今回の研究はPortia S. Dyrenforth博士による心理学の博士論文で、
「ビッグファイブ性格特性と関係満足度:アクター、パートナー、
および類似性の効果」をテーマにしています。
この研究は、イギリス、オーストラリア、
ドイツの大規模な全国代表サンプルを使用して、
性格特性が夫婦関係や生活満足度に与える影響を調査しています。
この研究では、結婚生活における満足度(関係満足度)が、
夫婦それぞれの性格特性に大きく関係していることが明らかになっています。
※補足:ビッグファイブ性格特性とは?
人間の性格を5つの大きな特性で説明するモデルです。
各特性は連続的で、どの程度その特性を持つかが個人によって異なります。
参加者の性格特性は以下の5つの領域で測定されました。
- 外向性(Extraversion): 外交的、活発的な特性
- 調和性(Agreeableness): 協調的、共感的な特性
- 誠実性(Conscientiousness): 計画的、責任感のある特性
- 神経症的傾向(Neuroticism): 感情の不安定さ、ストレス耐性の低さ
- 開放性(Openness to Experience): 好奇心旺盛で新しい体験に対して前向き
ビッグファイブは、人がどんな性格かを5つの特徴で大まかに説明できるモデルです。
これを知ることで、自分の強みや課題、他の人との違いが理解できるようになります。
ビッグファイブ性格特性と関係満足度の関係
(1) 外向性(Extraversion)
- 効果: 外向性が高い個人は、よりエネルギッシュで社交的であるため、
自身の満足度を高める傾向があります(アクター効果)。 - パートナー効果: パートナーが外向的であることは関係満足度に影響を与える場合がありますが、
その効果は他の特性ほど一貫していません。
(2) 調和性(Agreeableness)
- 効果: 調和性が高い人は他者に対して思いやりがあり、対立を避ける傾向があるため、自身の関係満足度が高くなります。
- パートナー効果: パートナーが調和性の高い性格の場合、関係満足度が向上する傾向があります。
(3) 誠実性(Conscientiousness)
- 効果: 誠実性が高い人は責任感が強く、計画性があるため、
パートナーとの関係を安定させ、満足度を高める効果があります。 - パートナー効果: 誠実性が高いパートナーを持つと、
その関係はより安定しやすく満足度が向上します。
(4) 情緒安定性(Emotional Stability)
- 効果: 情緒安定性が高い(ネガティブ感情が少ない)人は、
ストレスの管理がうまく、自分の関係に満足しやすいです。 - パートナー効果: パートナーが情緒安定性の高い性格であることは、
関係満足度に強い影響を与える特性の一つです。
(5) 開放性(Openness)
- 効果: 開放性が高い人は新しい経験に積極的で、
柔軟性があるため、関係満足度にプラスの影響を与えることがあります。 - パートナー効果: 開放性の高いパートナーは、
関係における創造性や新鮮さを促進しますが、影響は他の特性ほど一貫していません。
1性格の類似性と関係満足度の関係
(1) 類似性が満足度に与える影響
- 夫婦間で性格が似ている(類似性が高い)場合、
関係満足度が高いとする研究結果がありますが、
一貫性は見られませんでした。 - 例えば、外向性や調和性などの特性で夫婦間の類似性があっても、
それが満足度に直接つながるとは限らないことが示されています。
(2) 類似性よりも重要な特性
- この研究では、夫婦間の性格の類似性よりも、
個人の性格そのもの(アクター効果、パートナー効果)が
関係満足度において重要であることが強調されています。
(3) 類似性の測定と結果の違い
- 類似性を測定する方法によって結果が異なる場合があります。
- 平均的なスコアの差(elevation): パートナー間の性格スコアの差を絶対値で計算する方法では、
一貫して関係満足度に影響がないことが示されました。 - プロファイルの形(shape): 各性格特性のスコアパターンが似ているかどうかを測定する方法では、
オーストラリアのサンプルで満足度との関連が見られましたが、
他のサンプルでは再現されませんでした。
