「2024年倫理・コンプライアンスプログラム有効性レポート]その2

前回(全5回)はレポートの内容と、コンプライアンスの浸透には、
価値観に基づくプログラムが必要で、なぜ、
価値観に基づくプログラムの導入が少ないのかについてお話ししました。

ここではコンプライアンスを組織へ落とし込むには、
経営指針や経営理念の浸透がいかに重要かをお話ししていきます。

経営指針や経営理念等が浸透していないと

経営指針や経営理念(企業理念)が十分に浸透していないことが、
価値観に基づくプログラムの導入が少ない理由の一つとして考えられます。

レポートでも、
日本企業では規則重視から価値観重視への移行が
遅れているとされており、
価値観に基づくプログラムを導入している企業は27%にとどまっています​。

これは、
多くの企業で経営理念や指針が従業員の日常業務に十分に反映されていない
または従業員がそれを行動の指針として十分に活用できていないことを
示していると考えられます。

理念自体は掲げられているものの、
トップマネジメントやリーダーがそれを具体的な行動として示し、
従業員全体に浸透させる取り組みが不足しているケースが多い可能性があります。

さらに、
価値観や理念をただ掲げるだけではなく、
その実践が重要であり、
企業文化として根付かせることが課題となっています。

リーダーシップの行動が理念と一致していない場合、
従業員は理念に従うことに対して疑念を抱くことも考えられます​。

したがって、
価値観や理念を企業全体に浸透させ、
それを基にした行動や意思決定を促進するためには、
さらに強化された取り組みが必要であると言えます。

指針や理念を通したベンチマークを示す

指針や理念に基づいたベンチマークを示すことは、
企業がその価値観をどの程度実践しているかを評価し、
改善するための重要なステップです。

ベンチマークを設けることで、
企業は経営理念や指針が組織全体に浸透しているか、
どのように行動に反映されているかを客観的に測定し、
効果的なプログラムの推進につなげることができます。

具体的には、次のような指標が考えられます。

リーダーシップの実践

経営層が経営理念に基づいてどのように意思決定を行っているかを測定。

従業員の行動

従業員が日常業務で価値観や指針に沿った行動をどの程度取っているかを評価。

組織文化の評価

価値観が企業文化にどのように影響しているかを定期的に調査し、
その結果を共有。

これらのベンチマークを明確にすることで、
企業は価値観や指針が単なるスローガンに終わらず、
実際の成果や組織パフォーマンスにどのように貢献しているかを示すことができ、
組織全体の倫理文化を強化する助けとなります。

日本の経営陣のE&Cに対する姿勢

経営陣のコンプライアンスリスクに対する積極的な
姿勢がグローバルな基準と比べて遅れていると報告されています。

E&CプログラムがCEOに直接報告する割合は12%にとどまっており、
法務部門への報告が多い状況です​
なぜこのような状況になっているのでしょうか。

1. 法務部門の強い役割

日本企業では、
コンプライアンスやリスク管理が従来、
法務部門の主導で行われることが多いです。

法務部門は、
法律や規制を守ることに強い責任を持ち、
リスク管理の中心的役割を担ってきました。

このため、
倫理・コンプライアンス(E&C)プログラムの報告先として、
CEOではなく法務部門が選ばれることが一般的になっています​。

2. 経営トップの関与不足

E&Cプログラムの重要性が認識されていても、
トップマネジメント、
特にCEOが積極的に関与するケースが少ないことも一因です。

倫理やコンプライアンスに関するリスク管理は、
短期的な利益に直接結びつかないとみなされることが多く、
経営の最優先事項とされない場合があります。

その結果、
CEOがE&Cプログラムの報告を受ける割合が低くなり、
法務部門にその役割が集中しがちです​。

3. 文化的要因

日本の企業文化では、
ヒエラルキーや組織内の役割分担が重視される傾向が強く、
専門領域ごとに報告体系が明確に分かれていることが多いです。

E&Cに関しても、
法務部門が専門的知識を持つ部門として担当し、
他部門との連携が限定的になるケースがあります。
CEOが直接介入するよりも、
法務部門を通じて管理するほうが安全だという認識がある場合もあります​。

4. コンプライアンスリスクへの認識の差

日本企業は、
リスク管理において法的なリスクを重視する傾向が強く、
倫理的な側面や企業文化に関するリスクに対しては、
グローバル基準と比べて意識が低いことがあります。

これは、
E&CプログラムをCEOが直接管理する必要性が十分に認識されていない
要因の一つです​。

これらの要因が組み合わさり、
日本ではE&CプログラムがCEOに直接報告される割合が低く、
主に法務部門に依存している状況が続いています。

E&Cプログラムが経営の最優先事項にされない理由

倫理やコンプライアンスに関するリスク管理は、
短期的な利益に直接結びつかないとみなされることが多く、
経営の最優先事項とされない場合があります。

倫理やコンプライアンスに関するリスク管理は、
自社だけでなく、取引先や関わる人財、
つまり相手企業も含まれることになります。

倫理やコンプライアンスに関するリスク管理が取引先や
関わる人材を含めた広範な視点で捉えられていない場合、
重大な問題が発生する可能性があります。

情報漏洩

この問題が起こった場合、
自社だけでなく、
取引先や他のステークホルダーにも甚大な損害を与え、
信頼を損なうことで、
ビジネスそのものが立ち行かなくなる可能性があります。

リスクの長期的な影響範囲の認識不足

日本の企業では、
こうしたリスクの長期的な影響についての認識が十分に
高まっていないケースがあるのかもしれません。

短期的な利益や法的な規制への対応を優先し、
倫理的リスクや信頼に対するリスクの重みが軽視されていることが一因です。

結果的に、
ビジネスパートナーとの信頼関係や、
組織全体のリスク管理が十分に考慮されていないという可能性があります。

グローバルビジネス環境におけるコンプライアンス

特に、グローバルなビジネス環境では、
情報漏洩やコンプライアンス違反は即座に国際的な影響を及ぼす可能性があり、
その影響の深刻さが過小評価されると、
後に取り返しのつかない結果を招くことが考えられます。

このような視点が欠けているため、
リスク管理が最優先事項として扱われない場合もあると言えます。

このように、
経営陣がリスクの広がりや長期的な影響を予測しきれていない場合、
特に情報漏洩や倫理的問題に関するリスクが軽視される可能性があり、
信頼喪失のリスクはビジネスにとって非常に大きなものです。

参考資料

倫理・コンプライアンス・イニシアティブ (ECI)『2024年倫理・コンプライアンス(E&C)プログラム有効性レポート』、2024年、  2024年倫理・コンプライアンス(E&C)プログラム有効性レポート