることについてさらに深ぼってお話を進めていきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
参考資料
早坂昌子・向後千春 (2017). 『教えることについての態度尺度作成とBig Five性格特性との関連』, 2024年12月26日アクセス. https://doi.org/10.15077/jjet.S41093
教えることとBig Five性格特性との関連2へつづく