- 平均的なスコアの差(elevation): パートナー間の性格スコアの差を絶対値で計算する方法では、
満足度に影響を与える因子
- ビッグファイブ性格特性では、「調和性」「誠実性」
「情緒安定性」が関係満足度に最も大きく影響を与える。 - 性格の類似性は一貫した効果を持たず、満足度に影響を与える主な要因ではない。
- 満足度を高めるためには、性格そのもの(特に情緒安定性や調和性)が重要であり、
夫婦間の性格の類似性を重視する必要性は低い。
アクター効果とパートナー効果
個人の性格特性(アクター効果)の重要性
- 夫婦関係における満足度は、
主にその人自身の性格特性に左右されることが分かっています。 - 特に「調和性(Agreeableness)」「誠実性(Conscientiousness)」
「情緒安定性(Emotional Stability)」が強く関連しており、
これらの特性が高い人ほど結婚生活に満足しやすい傾向があります。
パートナーの性格特性(パートナー効果)の影響
- パートナーの性格特性も関係満足度に一定の影響を与えることが示されています。
- 例えば、パートナーが「調和性」や「情緒安定性」が高い場合、
その人の満足度も高くなる傾向があることが確認されています。
アクター効果がパートナー効果より強い理由
- 自分の性格特性が直接影響するため
- 自分の性格は、自分の行動や感情に直結し、
日常生活のあらゆる場面で関係満足度に直接影響を与える。 - 例: 情緒安定性が高い人はストレスに対処しやすく、満足度が高まる。
- 自分の性格は、自分の行動や感情に直結し、
- 自己中心的な視点(エゴセントリズム)の影響
- 人は自分を中心に物事を捉える傾向があり、
自分の行動や感情を関係満足度においてより重要視する。
- 人は自分を中心に物事を捉える傾向があり、
- パートナー効果が間接的な影響にとどまるため
- パートナーの性格特性の影響は、
自分の視点や行動を通じて間接的に作用するため、アクター効果ほど強く現れない。 - 例: パートナーが調和性が高くても、
自分が情緒不安定だと満足度は低い可能性がある。
- パートナーの性格特性の影響は、
これらの理由から、
アクター効果はパートナー効果よりも影響力が強いとされています。
ビッグファイブ性格特性ごとのアクター効果
それぞれの性格特性が自分自身の関係満足度にどのように影響を与えるかを詳しく説明します。
1. 外向性(Extraversion)
- アクター効果: 外向的な人は、ポジティブな感情や楽観性を持ち、
パートナーとの交流を楽しむ傾向があるため、満足度が高まる。 - 具体例: 外向的な人は、夫婦の会話や共同作業を積極的に楽しむため、関係が充実しやすい。
2. 調和性(Agreeableness)
- アクター効果: 調和性が高い人は、他者への配慮や思いやりが強く、
対立を避ける傾向があるため、満足度が向上する。 - 具体例: 調和性の高い人は、夫婦間の問題を柔軟に解決しようとし、
関係の調和を維持する能力が高い。
3. 誠実性(Conscientiousness)
- アクター効果: 誠実性が高い人は、責任感があり、計画的に行動するため、
関係の安定性を確保しやすい。 - 具体例: 誠実性の高い人は、夫婦間の約束や役割分担を守り、信頼関係を築く。
4. 情緒安定性(Emotional Stability)
- アクター効果: 情緒安定性が高い人(低い場合は神経症傾向が高い)は、
ストレスを適切に管理し、ネガティブな感情に左右されにくいため、満足度が高い。 - 具体例: 情緒安定性が高い人は、
夫婦喧嘩や外部のストレスに冷静に対処できるため、関係を良好に保ちやすい。
5. 開放性(Openness)
- アクター効果: 開放性が高い人は、新しい経験やアイデアに対して柔軟であり、
夫婦間の新鮮さや創造性を促進する。 - 具体例: 開放性の高い人は、夫婦で新しい趣味や挑戦に取り組むことで関係を豊かにする。
性格特性を活かした夫婦関係の改善アプローチ
ビッグファイブ性格特性の特性に基づいて具体的に設計できます。
以下に、性格特性ごとに具体的な改善アプローチを提案します。
1. 外向性(Extraversion)
- 高外向性の場合:
- パートナーと日々の出来事を共有し、会話を増やす。
