母親と子供の性格特性の類似性

母親と子供の性格の類似性という論文があります。
親御さんであればとても気になるのではないでしょうか。

ビッグファイブ分析と関連させるとどのようになるか。
果たして母親と子の性格は似るのか、似て非なるものとなるのか。
お話を進めていきます。

母親の性格と子供の性格の類似性

研究方法

  • 対象: 15組の母親と5歳の子供を対象に調査。
  • 性格検査: 「新性格検査」を使用し、母親自身と子供の性格を測定。12個の性格特性を評価。

考察と結論

  • 母親と子供の性格は特定の特性で強く類似するが、
    それは遺伝的影響と環境的要因の両方によると考えられる。
  • 特に「活動性」は最も高い類似性を示し、
    遺伝要素が強く関与している可能性が高い。
  • 一方、「社会的外交性」などは環境的要因の影響が大きく、
    学習や経験によって形成される傾向がある。

補足事項

  • この研究では父親との関係性を調査していないため、
    父方の遺伝的影響については不明。
  • 性格は可塑性(変化し得る性質)があり、
    親から譲り受けた特徴が一生変わらないわけではないことも強調されています。

この論文で用いられた性格検査(「新性格検査」)は、
ビッグファイブ(Big Five Personality Traits)とは直接的に同じ枠組みを使用していません。

しかし、一部の測定項目や性格特性は、
ビッグファイブと関連づけて考えることができます。

ビッグファイブとは?

ビッグファイブは、以下の5つの性格特性に基づく性格理論です:

  1. 外向性 (Extraversion) – 社交性や活動性に関連。
  2. 協調性 (Agreeableness) – 共感性や他者との調和を重視する傾向。
  3. 誠実性 (Conscientiousness) – 自制心や計画性、責任感。
  4. 神経症傾向 (Neuroticism) – 情緒不安定さやストレスへの脆弱性。
  5. 開放性 (Openness to Experience) – 創造性や新しい経験への興味。

ビッグファイブとの比較分析の視点

  • 外向性と活動性・社会的外交性の関連性
    本研究では「活動性」が母子間で最も類似性が高い特性として挙げられています。
    これはビッグファイブの「外向性」と一致する特性であり、遺伝要素が強い可能性を示唆しています。
  • 協調性と共感性・非協調性の関連性
    「共感性」は親子間で5%水準の有意性があり、
    ビッグファイブの協調性と一致します。
    一方で、「非協調性」は協調性の低い側面を表しており、
    こちらも1%水準で有意でした。
  • 神経症傾向と神経質・抑うつ性の関連性
    「神経質」と「抑うつ性」は、ビッグファイブの神経症傾向に対応し、
    遺伝的要素が強いことが本研究で示唆されています。
  • 誠実性と持久性・規律性の関連性
    「持久性」は5%水準で有意性があり、
    ビッグファイブの誠実性と関連付けられます。「規律性」は有意ではありませんでしたが、
    環境要因の影響が強い可能性があります。
  • 開放性と進取性の関連性
    「進取性」は環境要因が強いとされ、
    ビッグファイブの開放性と概念的に類似しています。

結論

この研究はビッグファイブを直接扱ったものではありませんが、ビッグファイブの特性と重なる部分が多く、特に「活動性」「神経質」「共感性」などはビッグファイブモデルと一致する側面が見られます。

ただし、論文では親子間の特性類似性の遺伝的要因と環境的要因に重点を置いているため、ビッグファイブと完全に一致する尺度ではなく、日本独自の尺度を用いている点に注意が必要です。

ビッグファイブ分析の対比および心理学的解釈

1. 研究結果の概要

この研究では、母親と子供の性格的特徴の類似性を分析し、
遺伝的要因環境的要因の影響を検証しました。

主な結果:

  1. 遺伝的影響が強いと示唆された特性(1%水準で有意):
    • 活動性、非協調性、神経質、抑うつ性
  2. 環境的影響も考慮される特性(5%水準で有意):
    • 共感性、持久性、攻撃性
  3. 有意な関連が認められなかった特性:
    • 社会的外交性、進取性、規律性、自己顕示性、劣等感

1. 結果の正確な解釈

有意な関連が認められなかった特性
  • 社会的外交性
  • 進取性
  • 規律性
  • 自己顕示性
  • 劣等感

論文の結果:
これらの特性は、母子間で統計的に有意な類似性が認められなかったという結果です。


2. 遺伝的要因との関係について

  • これらの特性は、遺伝的要因の影響が弱い、またはほとんど見られない可能性を示唆しています。
  • 遺伝の影響が弱いため、環境的要因の影響を受けやすい特性である可能性が高いです。

