有効なフィードバックと1on1と心理的安全性2

前回は肯定的と否定的なフィードバック、
教育におけるフィードバックの定義と、
教育現場でのフィードバックの活かし方についてでした。

ここではビジネスにおけるフィードバックとはなんぞやについてみていきます。

フィードバックを定義する

ビジネスの場面では、フィードバックは次のように定義されます。

1.ビジネスにおけるフィードバックの定義

フィードバックは、
個人やチームのパフォーマンスや行動に対して提供される情報であり、
業務目標の達成職場文化の改善個々の成長を目的とするプロセスを指します。

  • タスク指向のフィードバック
    業務目標やタスクの進捗に基づき、達成度や改善点を伝える。
    • 例:「この報告書は十分に要点が整理されていますが、データの出典を明記するとさらに信頼性が高まります。」
  • 行動指向のフィードバック
    職場での行動や対人スキルに基づき、
    より良いチームワークや職場環境の構築を目指す。
    • 例:「会議中にアイデアを提案したのは良かったですが、
      他のメンバーの意見を聞く時間も意識しましょう。」
  • 個人の成長を促すフィードバック
    スキルの向上やキャリア形成を支援する長期的視点に立ったもの。
    • 例:「あなたのリーダーシップスキルは着実に伸びています。
      次のプロジェクトではメンバーの役割分担にもっと関与してみましょう。」

2. マネジメントからの観点

マネジメントの視点から、フィードバックを効果的に活用するためには次の要素が重要です。

(1)目的を明確にする

  • フィードバックを提供する際には、その目的を明確にする必要があります。
    たとえば、「個々のスキル向上」「チーム全体のパフォーマンス向上」「組織文化の改善」など。

(2)双方向のコミュニケーションを重視

  • フィードバックは一方的な指摘ではなく、双方向の対話であるべきです。
    相手の視点や意見を聞き、共に改善策を見出す姿勢が信頼を高めます。

(3)学習と行動変容を支援

  • フィードバックのゴールは「行動の変容」です。
    そのため、相手が具体的な次のステップを理解できるような内容にする必要があります。

(4)フィードバック文化の構築

  • フィードバックは単発的なイベントではなく、
    組織文化として根付かせることが重要です。
    これには、上司から部下へのフィードバックだけでなく、
    部下から上司、
    同僚同士のフィードバックを含めた多方向のコミュニケーションを促進する必要があります。

(5)適切なトレーニングの提供

  • フィードバックのスキルは訓練が必要です。
    上司やリーダーに対して、効果的なフィードバック方法を教えるプログラムの導入が推奨されます。
    1on1は有効なスキル向上の訓練となります。

3. 成長を促すフィードバックへ進化するには

フィードバックの効果は、
提供方法や環境に強く依存します。

肯定的な効果を生むためには、
具体性、タイミング、心理的安全性が鍵となります。

ビジネスの場では、フィードバックは単なる評価ではなく、
成長と改善のためのツールとして機能します。

教室のフィードバックの理論をビジネスに適用することは、
フィードバックがうまくいっていない、
部下の成長を邪魔しているのではと感じていただいている管理職層には非常に有効内容なります。

ビジネス活用へ発展させるには、組織全体で心理的安全性を担保し、
フィードバック文化を構築することが重要です。

フィードバックについては見ていきましたが、有効性についてはお話しておりませんので、
どんな場面で有効となるかなどを見ていきます。

1. フィードバックの有効性とは?

Hattie(1999)の研究によると、
フィードバックは教育やビジネス現場において、
成果向上に大きな影響を与える要素の1つです。

特に、その質やタイミング、受け手の状態によって有効性が左右されるため、
状況や相手の状態を適切に把握することが重要です。

以下では、教育とビジネス現場における具体的なシナリオとフィードバックの効果的な使い方を詳しく説明します。

2. 教育現場での具体例と有効なフィードバック

(1) 初期学習段階の生徒へのフィードバック

  • 状況: 新しい単元を学び始めた生徒。基礎知識がまだ不十分。
  • 効果的なフィードバック: タスク中心のフィードバック
    • 「この問題では計算式の使い方は合っています。
      ただし、最後の答えを導く手順で確認が必要です。」
    • 理由: 生徒がタスクの進め方や基本的なエラーを理解できるようサポートし、
      確実な基礎を築ける。

