「2024年倫理・コンプライアンスプログラム有効性レポート]その4

その3(全5回)からの続きです。
前回はコンプライアンスを落とし込むための、
従業員プログラムについてお話ししました。

ここでは、倫理とコンプライアンスの浸透には、
高度な機能の技術の導入ツールが欠かせません
ではどのような技術が必要なのかをみていきます。

技術の活用

オンライン研修やWebベースの行動規範が増加しているものの、
モバイルアクセスやリアルタイムのデータ分析など、
さらに高度な機能の導入が求められています​。

「高度な機能」とは、
従業員がより効果的に倫理・コンプライアンス(E&C)プログラムにアクセスし、
理解を深め、
組織全体のコンプライアンス文化を強化するために
導入が期待される先進的な技術のことを指します。

具体的には以下のような機能が含まれます:

1. モバイルアクセス

従業員がどこにいてもアクセスできるよう、
E&Cプログラムのモバイル対応が重要視されています。
モバイルアクセスの具体的なメリットと機能は以下の通りです。

モバイルデバイスからのアクセス

スマートフォンやタブレットから研修プログラムや
行動規範にアクセスできるようにすることで、
時間や場所を問わずにコンプライアンスに関連する
トレーニングや情報を確認できるようになります。

これは特にリモートワークや外回りの多い業務に
従事する従業員にとって利便性が高まります。

通知機能

従業員に対して新しい規則やポリシーが追加された際、
モバイルデバイスに通知を送ることができる機能。

これにより、
タイムリーに重要な情報を従業員に伝達することができます。

2. リアルタイムデータ分析

リアルタイムのデータ分析機能は、
E&Cプログラムが効果的に機能しているかどうかをリアルタイムでモニタリングし、
問題が発生した際に迅速に対処するための機能です。

従業員のトレーニング進捗状況の追跡

トレーニングの完了率や理解度をリアルタイムで監視し、
必要に応じてサポートや追加の指導を提供することができます。

行動傾向の分析

従業員の行動データを収集・分析することで、
組織全体のコンプライアンスリスクを早期に察知し、
リスクの高いエリアや従業員に対して個別の対策を講じることができます。

コンプライアンス違反の予兆検知

リアルタイムのデータ分析により、
異常な行動やパターンを検知し、
コンプライアンス違反が発生する前にリスクを軽減するアプローチが可能です。

3. インタラクティブなトレーニング

従来の座学的なトレーニングではなく、
インタラクティブな要素を取り入れたトレーニングが効果的です。
高度な機能の一例としては、次のものが挙げられます:

シミュレーションやゲーム化

従業員が実際にコンプライアンスに関するシナリオを
体験できるシミュレーションや、
学びを促進するためのゲーミフィケーション要素を取り入れた研修プログラム。

これにより、
従業員は現実的な状況で適切な対応を学ぶことができます。

VR/AR技術

バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)を用いて、
よりリアルな状況でのトレーニングを提供し、
倫理的な意思決定力を高めることが可能です。

4. パーソナライズドコンテンツ

従業員一人ひとりの役割やリスクに応じたコンテンツを提供することが求められます。
具体的な方法は以下になります。

個別対応のトレーニング

従業員の役職や業務内容に基づき、
必要なコンプライアンス知識やスキルに焦点を当てた
個別対応のトレーニングを提供する機能。

例えば、
営業職には顧客データの管理に関するトレーニング、
管理職にはリーダーシップと倫理的意思決定に関する
トレーニングをカスタマイズして提供することができます。

リスクプロファイリング

従業員の行動履歴や業務内容に基づいて、
リスクプロファイリングを行い、
それに基づいてトレーニング内容を最適化する機能。

5. AI・機械学習の活用

AIを活用して、
従業員が抱えるリスクやトレーニングの効果を自動的に分析し、
適切な対応を提案する機能が求められています。

自動リスク評価

AIを使って従業員の行動データを分析し、
潜在的なコンプライアンスリスクを予測・評価する機能。

自然言語処理(NLP)

従業員が提出した報告書やコミュニケーション内容を自動的に解析し、
コンプライアンス違反の可能性や不正な行動を早期に検出する技術。

6. データセキュリティとプライバシー保護

高度なセキュリティ機能も不可欠です。

特に、以下のような対策が必要です:

データ暗号化

従業員のトレーニングデータや行動履歴が外部に漏洩しないように、
すべてのデータを暗号化して保管・伝送する機能。

アクセス制御

従業員ごとにアクセス権限を細かく設定し、
機密性の高い情報への不正アクセスを防ぐ機能。

まとめ

高度なE&Cプログラムの機能は、
単なるコンプライアンス遵守にとどまらず、
従業員のエンゲージメントを高め、
実際の行動に結びつけるためのツールとして機能します。

モバイル対応やリアルタイム分析、
AI技術の導入など、
これらの技術を活用することで、
コンプライアンスのリスクを軽減し、
組織全体の倫理文化をより強固なものにしていくことが求められます。