補足説明:
心理学では、遺伝の影響が弱い特性ほど、環境要因によって強化・修正されやすいとされています。


3. 環境的要因との関係について

  • これらの特性は、幼少期(5歳)の段階では、まだ環境的要因が十分に影響を与えておらず、発達過程の途中である可能性があります。
  • 環境の影響を受けて育つ特性であるため、成長とともに変化しやすく、長期的な観察が必要です。

具体例:

  • 社会的外交性は、親や友人との交流や学校生活を通じて強化されることが多く、5歳時点では環境の影響がまだ顕在化していない可能性があります。
  • 規律性自己顕示性は、親のしつけや社会的評価を受ける経験が蓄積されることで後年に形成される傾向があります。

4. 発達心理学の視点からの解釈

  • 年齢による変化: 幼児期は、気質や生得的要素が強調される一方で、環境要因による性格形成は6歳以降から顕著に現れるとされています。
  • 遺伝と環境の相互作用: 遺伝的要素が強く反映される特性は幼少期から明確になりますが、環境要因による修正が大きく影響する特性は、学童期以降に変容しやすい傾向があります。

5. 各特性に関する具体的な補足

特性発達的解釈(心理学視点)
社会的外交性環境要因による影響を強く受ける特性。5歳では形成途上にあり、友人関係や学校経験が増えることで徐々に発達する。
進取性新しい経験や教育による影響を受けやすい特性。幼児期は自己主張が発達段階にあり、思春期以降に顕著な違いが見られる可能性が高い。
規律性教育や家庭環境の影響で育まれる特性。幼児期ではしつけや生活習慣による影響がまだ十分でなく、年齢とともに高まる可能性がある。
自己顕示性他者評価や競争環境の影響を受けやすく、思春期や青年期に発現しやすい特性。幼児期では自己表現が発達段階で未成熟な状態にある。
劣等感自己肯定感や他者との比較によって形成されるため、幼児期ではまだ自己概念が確立されておらず、有意な傾向が現れにくい。

6. 遺伝・環境双方における位置づけ

  1. 遺伝的要因の影響は弱い。
    • これらの特性は生得的な要素よりも環境要因による形成・修正の影響を強く受ける可能性があります。
  2. 環境要因によって後年に発達する特性。
    • 5歳時点では発達途上であり、学校教育や家庭環境、
      社会経験を通じて変容・強化される余地が大きい特性です。
  3. 長期的な観察と発達研究が必要。
    • これらの特性は成長過程で顕著に変化しやすいため、
      学童期以降の追跡調査が必要です。

重要な心理学的視点

これらの特性が有意でなかった理由は、
「発達段階における未成熟さ」や「環境要因の影響がまだ表れていないこと」による可能性が高く、
遺伝的にも環境的にも無関係であるという結論ではありません

成長とともに、
教育や社会経験を通じて修正・強化される特性であるため、
後年に類似性が高まる可能性が十分にあることを考慮する必要があります。

このような特性の発達を理解するためには、
継続的な調査と環境要因との関連性を検証する研究が求められます。

母と子の類似性に遺伝的要因が影響するという前提と、
ビッグファイブが環境的要因の影響を強く受けるという観点を統合すると、
以下のような分析結果や発展的解釈が考えられます。

1. 分析結果の発展モデル:遺伝と環境の相互作用モデル

(1) 遺伝的要因による基盤形成

  • 幼児期(0〜6歳)では、
    遺伝的要因に基づく気質(temperament)が強く反映される時期です。
  • 論文で示された「活動性」「神経質」「抑うつ性」などは、
    生得的な気質として親子間で類似性が高いとされています。

(2) 環境的要因による修正と強化

  • 学童期以降は、環境要因(教育、家庭環境、友人関係)が影響を与え始め、
    遺伝的基盤を土台にしてビッグファイブ的な性格特性が発達・修正されると考えられます。
  • 特に「協調性」や「誠実性」は、
    社会的学習や教育環境によって強化される傾向が強く、
    親子の類似性は時間とともに高まる可能性があります。