- 一緒に友人や家族と過ごす社交的な場を設ける。
- 低外向性の場合:
- 二人だけの静かな時間や小規模な活動を重視。
- パートナーが一人の時間を持てる環境を整える。
2. 調和性(Agreeableness)
- 高調和性の場合:
- 日々感謝を伝え、ポジティブなやり取りを意識する。
- 意見が異なる場合でも妥協点を探り、相手を尊重する。
- 低調和性の場合:
- 自己主張を調整し、相手の感情を配慮した伝え方をする。
- 対話スキルを学び、建設的に対立を解決する。
3. 誠実性(Conscientiousness)
- 高誠実性の場合:
- 具体的な目標(貯金、旅行計画など)を共有し、一緒に達成。
- 日々の計画や予定を明確にし、パートナーと共有。
- 低誠実性の場合:
- 小さな約束を守る習慣をつける。
- スケジュール管理アプリなどを活用し、時間管理を改善。
4. 情緒安定性(Emotional Stability)
- 高情緒安定性の場合:
- パートナーの感情的ニーズに気づき、安心感を提供。
- 感情的な場面でも冷静に話し合いを行う。
- 低情緒安定性の場合:
- マインドフルネスや瞑想を取り入れ、ストレス管理を向上。
- 自分の感情を率直に共有し、サポートを求める。
5. 開放性(Openness)
- 高開放性の場合:
- 新しい趣味や旅行をパートナーと楽しむ。
- パートナーのアイデアにも柔軟な姿勢を保つ。
- 低開放性の場合:
- 安定した計画を重視し、小さな冒険から始める。
- 新しいアイデアに徐々に慣れる段階的なアプローチを取る。
補足: 全般的なアプローチ
- 定期的な振り返り: 夫婦で関係を話し合い、改善点を見つける。
- プロのサポート: カウンセリングを利用して客観的な視点を得る。
- 感謝を伝える: お互いの良い点を認識し、日常的に感謝を示す。
自己理解と相手理解について
自己理解と相手理解は、
良好な関係を維持するための基盤となる重要な要素です。
これらがしっかりしていると、互いの違いを受け入れ、
効果的なコミュニケーションを取ることができ、
関係全体をより良いものにすることができます。
自己理解と相手理解がもたらすメリット
1. 自己理解のメリット
- 自分の性格を知る:
- 強みや課題を理解することで、自分の感情や行動を適切に調整できる。
- 例: 自分がストレスを感じやすいと認識すれば、対処法を考えられる。
- 自己表現がうまくなる:
- 自分の感情やニーズを相手に正確に伝えることで、誤解を防ぎやすい。
- 例: 「ストレスがたまると黙りがち」と事前に伝えることで、相手に理解してもらえる。
2. 相手理解のメリット
- 相手の性格を理解する:
- パートナーの行動やニーズを理解し、不必要な期待や衝突を避けられる。
- 例: 相手が内向的なら、静かな時間を尊重できる。
- 共感力が高まる:
- 相手の感情や価値観を理解することで、絆が深まり適切にサポートできる。
- 例: 「自分だったらどう感じるか」を考えることで、相手の困難をより理解できる。
最後に良好な関係を保つには、
相手を変えようとしない:
相手を理解することは、相手をコントロールすることではありません。
相手をそのまま受け入れる姿勢が大切です。
柔軟性を持つ:
自分の性格や行動を少しずつ調整することを受け入れると、
お互いが成長しやすくなります。
ポジティブな対話を意識する:
批判よりも肯定的なフィードバックを心がけ、
相手の良い面を認める習慣をつける。
ついつい、私たちは相手も自分と同じだと考えがちになります。
それが時間が経つにつて相手のストレスとなり、不満が蓄積していきます。
それが爆発して…とんでもないことに。
お互いの関係を良好に保つには、まずは自己理解から始めて、
相手理解をしていくことが大切だと私は確信しています。
最後までお付き合いただき、誠にありがとうございます。
参考資料
Dyrenforth, Portia S. (2010). 『Big Five Personality and Relationship Satisfaction: Actor, Partner and Similarity Effects』, 2024年12月1日アクセス. https://d.lib.msu.edu/etd/684