(2) 中級レベルで自己調整能力を高めたい生徒へのフィードバック

  • 状況: 自主学習を始めた生徒。
    複雑な課題に取り組む中で戦略やアプローチに課題がある。
  • 効果的なフィードバック: プロセス中心のフィードバック
    • 「このレポートではデータ分析の方法はよく考えられています。
      ただし、結論に至る根拠をもう少し論理的に整理してみましょう。」
    • 理由: 学習プロセスの見直しや戦略の改善を促し、次のステップにつなげる。

(3) 高度な自己調整能力を持つ生徒へのフィードバック

  • 状況: 高度な課題を達成した生徒。自発的に学習を進める意欲が高い。
  • 効果的なフィードバック: 自己調整中心のフィードバック
    • 「今回のプレゼンテーションでは、
      データの使い方が効果的でした。この成功を活かして、
      次回はもっと質疑応答に時間を割く計画を立ててみましょう。」
    • 理由: 自己調整スキルを強化し、自ら学習プロセスを改善する力を育む。

3. ビジネス現場での具体例と有効なフィードバック

(1) 新入社員へのフィードバック

  • 状況: 入社したばかりで業務プロセスを理解中。基本業務の習得が課題。
  • 効果的なフィードバック: タスク中心のフィードバック
    • 「報告書のフォーマットは適切ですが、数字の根拠を明記することでより説得力が増します。」
    • 理由: 新入社員はタスクを具体的に理解し、業務基準に適応できるようになる。

(2) 中堅社員へのフィードバック

  • 状況: 独立した業務を担当しているが、成果をさらに向上させたいと考えている。
  • 効果的なフィードバック: プロセス中心のフィードバック
    • 「プロジェクト管理スキルは優れていますが、リスク管理計画を事前に作成すると、さらに成功率が上がります。」
    • 理由: プロセスの改善を促し、成果を一段階引き上げるための具体的な提案を行う。

(3) リーダー層へのフィードバック

  • 状況: 部下を指導しながらチームを管理している管理職。リーダーシップや意思決定力の強化が必要。
  • 効果的なフィードバック: 自己調整中心のフィードバック
    • 「このプロジェクトでは成果が出ていますが、次の案件ではチームメンバーへの権限移譲を増やすことで、さらに組織力を高められます。」
    • 理由: 自律的に改善策を考えるきっかけを提供し、長期的なリーダーシップスキルを強化する。

4. 状態別フィードバックのポイント

(1) 初学者・新人

  • フォーカス: タスクや手順の明確化
  • 目的: 自信を持たせ、学習や業務への理解を促進する。
  • : 「基本操作はできています。次はタイムマネジメントを意識してみましょう。」

(2) 中堅者・成長期

  • フォーカス: プロセスの改善と応用力の強化
  • 目的: 自己効力感を高め、次のステップへの意欲を促進する。
  • : 「タスクの整理はできていますが、優先順位付けの判断を強化するとさらに効率が上がります。」

(3) 熟練者・管理者

  • フォーカス: 自己調整力とチームへの影響力の向上
  • 目的: 自律的なリーダーシップの強化と組織全体の成長を促す。
  • : 「プロジェクト管理は順調ですが、さらに部下の成長を意識した育成計画を立てると長期的な成果につながります。」

5. マネジメントの視点からの結論

フィードバックは、その種類(タスク・プロセス・自己調整)と
相手の状態(初学者・中堅・熟練者)に応じて適切に設計されることで、
高い効果を発揮します。特に、以下の点を押さえることで、
教育とビジネスの両分野において成果を最大化できます。

  • 具体的で行動可能な内容を伝える。
  • 心理的安全性を確保し、相手がフィードバックを前向きに受け入れられる環境を整える。
  • 次のステップ(フィードフォワード)を示し、成長を促す

教育では学習の促進、ビジネスではパフォーマンス向上を目的としつつ、
個々の状況に応じたフィードバック戦略を構築することが、
マネジメントを有効にするための近道です。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Hattie, J. & Timperley, H. (2007). 『The Power of Feedback』, Review of Educational Research, 77(1), pp. 81–112. 2024年12月19日アクセス. https://doi.org/10.3102/003465430298487

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