2. 特性別の発展的解釈:遺伝と環境の統合分析

特性(論文)遺伝的要因の影響環境的要因の影響(ビッグファイブ視点)
活動性遺伝的基盤が強く、幼児期に類似性が顕著。親の行動スタイルや育児環境の影響で強化され、学童期以降に外向性がさらに発達。
共感性遺伝的要素は中程度。観察学習による模倣や親の態度が影響を与える。環境要因(共感的な親の行動や学校教育)により、協調性が発達・強化される。
神経質遺伝的要因が強く、幼少期から安定的に表れる。親のストレス管理や情緒的安定のモデルによって緩和される可能性がある。
抑うつ性遺伝的基盤が強く、母親の心理状態と相関しやすい。環境要因(家庭環境やサポート体制)によって成長とともに改善または強化される。
攻撃性遺伝要因の影響は中程度。行動パターンが親から受け継がれる可能性がある。環境的しつけや社会的ルールの学習を通じて抑制される傾向がある。
規律性遺伝要素は弱く、環境要因が優位。規律ある生活習慣や教育方針によって学習され、誠実性として形成される。
進取性遺伝要素は弱く、環境刺激の影響が大きい。新しい経験や教育によって促進される特性で、開放性として発達する可能性がある。
劣等感遺伝的要因よりも環境要因が影響しやすい特性。自己肯定感や自信を高める教育プログラムやサポートによって改善されやすい。

3. 心理学的な発展的考察

(1) 遺伝と環境の相互作用(GxE)モデルの適用

この結果は、遺伝と環境の相互作用(GxEモデル)として発展的に解釈できます。

  • 遺伝の役割: 幼児期における気質的要素を基盤として性格形成が始まる。
  • 環境の役割: 学童期以降、遺伝的要素を土台に社会的学習や教育によって性格が修正・強化される。

具体例:

  • 「活動性」は幼児期に遺伝的に強く表れるが、
    学童期の友人関係や社会的経験を通じてビッグファイブの「外向性」として発達する。

(2) 発達心理学の視点:時系列モデル

心理学的には、発達段階による性格特性の変化モデルも適用できます。

  • 幼児期(0〜6歳): 遺伝的要因が強調され、
    気質が性格形成の基盤になる。
  • 児童期(6〜12歳): 環境的要因(教育、友人関係)が強く作用し始め、
    ビッグファイブ的特性が形成される。
  • 思春期(12〜18歳): 環境要因がピークに達し、
    遺伝的要素と環境的要素が統合される。
  • 成人期(18歳以降): 性格特性は安定化し、
    遺伝と環境が相互作用した結果が明確になる。

4. 今後の発展的研究課題

  1. 縦断研究の必要性:
    • 幼児期から成人期までの追跡調査を行うことで、
      環境要因による性格特性の修正・強化を明らかにする。
  2. 家庭環境と教育環境の影響分析:
    • 親の育児方針、教育スタイル、
      文化的背景が性格特性に与える影響を詳細に分析する。
  3. 父親の影響の検証:
    • この研究は母親のみを対象としていたため、
      父親の影響を含めた分析を加えることで、
      遺伝的要因と環境要因のバランスをさらに明らかにする。
  4. 双生児研究や養子研究の比較分析:
    • 遺伝的要因をより明確にするため、
      双生児や養子研究を用いて性格特性の遺伝と環境の割合を分析する。

5. 結論:心理学的視点からの分析結果の発展

この研究結果は、遺伝的基盤が幼児期の性格特性に強く反映される一方で、
環境要因によって学童期以降にビッグファイブ的特性が修正・強化されるという発展的なモデルを示唆しています。

心理学的な視点では、遺伝と環境の相互作用(GxEモデル)や発達段階モデルを用いて、
性格特性の形成と変容を長期的に分析する必要性が強調されます。

遺伝的要因は父親と母親の両方から等しく影響を受けると研究では考えられています。
ただし、以下のような要因や状況によって影響の現れ方が異なるとされています。


1. 遺伝の基本原理:両親からの均等な遺伝

(1) 遺伝子の受け継ぎ方

  • 子供は50%ずつ父親と母親の遺伝子を受け継ぐため、生物学的な遺伝的影響は基本的に両親から等しいとされています。
  • 性格に関わる多くの特性は多因子遺伝(polygenic inheritance)であり、1つの遺伝子ではなく複数の遺伝子が関与します。