取締役会の関与

81%の日本企業が、
取締役会にE&Cプログラムを監督する委員会を設置しており、
取締役会の役割が重要視されているのに、
設置しない取締役会も存在します。

取締役会が倫理・コンプライアンス(E&C)プログラムを監督する
委員会を設置していない理由として、いくつかの要因が考えられます。
以下に具体的な理由を挙げます。

1. 優先順位の違い

取締役会の主な役割は、
企業の経営戦略や財務面を監督することです。

そのため、
倫理・コンプライアンスの監督が必ずしも
最優先事項と見なされないことがあります。

特に短期的な業績に重きを置く場合、
E&Cプログラムの監督が後回しにされることがあります。

2. 法的要件の不足

一部の国や業界では、
取締役会にE&Cプログラムの監督を行う委員会を
設置することが法的に義務付けられていません。

日本企業の多くが法的に求められる範囲での
コンプライアンス対策を講じているため、
取締役会が積極的に関与する必要性を感じていない場合もあります。

3. 専門性の欠如

取締役会メンバーの中には、
E&Cに関する専門的な知識や経験が不足している場合があります。

そのため、
E&Cプログラムの監督を法務部門やコンプライアンス担当者に委ね、
取締役会が直接関与しないケースが見られます。

E&Cプログラムに対する理解が十分でない場合、
委員会の設置や監督が適切に行われない可能性があります。

4. 組織の規模とリソースの制約

特に中小企業では、
取締役会がE&Cプログラムを監督する委員会を設置するための
リソースや人材が不足している場合があります。

こうした企業では、
E&Cに対するリソースを他の重要な経営課題に
割り当てることが優先されることがあります。

5. 文化的要因

日本企業では、
組織のヒエラルキーや役割分担が明確であり、
コンプライアンス関連の監督は主に法務部門や
専任のコンプライアンス担当者に委ねられる傾向があります。

そのため、
取締役会が直接監督を行わなくてもよいと
考えられる文化的な背景があるかもしれません。

6. 取締役会の規模や構成の違い

取締役会の規模や構成によっても、
E&Cに対する関与の程度が異なります。

小規模な取締役会では、
個別の委員会を設置するほどの余裕がないことが多く、
全体としてのE&Cプログラム監督が行われない場合があります。

まとめ

取締役会がE&Cプログラムの監督委員会を設置していない背景には、
優先順位、法的要件の不足、専門性の欠如、リソースの制約、
文化的要因などが関与しています。

今後、E&Cの重要性がさらに認識されることで、
これらの企業も取締役会の役割を強化していく可能性があります。

外部に対してのリスク

取締役会が倫理・コンプライアンス(E&C)プログラムを監督する
委員会を設置しない場合のリスクをみていきます。

1. 企業の信頼性の低下

取締役会がE&Cプログラムの監督に積極的に関与していない場合、
ステークホルダー(株主、取引先、顧客、規制当局など)は
その企業を信頼しづらくなる可能性があります。

特に、
E&Cの重要性が高まっている現代のビジネス環境では、
外部から「コンプライアンスに対する取り組みが不十分だ」と見なされ、
企業の評判に悪影響を及ぼすリスクがあります。

2. 規制当局からの監視強化や罰則

特定の業界や地域では、
E&Cプログラムに対する監督が規制当局から求められる場合があります。

取締役会がE&Cプログラムを十分に監督していない企業は、
規制違反や不正行為が発生した際に、罰金や制裁を受けるリスクが高まります。

特にグローバルなビジネスを展開している企業においては、
海外の規制に対応するために強力なE&C監督が必要です。

3. 投資家やパートナーシップの喪失

多くの投資家は、
企業のガバナンスやコンプライアンス体制を重視しています。

取締役会がE&Cプログラムの監督に積極的に関与していない企業は、
ESG(環境・社会・ガバナンス)評価が低くなる可能性があり、
長期的な成長の見込みが低いと判断されることがあります。

この結果、投資家の関心を失い、資金調達が難しくなるリスクがあります。

また、ビジネスパートナーにとっても、
コンプライアンス体制が不十分な企業との取引はリスクが高いと見なされるため、
取引先が敬遠される可能性があります。

4. 内部不正や違反のリスク増大

取締役会がE&Cプログラムを監督しない場合、
企業内部での不正やコンプライアンス違反を発見し、
迅速に対応する能力が低下します。

この結果、
内部不正やコンプライアンス違反が拡大し、
企業全体のリスクが増加する可能性があります。

これにより、
後から修復不可能な損害を被る恐れがあります。

5. リスク管理の不備と競争力の低下

コンプライアンスや倫理に対するリスクを管理できていない企業は、
長期的な競争力を失うリスクがあります。

取締役会がE&Cプログラムを監督しないことで、
市場から信頼されず、競争力が低下する結果を招く可能性があります。

特に、
倫理的なビジネス慣行が競争優位の要素となる市場では、
このリスクが顕著です。

まとめ

取締役会がE&Cプログラムの監督に関与しないことは、
企業の信頼性、法的リスク、投資機会、
内部の統制、競争力において大きなリスクを伴います。

これらのリスクを防ぐためにも、
取締役会が倫理やコンプライアンスに関与することは、
企業の持続可能な成長のために重要です。

参考資料

倫理・コンプライアンス・イニシアティブ (ECI)『2024年倫理・コンプライアンス(E&C)プログラム有効性レポート』、2024年、  2024年倫理・コンプライアンス(E&C)プログラム有効性レポート