大学生と心理的幸福

台湾の大学生を対象にした研究で、
「ビッグファイブ」の性格特性、社会的支援、
心理的幸福感との関係を調べたものです。

この研究では、
社会的支援が特定の性格特性と心理的幸福感の間の
媒介役を果たすかどうかも分析しています。

今回もビッグファイブ分析によりパーソナライズサポートが可能となり、
より細かなケアができることをイメージしていただける内容です。

大学生はメンタルヘルスに敏感?

主な内容

  1. 研究目的
    • 性格特性(外向性、協調性、誠実性、神経症的傾向、開放性)が心理的幸福感に与える影響。
    • 社会的支援がこの関係を媒介する役割を果たすかどうか。
  2. 方法
    • 台湾の大学生848人を対象にした調査。
    • 性格特性、社会的支援、心理的幸福感を測定する標準化された質問票を使用。

Z世代の大学生はメンタルヘルスの重要性をより敏感に捉えやすく、
またそれに対応する柔軟で個別化された支援が求められています。

以下では、心理的応用を支援する教育方針、
キャリア支援、
そして企業での1on1に応用するためのアイデアをお話ししていきます。

Z世代の大学生はメンタルヘルスの重要性をより敏感に捉えやすく、
またそれに対応する柔軟で個別化された支援が求められています。

以下では、心理的応用を支援する教育方針、キャリア支援、
そして企業での1on1に応用するためのアイデアを整理してお答えします。


1. 心理的応用を支援する教育方針

特性に合わせた教育方針の必要性
研究から示唆されるのは、学生個人の性格特性
(例:外向性、協調性、誠実性)に基づいて学びや
支援方法をカスタマイズすることの重要性です。

以下が考えられる教育方針です:

  • 外向性が高い学生: チームプロジェクトやグループディスカッションを重視し、
    社会的交流を促進する。
  • 協調性が高い学生: 他者との協力が評価される活動を用意し、
    助け合いの環境を提供する。
  • 神経症的傾向が高い学生: ストレス管理やマインドフルネスを学ぶ機会を提供し、
    心理的な安全性を確保。
  • 開放性が高い学生: 創造性や自由な発想を評価するプロジェクトを導入。
  • 誠実性が高い学生: 長期的な課題や計画を重視する活動を通じ、達成感を強化。

これにより、学生の特性を生かした学習環境を整えることができます。

2. キャリア支援に応用する方法

性格特性や社会的支援を考慮したキャリア支援は、
学生が自分に合った進路を見つけ、
職場での適応力を高める助けとなります。以下の支援が有効です:

  1. 自己理解を深める機会を提供
    • ビッグファイブ診断を活用し、自分の強み・弱みを理解。
    • 性格特性に基づく職業適性をフィードバック。
  2. 個別化されたキャリアプランニング
    • 外向的な学生には、
      人と関わる機会が多い職業(営業、教育、カウンセリングなど)を提案。
    • 神経症的傾向が高い学生には、
      心理的安全性が確保された職場環境の重要性を強調。
  3. 社会的支援の強化
    • ネットワーキングスキルのトレーニングを通じて、
      職場での人間関係構築を支援。
    • メンター制度やインターンシップを提供し、
      現場でのサポートを強化。

3. 企業の1on1に応用する方法

多くの企業で1on1がうまく機能していない理由には、
マネージャーのスキル不足や目的の曖昧さがあります。
性格特性を理解することで、部下に合わせた1on1を設計できます。

  1. 事前準備としての性格特性診断
    • ビッグファイブモデルを活用して部下の性格特性を理解。
    • 特性ごとにアプローチを変える
      (例:外向的な部下には具体的な目標と称賛、
      内向的な部下には静かな環境でのディスカッション)。
  2. 1on1の目的を明確化
    • キャリア支援:
      部下の強みを引き出し、長期目標を一緒に設計。
    • メンタルサポート:
      ストレス源や心理的安全性について話し合い、
      具体的な改善策を提供。
    • 業務改善:
      具体的なタスクについて話し合い、
      実行可能なプランを提案。
  3. 関係性構築の強化
    • 定期的なフィードバックを通じて信頼を深める。
    • 部下の意見や希望を尊重し、
      双方向のコミュニケーションを意識する。
  4. トレーニングの実施
    • 管理職に心理学的基礎知識を提供し、
      性格特性に基づく対応方法を学ぶ。
    • マネージャー間で1on1の成功事例を共有し、
      継続性を保つ。

1. 性格特性と幸福感

  • 外向性、協調性、誠実性、開放性:
    • 幸福感(心理的幸福感)と正の相関を示しました。
      つまり、これらの特性が高い人ほど、
      自分の人生に対する満足感や心理的安定性が高い傾向が見られます。
    • 特に 誠実性外向性 は幸福感との関連性が強く、
      自己管理能力や積極的な社会的交流が幸福感の向上に寄与する可能性を示唆しています。
  • 神経症的傾向:
    • 幸福感と負の相関を示しました。この特性が高い人は、
      不安やストレスを感じやすく、それが心理的幸福感を低下させる傾向があります。