(2) 心理学的研究の成果

  • **行動遺伝学(Behavioral Genetics)による研究では、
    特定の性格特性(例:外向性や神経質)は遺伝的要素が約40〜50%影響すると報告されています(Bouchard & McGue, 2003)。
  • 残りの50〜60%は環境要因(家庭環境、教育、文化など)によって形成されると考えられています。

2. 母親と父親の役割の違い

(1) 母親の影響

  • 胎内環境と早期養育の影響:
    • 母親は胎内環境を通じて子供に影響を与えるため、
      出生前のホルモン状態やストレスレベルも性格形成に関わります。
    • 生後も愛着形成(Attachment Theory, Bowlby, 1969)を通じて、
      情緒的安定や対人関係の基礎を築く重要な役割を果たします。
  • 研究例:
    • 母親の抑うつや不安が高い場合、
      子供の神経症傾向が高くなる傾向がある(Goodman & Gotlib, 1999)。

(2) 父親の影響

  • 社会的行動や規範意識への影響:
    • 父親は特に子供の社会的行動や規律、
      挑戦的な行動への適応に影響を与えることが示されています。
    • モデリング理論(Bandura, 1977)では、
      父親が示す行動パターンが模倣されやすいことが強調されています。
  • 研究例:
    • 父親の「規律性」や「誠実性」が高いと、
      子供のビッグファイブの「誠実性」が高くなりやすいとされる(Sanson & Smart, 2004)。

3. 片親家庭の場合の影響

(1) 母子家庭の場合

  • 母親が主な育児者である場合:
    • 母親の性格や行動パターンが強く反映される傾向があります。
      特に情緒的サポートや社会的スキルの形成に大きく影響します。
    • ビッグファイブの協調性神経症傾向に強く影響を与えることが多いです。
  • 研究例:
    • 母子家庭の子供は母親の情緒的安定が低い場合、
      神経症傾向が高まる傾向がある(Amato & Keith, 1991)。

(2) 父子家庭の場合

  • 父親が主な育児者である場合:
    • 規律性や社会的行動(外向性、自己主張)が発達しやすい傾向があります。
    • 父親はモデルとしての役割を強調されやすく、環境要因を通じた影響が高まります。
  • 研究例:
    • 父子家庭の子供は誠実性進取性が強調される傾向がある(Lamb, 2010)。

4. 環境要因との相互作用(GxEモデル)

遺伝要因と環境要因は相互作用(Gene-environment interaction: GxE)するため、
次のような現象が起こる可能性があります。

  1. 遺伝要因が環境に影響を与える(遺伝の活性化)
    • 活動的な親が子供に活発な環境を提供することで、外向性がさらに強化される。
  2. 環境要因が遺伝要因を修正する(環境の修正力)
    • 母親が神経症傾向を持つ場合でも、父親が安定した環境を提供することで、
      子供の情緒的安定が保たれる。
  3. 片親の場合、もう一方の親の特性を補う可能性
    • 片親でも育成環境の質が高ければ、遺伝的要素の影響を修正・補完することができるとされています。

5. 結論と心理学的視点

  1. 遺伝的要因は父親・母親から50%ずつ受け継がれる。
  2. 母親は情緒的安定や愛着形成への影響、父親は社会的行動や規律性への影響が大きい。
  3. 片親の場合でも、環境要因の補完が可能であり、育成スタイルが性格形成に大きく関わる。
  4. 遺伝的要素は基盤となるが、環境要因がその特性を修正・強化するため、
    発達段階に応じて性格特性は変容する。

最終的な考察:遺伝と環境のバランス

心理学の最新の研究は、
性格形成において遺伝50%:環境50%の相互作用を重視しています。

片親であっても、高品質な育成環境が提供されれば、
性格特性は発達し、遺伝的要因の影響を補完できることが示唆されています。

遺伝的要因はあるものの、結果として環境による影響が性格に大きな影響を与えるということです。
遺伝的な特性を活かすには、環境が大切ということであると言えます。
これはビジネスにおいても、働く環境の良し悪しがとても重要であると言えます。

HR CONCIERGEは、「働くことが楽しいと思える組織構築」のお手伝いをしております。
これからも、組織活性化のための気づきやヒントになる情報をお伝えしていきます。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

牧野順四郎・中尾彩子(2019). 『母親と子供の性格の類似性』, 2024年12月22日アクセス. 修紅短期大学紀要 第39号, 9-17.https://www.jstage.jst.go.jp/article/shuko/39/0/39_9/_article/-char/ja