具体的な統計として、
心理的幸福感と性格特性との相関係数は以下のような結果が得られています:

  • 外向性: 正の相関 (r = 0.44, p < 0.001)
  • 協調性: 正の相関 (r = 0.35, p < 0.001)
  • 誠実性: 正の相関 (r = 0.58, p < 0.001)(最も強い関連性)
  • 開放性: 正の相関 (r = 0.35, p < 0.001)
  • 神経症的傾向: 負の相関 (r = -0.14, p < 0.001)

p値の要点まとめ

  1. p値の意味:
    • p値は、結果が偶然に起きる確率を示す指標。
    • p < 0.05: 統計的に「有意差あり」。
      帰無仮説(例:「差はない」)を棄却し、対立仮説(例:「差がある」)を支持。
    • p ≥ 0.05: 統計的に「有意差なし」。
      帰無仮説を棄却する証拠は不足。
  2. この研究での具体例:
    • 性差:
      • 社会的支援: 女性が男性より高い (p < 0.001、有意差あり)。
      • 誠実性: 女性が男性よりわずかに高い (p = 0.049、有意差あり)。
      • 幸福感: 性別差なし (p = 0.23、有意差なし)。
    • 性格特性と幸福感の関連:
      • 外向性: 幸福感と正の相関 (p < 0.001、非常に強い関連)。
      • 神経症的傾向: 幸福感と負の相関 (p < 0.001、非常に強い関連)。
  3. まとめ:
    • この研究では、p値を用いて「性格特性」「性差」
      「社会的支援」が幸福感に及ぼす影響の有意性を評価。
    • 女性の社会的支援スコアが高いことや、
      外向性と幸福感の強い関連性など、統計的に有意な結果が明らかにされた。

2. 社会的支援の媒介効果

性格特性が幸福感に及ぼす影響において、「社会的支援」が媒介的な役割を果たすかどうかを調べた結果です。

  • 外向性と協調性:
    • これらの特性が高い学生は、
      他者との交流やサポートを積極的に得る傾向があります。
      この「社会的支援」を介して、間接的に幸福感にポジティブな影響を与えます。
    • 例えば、外向性の高い学生は社交的で積極的に助けを求めるため、
      豊富な社会的支援を受け、それが心理的幸福感を向上させます。
  • 誠実性、神経症的傾向、開放性:
    • これらの特性は「社会的支援」の有無に関わらず、
      直接的に幸福感に影響を与える。
    • 誠実性が高い人は自己管理能力や目標達成への努力が幸福感を高める。
    • 開放性が高い人は新しい経験や学びへの好奇心が幸福感に寄与。
    • 神経症的傾向が高い場合は、
      否定的な感情やストレスが幸福感を下げる直接的な要因になります。

具体的な統計分析では、媒介分析による効果の強さが次のように示されています:

  • 外向性→社会的支援→幸福感: 間接効果 = 0.17(有意)
  • 協調性→社会的支援→幸福感: 間接効果 = 0.14(有意)
  • 誠実性、神経症的傾向、開放性については媒介効果なし。

3. 性差

  • 女性のスコアが男性より高かった特性:
    • 誠実性: 自己管理能力が強い傾向。
    • 神経症的傾向: ストレスや不安を感じやすい傾向。
    • 社会的支援: 他者からの支援を得る能力やその認識。
  • 性差が見られなかったもの:
    • 外向性、協調性、開放性、そして幸福感。

具体的には、性別による平均スコアの比較では以下の結果が得られました:

  • 誠実性: 女性の平均スコアが男性よりわずかに高い (p = 0.049)
  • 神経症的傾向: 女性が有意に高いスコア (p = 0.009)
  • 社会的支援: 女性が男性より有意に高いスコア (p < 0.001, 中程度の効果)

一方で、幸福感に関しては男性と女性の間に統計的な有意差はありませんでした (p = 0.23)。

結論

この研究は、性格特性、
社会的支援、心理的幸福感の相互作用を明らかにし、
特に外向性や協調性のような「社交的な特性」が、
社会的支援を通じて幸福感に影響を与えることを示しました。

一方で、誠実性や開放性などは、
社会的支援の有無に関わらず直接的な影響を及ぼします。
性別の違いも含め、教育方針やキャリア支援、
メンタルヘルスのサポート設計において有用な知見を提供する内容です。

大学生だけでなく広く応用ができる内容となっています。
支援を行う際の参考にしていただければ幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございます。

参考資料

Yu, Min-Ning; Chang, Yu-Ning; Li, Ren-Hau (2024). 『Relationships between Big Five Personality Traits and Psychological Well-Being: A Mediation Analysis of Social Support for University Students』. Educ. Sci., 14(1050). 2024年11月10日アクセス. https://doi.org/10.3390/educsci14101050